長編12
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地獄の森Ⅲ

遅くなってすみません。 地獄の森Ⅱの続きです。 

これで最後です。 

Aがローンで買ったワゴンで俺達は夜中の高速を北上した。

俺はまぁ良いとして、Aは二日しか休みが無かったのに

「車でってのが良いんだよな! こーゆーのは!!」なんて言ってた。

日帰りで行ける距離だと思ってたらしい。無茶苦茶だよ。

季節的にはもう春に入ってたけど、車で2〜3時間も走った頃には外はか

なり冷え込んでた。道の端にはまだ大分雪が残ってた。

長時間の車移動も、疲れるってよりも興奮の方が大きくて途中インターで

飯食ったりしながら運転を交代しつつ、夜明けまでかけて目的地に向かっていった。

神社の爺さんに聞いた場所を慣れない地図を片手に進んでは停まって地図を見て、

また少し進むって事を繰り返した。

多分ここだろう、って場所に着いた頃にはすっかり日が昇ってた。

車を降りて見回すと、地面に直接木が埋め込まれてる階段が

(こういうのなんて呼ぶんだ?)少し離れたところにあった。

どうやらそこを上って行かないとその神社には辿り着かないらしい。

ここまで来ると春とか関係なく寒さが強烈で、地面はまだまだ

雪があってまともに歩けなかった。ぶるぶる震えながらポケット

に手を突っ込んで登ったよ。

相当時間かかったけど、何とかそれらしい古い建物の前に来た。

お世辞にも綺麗だとは言えなかったな…。

こんなとこに人がくる訳ねーだろってくらい不便なとこに建ってたし、

誰か管理してんのかよ?ってくらい寂れてた。)

Aと二人、神社の正面にしばらく無言で立ってた。

もうさ、散々寂しい思いをしてきたからさ。またそんな事になるってのが

嫌だったんだよ。 もしもここが違う場所で、今日もまた途方に暮れて

帰らなきゃならなくなるって事だけは勘弁だった。

俺達は神社の中を覗き込もうとしたんだけど、鍵がかかってたし

近くに家とかある訳でも無いし、とりあえず周りを一周とかして何か

起きないかって淡い期待を抱いてたんだけど…何も起きなかった。

どのくらいだろ? 2時間くらい? 寒い中うろうろしてたんだけどさ

もう心が折れて「本当にここなのかよ?」って気持ちが溢れてきた。

Aもやたら苛ついてたし、空き缶に溜まった煙草の吸い殻だけが増えていった。

日が暮れ始めた頃、項垂れながら車に戻った。

車の暖気を待つ間お互い無言だった。 計画なんて立てなかったから

今日どこで寝るんだろうとか、民宿に泊まれるかとか風呂入りたいとか、

とにかくどーでも良い事だけ考えてた。

暫くすると、お互い無言のまま神社を離れた。

さすがに体だけじゃなく精神的にも疲弊しきってた俺達に、そのまま

帰るってのは無理な話しだった。 車を走らせ今晩過ごせる場所を探した。

何とか市街地に出る事が出来て、とりあえず晩飯を終わらせ素泊まりできる

民宿に泊まる事ができた。 

風呂に入り、電気を消して暗さに慣れた目で天井を見てた。

俺「今日は疲れたな。 やっぱり新幹線とかのが良かったな」

A「悪い」

俺「明後日仕事だろ? 大丈夫かよ? ちゃんと帰れるか?」

A「ん、まぁ大丈夫だろ」

 

意識して言い争いにならない様にお互い言葉を選んだ。 

疲れてたけど中々寝付けなかったから、途切れ途切れで話しをしてたんだ。 

それでも俺達はまた無言になり、いつの間にか眠りに落ちていた。

目を覚ますとやる気満々の顔になってるAがいた。

A「おう! 早く起きろよ。 すぐに行くぞ!」

俺「???」

A「B探すに決まってんだろうが!」

一緒に来たのがこいつで良かった。 空元気だろうが何だろうが

昨日の敗北感を消してくれたからな。

早速準備をして、また神社に向かったんだ。 ただ、今度はもう少し策を

使おうって事でさ、途中の公衆電話から神主のおっさんに電話をしたんだ。 

(ちゃんと電話番号を持ってるあたりがAの意外なとこなんだよな。

 ちなみにこの時代はいいとこポケベル。携帯があればかなり助かったのにな) 

 

A「もしもし? Oさんですか? Aですけど。 今○○に来てるんすよ」

O「???」

※この後分かりにくくなるからOさんにしときます。

A「あ、いやお爺さんに教えてもらったんすよ。で、場所よく分からないから

電話したんすけど、Bってどこにいんすか?」

(A:やべぇ、すげぇパニくってる!! クヒヒ!!) 

