長編10
  • 表示切替
  • 使い方

地獄の森Ⅱ

地獄の森の続きです。

雨が降っていたせいで気が滅入った。かなり強く降っていたから

「今日はどこにも行けねーなー」なんて思いながら台所で飯を食った。

居間に行くとお祖母ちゃんがお茶を飲んでた。普段はそんなに改まって

話すこともないのに、ふと「地獄の森」の事を知ってるか気になった。

祖母「今起きたんかい?夜遊びばっかりして。お母さんに面倒かけるんじゃないよ」

俺「うん…。ところでお祖母ちゃん、○川のところにある森知ってる?

俺達は地獄の森って呼んでるんだけど…」

祖母「あんたあんなとこに行ったの?」

俺「いやいやいや、行ってないよ。子供の頃有名だったからさ」

お祖母ちゃんが予想外に否定的な反応したせいか思わず嘘をついてしまった。

俺「友達と話してたらちょっと思い出してさ、今度行ってみようかって話しに

なっただけ。行かない方がいい?」

祖母「あんなとこ行ったってしょうがないからね、変なとこ行くんじゃないよ」

俺「変なとこって…何かあんの?」

祖母「別に何もないけどね…用も無いとこに行くもんじゃないの」

少し怒っているように見えた。明らかに何かあると子供ながらに感じたよ。

俺を近付かせたくないみたいだった。

当然、俺の頭の中では昨日の出来事を連想していた。中々事実を

切り出せなくて困っているとさらにお祖母ちゃんが続けた。

祖母「あそこはねぇ、お祖母ちゃんが子供の頃から近付くなって言われてたのよ?

