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ナンディ・ベアとはケニア共和国のナンディ地方を中心に東アフリカ一帯に棲息しているといわれるクマに似た未確認生物である。
体長は3メートル以上ありヒグマよりも大柄で、体型はハイエナのようで顔はクマのように鼻面が長く、耳が小さいものだという。
ナンディ・ベアという名称は地名に基づいた外部的な通称である。現地ではチミセット(チュミセット)とよばれ、もっとも恐れられている動物として一般的に認知されていたようだ。 ケシモット(悪魔)やゲテイト(脳食い)などとも呼ばれている。ゲテイトという名前が表す様に、その食性、性質は非常に凶暴・残酷であるようだ。昔から原住民のあいだでは、夜な夜な人間の村を襲っては、その長い爪で捕まえた人間の頭部を叩き潰して脳髄を食ってしまう巨大な悪魔と言い伝えられているという。
西洋にナンディ・ベアの存在が知れ渡ったのは20世紀に入ってから、ちょうど今から百年ほど前のことになるそうだ。当時のイギリスのある探検隊が、ナンディ地方でクマとおぼしき生物に遭遇した。そこで現地で聞き取り調査をしたところ、以前よりチミセットと呼ばれる生物がいることが判明したそうだ。
チミセットについて詳しく聞いていくと、どうもその正体はアフリカに棲息しているはずのないクマである可能性が出てきた。攻撃するときは二本脚で立ち上がり、木にも登れるなど、寄せられた特徴にもクマに一致する部分が多かったからだ。
しかし、ナンディ・ベアは前脚に比べ後ろ脚が極端に短く、その姿からハイエナの誤認の可能性も指摘された。ただしナンディ・ベアは鬐甲までの高さが、大きいもので1.6メートルもあるといわれているため、ハイエナの中でも大型であるブチハイエナでさえ肩高が1メートルにも満たないことを考えると、その可能性は低いかもしれない。
また、現在こそアフリカ大陸にクマは棲息していないが、以前は、北アフリカにヒグマが棲息していた。そのため、ナンディ・ベアはそのヒグマが南下し、生き残っている個体ではないか、または、独自に発達した亜種か何かではないかとも考えられている。
ヒグマ以外の説では、ドウクツグマの可能性も示唆されている。ドウクツグマは今から1万2千年ほど前まで生き延びていたとされるクマである。だが、やはりその姿は原生のヒグマを大柄にしたような体型であり、ハイエナのような特徴的な体つきはしていない。
ただし、もともとアフリカの原住民はクマという生き物自体を知らない。これは、見たことのない動物に遭遇した場合において、ほぼすべての人間に共通する傾向と言えそうだが、なるべく似たもの、自分が知っている動物に当てはめて考えようとするから、「ハイエナ」のような体型、と証言している可能性も大いに考えられる。
いずれが正体であるにせよ、ナンディ・ベアとされる生物の存在は眉唾とはしがたいといえるのではないだろうか。パンダやマウンテンゴリラでさえかつてはUMAだったように、アフリカ大陸にもヒグマが生き残っているのか、はたまた新種のクマなのか、クマ以外の未知の生物なのか、常識を覆すような新たなる発見を生むことが期待される未確認生物である。