Aのドヤ顔がかなり面白かった。

O「xxxxxxxxx? xxxxxxxxxxxxxxxx、xxxxxxxx。 xxxxxxx!!」

何言ってるか俺には聞こえなかったけど一生懸命何か言ってるみたいだった。

A「大丈夫っすよ。 顔だけ見て安心したら帰りますから。 

え? あ、そうすか? すいません、助かります!!」

電話を切るとAは満面の笑みで「かなりビビってたけどよ、諦めたみてーで

こっちの人に連絡してくれるってよ。あの神社で待ってれば昼前にはBを連れて

来てくれるようにお願いしてくれるって」…強引な裏技いきなり使いやがって。

今考えたら最後のカードをいきなり切ってるようなもんだったな。

昼まで待ちきれなかった俺達は、早速現地について車の中で待つ事にした。

昨日と随分違うのは期待が現実に変わる可能性が高いって事と、俺もAも

それを信じて疑わなかった事だな。

今思うとちゃんと連絡とれるか分からないかもしれないとは一切考えなかったな。

 浮かれてたんだな。

小一時間くらい立った頃かな? 車のバックミラーに人影が映ったんだ。

二人組の男だった。俺達は目を合わせ、頷いた後車から降りて

二人が来るのを待った。一人は背の高い若い男。一人は爺ちゃんって言っても

良いくらいの感じだった。俺達の車の前まで来ると足を止めて無言で立ってた。

すぐにBだって分かったよ。でも、あんなに会いたかったのにいざ会うと

何て切り出せばいいか分からなかった。

「久しぶり」「お前何してたんだよ?」「何で帰ってこねーんだよ?」

どれも正解で、どれも間違えてる気がした。もしかしたら会いたかったのは俺達だけで、

Bはほっといて欲しかったのかもって急に思えて来て怖くなった。

「こんなとこまでわざわざ来やがって…相変わらずお前らどーしよーもねーな!?」

そう言ってBがニカッっと最高の笑顔を見せた。 その瞬間、嬉しさがこみ上げて来た。

俺達の知ってるBだった。

A「何だよお前? わざわざ来てやったのによ? 殺すぞ?」

俺「お前いい加減にしろよ?」

その後はまぁ、言葉が出なくなったんだけどね。三人とも「うんうん」見たいな感じで

頷く事しか出来無かった。

B「あぁ、やべ。 紹介するわ。 俺がこっちで世話して貰ってるOさん」

A「Oさん?」

B「簡単に言うと、俺達の地元の神社の神主さんいただろ? あの人の叔父さんなんだよ。

あの後この人に預かってもらって、恩返しで仕事手伝ってんだ」

この叔父さんが本家筋、俺達の地元の神主さんは分家なんだとさ。分家だけじゃ荷が

重過ぎるって事で本家の力を借りたってのが本音らしい。

積もる話しは尽きなかったから、Bの家で飲み直そうって話しになった。

Oさんに色々面倒見て貰ってて、安いアパートを紹介してもらってそこに住んでるらしい。

話しは大いに弾んだがやっぱり俺とAには気になって仕方の無いことがあった。

「Bがあの後どうなったのか」と「何で今まで帰って来るどころか連絡もしなかったのか」

そして「地獄の森」の真実だ。

話しを切り出しBに訊ねてみると

「もう少し待てよ。来年、いや再来年には多分そっちに帰れるし話せると思うから」って

はぐらかされた。 勿体ぶっているのとは少し違うみたいだし、Bがそう言うならって事で

話題を変え、朝まで三人、しこたま飲んだ。

翌日、二日酔いに耐えながらの車は人生でもワースト3に入るくらい辛かった。

(途中何度も強制的にインターに寄る事になったよ)