良くない噂も多いし…近付いちゃ駄目よ?」

何も無いって言ってたのに…。

最後は諭すような話し方だった。俺は生返事をして部屋に戻った。

煙草を吸いながらぼーっとあの森での事を思い出していた。

俺達が知ってる「地獄の森」の噂ってさ、共通点が無いんだよ。

それに俺達が見た社や鏡、お面の事なんか全く出てこない訳。

一つ目は殺された姉妹。

二つ目は四百年前の怨霊。

三つ目が白い服の老婆。

他にも噂があるのか、或いは全部噂に過ぎないのか、真相は何なのか…

なんて分かるはずも無い、とりとめも無い事を考えていた。

それに、昨日のB…。何が起きたんだろう。普通じゃなかった。

Bはどっちが欲しかったんだろう? 正直、どっちも怪しい。

お面を手にとってほくそ笑む姿や鏡を覗き込みながら満ち足りた顔を

しているBの姿が浮かんできた。

浮かんできてはその度に頭の中の映像を掻き消した。

とりあえず、Aに電話してみる事にした。Bじゃなかったのは…。

もし電話してBに何か起きてたらと思うと怖くて電話出来なかったからだった。

俺「A?特に用事があったわけじゃねーんだけどさ…」

A「いや丁度良かった。お前今暇?ちっとヤバそうなんだよ。

  さっきBに電話したら何かおかしいんだよ」

不安が増してきた…。

俺「おかしいって?」

A「おぉ、何かずっと昨日の話ばっかでよ。何で止めたのかとか、

お前は欲しくないのかとか言い出しててよ…。邪魔してんじゃねーとか

言われて頭来たんだけどよ…ヤバイよな?」

A「とりあえずこれからBんとこに行くわ。お前どうする?」

俺「俺も行くよ。Bの家でいいんだろ?」

A「じゃあBん家の横にある自販の前で待ち合わせな」

嫌な映像が頭の中で流れてた。…多分Aも同じだっただろう。

昼間だったし、雨だったから(中坊らしく)傘差しながらチャリンコに

乗ってBの家に向かった。 お祖母ちゃんには本当の事話した方が

良いかもなんて考えはチラついたけど、何となく言い出しにくくて

それはしなかった。

Bの家に着くと、いつものように自販の横で煙草を吸いながら俺を

待っていたAと合流した。 玄関でBを呼び出したけどBはいなかった。

Bのお母さんが出てきてこう言ったんだ。

「あれ?A君と遊びに行くって出てったわよ?一緒じゃないの?」

Bはきっと森に行ったんだと思った。それ以外考えられなかったし、

雨の中で社の前に立つBを想像していた。

Bのお母さんには適当に話を合わせて俺達はすぐに森に向かった。

雨のせいで滅入ってた所に、さらに重苦しい不安が積み重なって来た。

森に着くと早速フェンスを越え中へと進んだ。大粒の雨のせいで物音は

聞き取れなかった。迷った記憶を思い出しながら進んでいくと、

遠くに人影が見えた。Bだ。 

何か迷っているように見えた。

俺「Bー!何やってんだよ!こっちに来いよ!」

A「おーい!風邪ひいちまうぞー!」

俺達は走ってBのとこまで行ったんだ。 でもBはすぐに

走ってどっかに行っちまう。木が邪魔で何度も見失っては探し、

見つけては見失った。

ようやくBに追いついた時には俺もAも息が切れてたよ。邪魔だったから

傘も差していなかったせいでびしょ濡れだった。やっとの思いでBを捕まえて、

逃げ出さないように俺もAもBの腕を掴んでた。

Bは俺達なんか意識の外で…、ずっと「見つかんねぇ…どこだよ?」

「あ〜ヤバいヤバい。早くしねーとヤバイよ…」といった独り言を呟きながら

辺りを見回していた。 時々、聞き取れないくらいの声で何かを呟いてた。 

今思うと、鏡とお面に呼びかけてたのかも…記憶を探ってみると『祝詞』の

ような感じだった気がする。(こじつけかもしれないけど)

Aも俺も、自然と泣けてきた。友達がこんな事になるなんて考えた事も

なかったし何をどうしたらいいかまるで分からなくて…不思議と泣けてくるんだ。

いつも強気で誰に対しても噛み付くようなAが、聞いた事がないくらい優しい

言い方でBに声をかけていた。

A「なぁB、次は俺も一緒に探してやるから…雨が降らない日にしようぜ?

  絶対に、約束するから…。な?頼むよB、一緒に帰ろうぜ」

A「風邪引く前にどっかで休もうぜ?缶コーヒー奢るからよ」

何でなのか理由は分からないけど少し間を置いてBが頷いたんだ。

俺達と視線を合わせてはくれなかったけど、もう独り言は言わなかった。

俺もAも泣きながらBの腕を掴んで、お互いの傘をBが濡れないように差してたよ。

Bと一緒に帰れるって事だけで充分だった。

出口のフェンスを越えていた時だった。雨合羽を着たおじさんに見つかったんだ。

怒鳴りながら小走りで近付いてきた。

「こらぁ!入っちゃ駄目だろ〜。何で入ったんだ?」

俺とAは「すみません」としか言わなかった。早くその場を離れたかったからね。

おじさん「ん?その子どうした?大丈夫か?」

A「平気っス。勝手に入ってすみませんでした…」

おじさん「君達どこの子だ?」

俺「大丈夫ですから気にしないで下さい。俺達もう行きますから」

俺達の様子がよっぽど怪しかったのか、なかなか帰らせてくれなかった。

おじさん「おじさんなぁ、三丁目に神社あるだろ?あそこで神主やってんだ。

ここも管理しててな、たまに見回りに来るんだよ。何かあったんじゃないのか?」

神主って言葉がやけに響いた。最初は顔を見合わせてどうするか悩んでた

俺達は、気が付けば藁にもすがる思いで俺とAは昨日からの出来事を捲し立てた。

結局、俺達三人はそのおじさんのバンに乗って、神社に行く事にしたんだ。

「少し落ち着いて話を聞きたい」って事でさ。

BはまだいつものBに戻ってなかったけど、単にぼーっとしてる感じだった。

もう独り言も呟いてなかった。

神社に着くと、奥にあるおじさんの家で風呂に入らされた。

「俺のせいで風邪引かれたらたまったもんじゃねぇからな」とはおじさんの言葉。

今思うと俺達が遠慮しないように気を回してくれたんだな。神社に戻り、今度は

落ち着いて昨日の事、今日の事を話した。温かいお茶が美味しかったな。

ひとしきり話をして、俺達はおじさん=神主の言葉を待ったんだ。

主「大体分かった。君と君(俺とA)は別になんとも無いんだな?」

A俺「俺は大丈夫っす」

A「それよかBは大丈夫なんすか?」

主「う〜ん…少し待っててくれるか?」

そう言うと奥へと下がって行った。誰かと話しているみたいだった。

戻ってくると、静かにこう言った。

主「大丈夫、今なら元通りになるよ」

A俺「マジすか!?良かった〜!」

主「でもまだ気は抜けないからね。

B君の親御さんには俺から連絡入れておくから、後は任せなさい。」

A「どうなるんすか?」

Aが少しだけ攻撃的な口調で訊ねた。友達を心配しているAの心情を察したのか神主の

おじさんはちゃんと話してくれた。

主「B君はおじさんの知り合いの方に一回見てもらった方がいいんだよ。

大丈夫。信頼できる方だから必ず良くしてくれるよ」

俺「それ何するんすか? お祓いとかすか? いつまでかかるんすか? 

