中編3
  • 表示切替
  • 使い方

憎しみの果てに②

続きです。

会社を辞め寮を出た私は、連絡先が変わったのでビラを刷り直し、安いアパートを借り質素な生活を続けていました。

幸い1000万近く貯めていたので、週3回飲み屋でバイトしながら日中はビラ配り、それと少しでも情報を集めるため興信所にも依頼しました。

しかし20年近くともなれば、事件も風化して有力な情報も得る事が出来ないまま時間だけが過ぎていきました。

ある夜私は夢を見ました。何度も見た夢。

夢は父と美紀が倒れていたあの光景。

ただ泣き叫ぶ私。

いつまでも、いつまでも…

悪夢にうなされ朝目覚めると、寝汗をかいていた私はシャワーを浴びました。

バスルームを出ると郵便受けに封筒が入って事に気づきました。

誰だろう?引っ越した事を知ってる人は誰もいないはずです。

初めは勧誘の類かと思っていましたが、見ると私宛てになっていますが、差出人不明。

直接投函したようで切手も貼っていません。

少し気味が悪かったのですが、意を決して封を切ると中にはパソコンで打った字で書かれていました。

『突然のお手紙失礼致します。

私は貴方が探している人間を知っています。

ただ、今はまだお教えする事が出来ません。

貴方の長年のご苦労も分かっているつもりですが、もう少しだけ時間を下さい。時期がきたら必ず連絡致しますので』

手紙の内容に私は驚きましたが、同時に怒りがこみ上げてきました。

「ふざけるな!!何がまだ教えられないだ!!父さんや美紀はいきなり殺されたんだぞ!!何が時期がきたらだ!!クソっ!!」

そう叫び、テーブルの上あったペットボトルを壁に投げつけました。

それから一週間が経ち

11月24日

私の31回目の誕生日と父、美紀の19回目の命日。

仏壇に二人の好きだったものをお供えして美紀の為に傍らにはプーさんの人形を置きました。

その後お墓参りをしてアパートに戻ると、玄関の外に小さなダンボールが置いてありました。

その上にはガムテープで貼り付けた封筒。

中に入り封を切ると例のパソコンの文字で

『先日は失礼致しました。今日はお父様と美紀ちゃんの命日ですね。

不躾だと思いましたが、お供え物送らさせて戴きました。

お墓の方にもお参りさせていただく事をお許し下さい』

箱の中には和菓子の詰め合わせが入っていました。

「こんな事したって父さんや美紀は喜ばない!!誰だ!?誰なんだ!?」

私は箱ごと蹴り飛ばしました。

私がうずくまりため息を吐くと、背後に温かい気配を感じました。

振り返ると父さんと美紀が立っていました。

「父さん…美紀…」

二人はいつものように黙って見てるだけです。

「父さん、美紀!俺二人をこんな目に合わせた奴見つけ出して必ず敵討つから!!必ず…」

そう言うと今まで黙っていた父と美紀が口を開きました。

「真司、そんな事を考えるのは止めなさい…お前には苦労かけたが、これからは自分の為に生きるんだ。自分が幸せになる事だけ考えなさい」

「お兄ちゃん…人殺しちゃ駄目だよ。私お兄ちゃんの事いつでも見てるからね」

消える間際、心なしか明るい表情に見えました。

あれから4ヶ月が経ちますが、差出人不明の手紙がくる回数が少しずつ増えて来ました。

内容も父や美紀の事から、私の体調を気遣う文面に変化していました。

この頃になると憎しみよりも「誰なのか?」と言う気持ちが強くなりました。

相変わらず人付き合いがない私の事を知っている人なんているはずないのに…

そう思っていました。

③に続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