中編3
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老婆と砂浜の親子

少女Aの後日談の2。

俺の彼女K。

一つ年上のKはつかみどころのない不思議な女の子。

世間では電波とか言われる類いで、友人達も「なんであんな女?」と言ってるが、愛に理由はいらない。

と言うかそこはアンタッチャブル…

そんなKを含めた友人Hとその彼女Iと俺の4人で海に行く事になった。

IはAを俺に紹介した手前、複雑な表情だ。

日曜日の朝俺はKを迎えに行ったのだが、ばつの悪い事にAも一緒に外で話していた。

「あちゃ〜」俺は塀の陰にかくれたが、目ざといKは

「あ!?ダーリンみっけ♪」とヒールで躓きながら駆け寄って来る。

付き合って数ヶ月も経つとKの一挙一動には慣れたつもりだったが…

Aの前ではしゃぐなよ!

普段ダーリンなんて言わないくせに!

「……………」

終始無言だったAの視線が痛い。

俺とKが駅のバス停に着くと既にHとIは待っていたのだが、Kの格好を見て固まっていた。

海に行くと言うのに「いまから面接ですか?」と見間違うようなリクルートスーツ姿。

何か言いたげな2人に俺は黙って頷いた。

1時間ほどで目的地の海に着いた。

海の日間近ということもあり、結構な人が出ていた。

俺達は人が少ない場所を選び、シートを敷きビーチパラソルを立てた。

気温もかなりあったので、俺とHはTシャツと短パンを脱ぎ海パン一丁になる。それを見たIはKに

「私達は向こうで着替えてこよう」と誘ったのだが、Kはいきなり脱ぎだした。

そう、スーツの下は水着………って、おい!!

下着じゃん!

「水着は?」と聞くとKは「え?泳ぐつもりないから持ってきてないよ」とアッサリ。

「じゃあ服脱いでどうするつもりだったんだよ!?」

「いやあ、Gが喜ぶと思って♪」

さすがにイラついた俺は

「喜ぶ?周りが?……みんな見てるぞ!早く着ろ!」とタオルを被せた。

「キャハッ!ヤキモチ妬いてるぅ〜♪」

ああ…俺は何しに海へ来たのだろう?

楽しく遊ぶHとIを見ながらKとパラソルの下でボーっとしている。

「ねぇーねぇー♪あれ見て♪」

木の棒切れで俺の肩を突っつきながら楽しそうにKが言う。

痛い。尖ってる方で突かないで!

「何?」とぶっきらぼうな態度でKの指の先を見る。

「???」

親子連れ…だが何か変だ。

砂浜で楽しそうに遊ぶ5才くらいの男の子と、それを見守る30才くらいの旦那と同い年くらいの奥さん。

その真横に海に似つかわしくない、白い着物姿でやけに青ざめた老婆が佇んでいた。

「あれってまさか…」

「わかったぁ?Gってやれば出来る子なのね!お姉ちゃん嬉しいよぅ♪」

と素っ頓狂な返答に困ったが、冷静になり

「あの婆さん幽霊?」と聞くとKは両手で俺のほっぺたを引っ張り

「あのオババのどこが幽霊?幽霊はあの3人でしょ?本当に私がついてないとダメダメね!見てなさい」

「そうなの?どっちかと言えばお婆さんの方が顔色悪いけど」

俺の言葉は耳に入ってないようで、Kは止めるのも聞かず老婆の方に歩き出す。

身振り手振りを混ぜ、横を見ながら老婆と話すK。

しばらくすると老婆は泣き出してしまった。

「Kが何かやらかした!」

と思った俺は急いで2人の元へ向かう。

近づくとKも涙ぐんでいるようだ。

「どうしたの?」と聞くとKは涙をぬぐいながら

「このオバ…お婆さんの息子さん一家が3年前にこの海で死んじゃったんだって。それで毎年この時期になると海に息子さん達を返してくれってお願いしてるんだって。私達には見えるのにお婆さんには見えないみたい…可哀相…」

そう泣きじゃくるKを見た息子さん家族らしき3人は、寂しそうな笑顔を浮かべ消えていった。

本当だったんだ…

お婆さんは「ありがとう」と何度も頭を下げ立ち去った。

「教えてあげたんだ…意外に優しいんだね」

と言うとKは

「そ…そんなことないわよ!バカなこと言って!」

……と、グーパンチ。

そして鼻血を出した俺に「ゴメンね♪」とキンカンを塗ろうとするK。

その後、ケロッとしたKに帰るまで振り回されたのは言うまでもない。

HやIには謝っておいたが、まぁKは楽しそうだったのでヨシとするか。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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