うちは結構田舎で農業を営んでいて、高校卒業後は俺も家業を手伝っている。
まわりは畑や山ばかり。
本当にのどかで昔ながらの日本の風景って感じ。
俺の家から10分歩くと友人Aの家があるのだが、Aの家の入り口に大きな石があった。
高さ2m以上、幅も1m以上はあるとても重そうな石だ。(石というより岩?)
Aとは幼稚園からの付き合いで、その時には既にあったから相当昔からあるのだろう。
Aは昨年祖父が亡くなり、今は両親との3人暮らしだった。
ある雨上がりの夕方、仕事にならないので久しぶりにAの家に飲みに行った。
何気なく入り口の石を見ると、表面に変な模様が浮かび上がっているように見えた。
(人面…石?まさかな…)
あまり気にしないように中に入ると、疲れた様子のAが迎えてくれた。部屋に入るとAは
「T(俺)、入り口の石見た?何か変じゃないか?」
「変て?何が?…そういえば何か模様が浮いてたな…」
Aは酒を置き、「やっぱりな…」とため息をついた。
「それがどうかしたのか?」
と聞くと、暗い表情のAは
「先週なんだけど…」
と語り出した。
以下Aの話。
10日程前、石の表面に丸い模様が浮かび上がった。
最初は傷でも付いたのか?と気にしていなかったが、その夜Aは夢を見た。
夢の中のAは石の前に立っているのだが、どうしてもその場から動く事が出来ず立ち尽くしていた。
すると石がAに語りかけてくる。
(話すというより頭の中に低く響き渡る感じ)
『お主に問う…右か?左か?真ん中か?』
驚いたAは何も答えずジッとしていると、石は何度も何度も問う。
『お主に問う…右か?左か?真ん中か?』
怖くなったAはついに「真ん中」と答えてしまうのだが、そう答えるとAは動けるようになり目が覚める。
覚めると必ず朝らしい。
「何だそりゃ?」
と少し馬鹿にしたように笑うとAは
「笑い事じゃねぇ!これを見ろ!」
と上着の袖を捲り見せた。Aの右腕と左腕には、昔の罪人が彫られたようなどす黒い輪っか状の痣がある。
痣は幅10㌢くらいのものが左右の腕に1本ずつあった。
「こ…これは?」
「毎晩その夢を見るんだ…よく分からんが問いに間違わなきゃ普通に目が覚めるんだが、間違えてしまうと…」
俺は息をのみ「…間違えたら?」と思った事を聞く。
「間違えたら黒い影が何人も現れて、体の一部分を引きちぎるんだ!あと6日って呟きながら!……そして朝起きたらこの痣が!」
Aは泣き叫んだ。
「信じられない…それにあと6日って…?」
俺が呆然としているとAは泣き笑いながら
「もう6日もねぇよ!これ見ろよ!」
ジーンズと服を脱ぎ捨てると、左右の足と胴回りにも痣があった。
それにとっくりセーターで気づかなかったが首にも…
「寝ないように、寝ないようにって思ってもどうしても寝ちまう!…今朝はいよいよ1日だって!」
なんて言ったらいいのか分からなかった。
信じたくないが、夢で起きてる事が関係しているのは間違いなさそうだ。
泣き崩れるAに
「親には言ったのか?石の模様は何なんだ?〇〇さんとこの住職さんには相談したか?」
と矢継ぎ早に聞いたが、答えられるような状況じゃなかった。
徐々に落ち着きを取り戻すAは静かに口を開く。
「親には言ったよ。そしたら住職に電話して来てもらったが、『申し訳ないが自分じゃ力になれない。このままだと持って一週間』ってよ。それで住職の知り合いの霊能者にも見てもらったけど、石を見たら逃げ出しやがった。神が宿っているとか言ってたな…俺も朝起きたら毎日石を見に行ってたんだが、俺の痣が増える度、石の模様がはっきりと浮かんでくるから怖くなって最近じゃ見てねぇんだよ…」
ショックだった。
Aは死ぬのだろうか…
頭の良くない俺は必死に考えた。
時間がいたずらに過ぎて行くだけだった。
「T、悪かったな。こんな気分悪い話して…今夜はやっぱ駄目だわ。親父達と呑むから帰ってくれないか?来週でもまたゆっくり呑もうや!」
と気丈にもAは涙を拭い笑っていた。
俺が見たAの最後の笑顔だった。
Aの部屋を出ると、Aの父親が近寄って来て泣きながら俺の手を握りしめた。
母親もうずくまるだけだった。
次の朝Aは死んだ。
苦痛な表情を浮かべていたそうだ。
Aの葬式が終わった後、俺は泣きながら住職に問いただした。
「なんでAは死ななきゃならなかったんだ!神様のクセにどうしてAを殺したんだ!教えてくれ!」
「T君、この世には私らのような者にも力及ばぬものが多々ある。A君を連れていったものは邪悪とはいえ、まごうことなく神様だったのだから…」
住職はそれ以上語らなかった。
話は以上だが、それからAの両親は離婚して家は空き家だ。
土地は未だ売れていない。あの石も残っているが、不思議な事に模様は消えている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話