それから2回目の夏、あの夏から数えて丸6年、やっとBが帰ってきた。

祝いの酒を楽しみにしていたが俺達の顔を見るなりBの口からは意外な言葉が出てきた。

B「懐かしむ前に、行くとこあるよな? 今から行くぞ」

Bが喜んだり懐かしんだりする素振りも見せなかった事に内心驚いてたが

俺達の事は気にせず、Bは離れて立っていた。

少しすると古いバンがやってきた。車から降りてきたのは神主のおっさんだった。

こっちに戻ってくる前にBから連絡しておいたらしい。俺達を乗せた車は川の方へ

向かって行った。

俺達三人は「地獄の森」に戻って来た。前と違うのはそこには神主のおっさんが

いる事、そして初めてフェンスの扉を「開けて」森に入った事だった。

話すならここが良いだろうってBの提案らしい。

森の中をゆっくり歩きながら、俺とAは「地獄の森の真実」を聞かされる事になった。

(よく理解できない所も多かったし、全部覚えてる訳じゃないけど出来る限り書いてみる)

それは突拍子もない話から始まった。

昔々の話し。

それこそ聞いた俺達(Aと俺)でさへ眉唾になるくらい古いの話し。

もしかしたら話してるOさんとBも自分で言ってて訳分からなくなってんじゃ

無いかってくらい嘘臭い話しだった。

まだそこら中に神様がいるって信じられてた頃、神様に捧げる祈りの一つに

舞ってのがあった。猿楽とか神楽舞とか能とかって概念がまだ無かった頃の話し。

飢饉とか災害とか流行病や侵略で簡単に人が死んでく時代に一人の舞手の男がいた。

この時代の舞ってのがどうも神様に捧げて、天恵を受ける為の大事なものだったらしい。

根本的に、今の芸能の舞とは違った訳だ。

ただ、いつだって神様は応えてくれなかった。

いくら舞を捧げても屍はそこら中に溢れてたし、簡単な事でそれは

増えていった。遂には男が愛する妻と一人娘まで、流行病に侵されて

いつ死ぬかもしれなかった。それでも男に出来る事なんて他には無くて、

一心不乱に神様に舞を捧げてたんだ。

どこから聞いたのか、誰から聞いたのか、男の舞は具体的な手段に変わっていく。

月夜の晩に桂の葉から零れ落ちる夜露を厚め、祈り(舞)を捧げ神に報われる事で

万能の薬が出来上がる。男はその土地で神がいると信じられていた大岩の前で

昼夜を問わず七日七晩祈りを捧げた。

やがて、雫は一口の薬となり八日目の朝、男は動かなくなったからに鞭打って

大切な家族の住む家へと帰った。

万能の薬を手に入れたはずの男が目にしたもの、それはすでに屍となり

腐臭を発する我が妻と娘の変わり果てた姿だった。

すでに精魂使い果たしていた男は、そのまま崩れ落ちるように

その場で息を引き取った。

男が死んだ時、その顔には舞にて被る面がまるで皮膚と一体化しているように

被られたままだった。 土地の司祭(呼び方覚えてない)が神に捧げるための

奉納物として面を預かり、奪いにくる者が現れないようひっそりと保管された。

不思議な事に、その面はいくら年を経ても一向に朽ちる事が無かった。

やがて、時代は動乱を迎え、時代が経つとともに面はその身の置き場所を転々とし、

知る者もいなくなり、何処にあるかさへ忘れられていく。

一度は失われたこの面が見つかったのは大正の初め頃だった。どういった経緯で

そこにあったのか、さる名家の屋根裏から葛篭に入って出て来た。

そして、然るべき管理者という事で白羽の矢がたったのがBがお世話になったO家。

ただ、すでに本家にはご神体があり同じ場所で預かる訳には行かなかった。

ちょうどO家の親族が少しずつ枝分かれし、まだ沼地だった関東に移り住む者が

出て来た、そういった時代と人の流れの中、戦後の混沌から避ける様に

俺達の地元に運び込まれ、やがて森の中に社が建てられ、面は人知れず

静かな時間を過ごしていた。

O家は、神主って立場柄発言力が強かった。

「森に近づくな」ってのはほぼ強制的に当時の住民に対して暗黙の掟になったらしい。

地元に電車が通っていない理由も、駅ができると人が増え森が安全じゃなくなるからって

理由で村全員が反対したって事だった。今から数十年前の話し。

それでも、俺達みたいな奴らはいつの時代もいて、中にはBのようになり

その度に村人に掟を思い出させた。「森に近づくな」