もしかずっとって事になるとか…」

主「いやいや、そんなにはかからないはずだよ。

ただこういうのは順序ってのがあるからね」

A「知り合いってどこにいるんすか?」

主「それは言えないね。言ったら君達行くだろう?それじゃあ駄目なんだよ」

相当疑ったしその後もかなり噛み付いたが、結局はよく分からなかった。

ただそういうモノだと理解して強引に納得した。 何よりBが元通りになるなら

他の事はどうでも良かったしね。

神主さんの電話を受けて、Bのお母さんがやって来た。

続いて俺の親、最後にAの親父さんが迎えに来た。

BとBのお母さんだけを残して俺達はそれぞれ家に帰ることになった。

帰り際に俺達が見た社とその中の物について訊いてみた。

主「それこそ知らなくてもいい事だよ!!」

一言で終らされた。

温厚な人だったけど、この時だけは怖かったな。

Bはその翌日から早速行ってしまった。行先は教えてもらえなかった。

Bのお母さんは変わらずに接してくれたけど…俺達は申し訳無い気持ちで一杯だった。

残された俺とAは、退屈な夏休みを過ごした。

9月に入り、10月が過ぎて11月になっても、雪が降ってもBは戻って来なかった。

俺もAも、進路の事で周りが慌ただしくなっていた。

高校は別々になったけど、Aとはちょくちょく会っていてあの時の事を話し合った。

Bん家の横にある自販で缶コーヒー飲みながら煙草を吸ってみたり、神主さんの

とこまで行っては「もしかしたら帰って来るかも」と勝手な期待をしては

寂しい思いを繰り返していた。  次第に、神社に行ってBがどんな状態なのか、

いつ戻ってくるのか聞く回数も減っていった。

何度かあの森の事を調べようともしたけど、結局教えてくれなかったし

他に知っている人も探せなかった。知る方法も無かった。 

俺達は絶対にあの森の話を誰にもしないって約束した。それだけ後悔してたし、

俺達の話を聞いて誰かがまた辛い思いをするのは嫌だったから。

気付けば、いつの間にか俺達は高校を卒業する年になっていた。

高校を卒業してAは地元で大工になり、俺は受験に落ち、ある種気ままな浪人生活を

送り次の春を迎えた。

俺の邪魔をしないように気を遣って連絡を控えていたAから連絡が来たのは、

奇跡的に大学に受かった一週間後だった。

A「受かったんだって?良かったじゃんよ!とりあえず祝ってやるから出てこいよ!」

誰から聞いたんだか…。  何で俺が言う前に教えちゃうかな。

まあ…やっぱり嬉しかったよ。辛い一年間が終わった事も嬉しかったし、

久しぶりにAと会うのはもっと嬉しかった。

地元の居酒屋につくと、Aが「おい!こっちだよ」と満面の笑みで手を振っていた。

最後に会った時より顔付きは優しくなったけど、ガタイはさらにいかつくなってた。

A「久しぶりだな優等生! お前どんな裏技使って受かったんだ?」

俺「うるせぇ。 俺の引きの強さを知らねぇな?」

久しぶりにAとお互いを馬鹿にしあって本当に楽しかった。

ただ…ここにBがいない事だけが寂しかった。 きっとAもそうだったんだろう。

俺は出来る限りその話題に触れないようにした。

居酒屋を出てふらふらしながらAと歩いた。

煙草を吹かしながら、お互いに言葉も出さずに随分歩いた。

気が付くと、俺達はあの神社の前まで来ていた。 

見上げると、雲一つない空に月が綺麗に佇んでいた。

A「なぁ。 Bに合いてぇな」

俺「…」

A「実はよ、どこにいるか聞いたんだよ」

俺「嘘つくなよ。 誰に聞いたんだよ」

A「ここの爺さん」

俺「なんでお前に教えてくれんの?」

A「仕事でよ、ここを少し直したんだよ。 その後にな…」

俺「どこいんだよ?」

A「○○県」(詳しく言えないけど東北地方ね)

俺「は? なんでそんなとこにいる訳?」

A「神主のおっさんの知り合いに見てもらうって言ってただろ?

んでその知り合いがいるのが○○県にある神社にいるんだとよ」

俺「作んなよ。 俺達に教えてくれる訳ねーじゃねーか」

A「あん時は俺達がガキすぎたんだよ。 こうして社会に出てる姿見て

教えても大丈夫って事で教えてくれたんだよ」

俺「お前、それいつ聞いたんだよ?」

A「去年の年末」

俺「何ですぐ言わねーんだよ!!」

A「お前、大事な事があっただろうがよ」

思い出した。 なんだかんだ言ってAは良い奴だった。

俺が落ち着くまで我慢してたんだと。。。 いかつい癖にカッコつけやがって。

Aの仕事の都合で、二週間後のに俺達はBのいる○○県へと向かった。

すまん! 続くよ。 次は明日の晩です。

(予定では次回が最後です)

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
0
1
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