短編2
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大脱出

あれは10年程前の夏の出来事。

心霊スポット巡りに明け暮れていた僕は、友人から聞いた曰く付きの心霊スポット、大阪のM市にあるI邸へ男4人で向かった。

I邸は坂道の頂上付近にあり、車の進入は不可能なため、坂の下に車を停めて歩いて行くことになった。

坂道の右側は木々の生い茂る山で、野生動物の鳴き声が僕達を招いているかのように聞こえる。

左側は小川が流れており、その向こう岸には大きな老人ホームが建っていた。

ほどなく、右側の山間に少し小さめの寺が見えた。

そしてその奥隣が件のI邸である。

その付近では知る人ぞ知るスポットらしく、霊感のない僕でも、辺りに漂う不穏な空気に神経が研ぎ澄まされていくのがはっきりと感じられた。

築80年はゆうに越えているであろう木造二階建ての一軒家。

一歩中に入ってみると、1982年9月のままで止まっているカレンダーが目についた。

リビングであろう部屋には倒れたコップと埃のつもった皿。

その昔ここで生活していた者がいたことを如実に語る小物達。

まるで人間だけが消えたかのような空間。

僕達の恐怖感は最高潮に達した。

しかしというかやはりというか、特にその後心霊現象のようなものは起こらず、そろそろ帰ろうということになった。

その時、このスポットを教えてくれた地元の友人Kがこう言った。

「怖いのはここからや。」

全く意味が分からず問いただしてみる。

彼の答えはこういうことだった。

そもそもこのI邸には、それはそれは幸せな4人家族が住んでいたそうなんだが、父と母が相次いで亡くなり、残された子供2人は親戚に預けられたとのことで、じゃあなぜこの家が残っているかというと、生前仲の良かった隣の寺の住職が買い取ったらしいのだ。

ここまでを説明したKは次にこう言った。

「ということはここは誰の土地や?」

「そら住職やろ。」

「その住職なぁ、俺らみたいな不法侵入するやつ捕まえては、改心するまでシバき倒しよる。

ちなみに空手3段や。得意技は後回し蹴り。俺の連れその蹴り食らっとる。」

「そ、そいつどないなってん?」

「3日間自分の名前思い出されへんかった。」

「ほ、本気やん!本気で蹴ってるやん!」

「当たり前やないか。殺す気できよる。

ええか、今から脱出や。ただ、このまま帰ったかて何もおもろない。

おっさん叩き起こして逃げるんや!」

ごめんなさい。

続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー たびがらすさん  

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