好奇心の強い子供達が近づかないように、「森にはお化けがいる」「行ったら食べられる」

といった噂が根付き、やがて分化していった。

それぞれの噂には元になる実話があって、必ずしも完全にデマって訳じゃないらしい。

例えば殺された姉妹は、50年以上前に突如いなくなり、神隠しにあったと

騒がれた姉妹が社の前で餓死していたって話しが元になっているらしいし…。

やがて、そういった話には長い時間をかけて尾ひれ背ひれが付いたり苔まで

生えてきて本当の形が見えなくなったんだ。 

そしてそれが「地獄の森」の真実。

じゃぁBに起きた事は何だったのか。 Bはその時の事はよく覚えていないらしい。

ただ、一言だけ「あの時は何故か分からないけど俺があの面を被らなければ

いけない気がして仕方なかった」と。

Oさんが言うには、あの面には物凄い力が込められていて、それは人の思いだったり

依代としての霊験だったり。ただ、それは陰の力でしかなくて、とてもじゃないけど

近づいて触れていいモノではないらしい。 

O「Bは魅入られたんじゃないかな? 持ち主としてね」

Bはまだ触らなかったから魅入られていても何とかなったそうだ。

面がBを呼び続ける限りBは元に戻らなかったし、その為には

Bを遠くに「隠す」必要があった。面がBを諦めるまで、忘れてしまうまで、

Bがこっちに戻って来ても大丈夫になるまで誰にも居場所は教えられなかったそうだ。

長い話しをしているうちに、俺達は社の前まで来ていた。

あの晩と、雨の日の光景が頭の中で映像として映し出された。

いくら真相が分かったからといっても嫌な気持ちからは逃げられなかった。

O「もうこの中の面と鏡は他所へ移せたから、心配いらないよ」

0「移す場所を探して、中継に遣う場所を決めて、その土地に礼を尽くして、

面に魅入られないように、怒りを買わない様に、少しずつ移動したんだ。

今ある場所に祀るまで実に6年間かかった、長かったね、長過ぎたよ」

B「Oさん、何から何まで本当にありがとうございました。

お前らも、ありがとうな。お前らが追っかけて来てくれなかったら、俺、多分

ここにいなかったよ」

Aと俺は言葉が出なかった。なんかもう起きてる事が俺達の理解の外で

頭の中がぐるぐる回ってた。 Aはそれでも反応しようとしてたけど「お、おぉ」

みたいな情けない声しか出ないし、俺は声も出ないくらい情けなかった。

混乱しながら森から出て、三人並んで河原で煙草吸いながらボーッとして。

それからBは家に送られて、俺達はまだ河原にいた。

Bが戻って来たって実感が湧いたのは、三日後に三人で集まった時だった、

あれから、祀るモノの無い社は取り壊され、いつの間にかフェンスも消えていた。

あの面は今何処にあるのかは俺達三人は知らない。知りたいとも思わない。

今後出会いたいとも思わない。

長い割には大した事無い話しだけどこんなもんです。

長々と駄文に付き合ってくれてありがとう。

…でもさぁ、あれから随分経ってふと思い出すとさ、腑に落ちない事があるんだ。

ここからは俺の飛躍した想像だし、証拠とか何も無いんだけどさ…。

俺達が聞いた話し自体が『地獄の森」と同じなんだよ。

尾ひれ背ひれがついているのか、あるいは意図的に歪められたのか。

俺達が見たり聞いた物事の中に『鍵』が見え隠れしてる。

これ、月の不死信仰の話しなんだよ。次の五つを並べるとそうとしか思えない。

「月夜」「桂」「夜露」「万能の薬」 そして社にあった「月明かりを映す鏡」

面については分かった。けど鏡の意味は? 一切出てこないんだよ話しの中に。

何で鏡が月明かりを面に照らしてたんだ? 

萬葉集にこんな歌があってさ…

天橋も 長くもがも 高山も 高くもがも 月夜見の

     持てるをち水 い取り来て 君に奉りて をち得てしかも

『をち水』  漢字で書くと  『変若水』 

あまりにも飛躍しすぎていて、これ以上は書かないけど…きっと真実を知ることは

出来ないし知ろうとすること自体禁忌なんだと思う。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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