一人の小さな女の子がいた。体が少し弱かったらしい。
その女の子は、二体のリカちゃん人形をとても大切にしていつも持っていた。
彼女と同じクラスの男の子がいた。いわゆる悪ガキで、よくクラスの女の子をいじめては泣かせていた。
彼は次のいじめる相手にその女の子を選んだ。人形の片方を取って、こっそりばらばらにして隠した。
その日、女の子は泣きながら人形を探し続けた。だけど一晩かかって見つけたのは、一本の足だけだった。
無理をした女の子は体調を崩して、それからあっという間に死んでしまった。
葬式の時、棺には彼女が大事にしていた人形と、唯一見つかった一本の足が入れられた。
数日後の夜。
眠っていた男の子は、夜中に突然目が覚めてしまった。
夢を見たわけでもないしトイレに行きたいわけでもない。
もう一度寝直そうとした時、小さな音が、枕元で聞こえた。
男の子は振り返って、眼を見開いた。
そこには、一体のリカちゃん人形がいた。
男の子には見覚えがあった。
それは、死んだ女の子が大切にしていた人形だった。
凍りついた男の子の耳に、声が聞こえた。
『あの子が見つからないの』
人形の唇は動いてはいない。人形はただ男の子の方を見ているだけだった。
だけど男の子はそれが人形の言葉だと、理解できてしまった。
でも、言葉の意味は分からなかった。
何も答えられずにいる男の子に向かって、人形が次の言葉を告げた。
『あの子が見つからないの。
…足が一本しか、見つからないの』
初めて、人形の体が動いた。
スカートをかすかに右手で広げる。
そこには、女の子が唯一見つけた、人形の片足が付いていた。
男の子は、目の前の人形が探しているものの正体を知って真っ青になった。
三本足のリカちゃんは、青ざめた顔の男の子に向かって言った。
『あの子はどこにいるの?教えて』
男の子は必死で思い出した。
もう一つの足、胴体、右手、左手……だけど最後の一つを隠した場所だけが、どうしても思い出せなかった。
答えない男の子に向かって、もう一度人形が言った。
『教えてくれないの?……じゃあ、それちょうだい』
翌朝。朝食に来ない男の子を呼びに来た母親が見つけたのは、首のない死体だった。
だけど、男の子ではやっぱり女の子であるリカちゃん人形の頭にはなれなかったらしい。
だから人形は今ももう一つの人形の頭を探しているという。
もし、夜中にふと目が覚めて。
そしてそこに三本足のリカちゃんがいたのなら。
はっきり「知らない」と答えてあげてほしい。
決して、恐怖で震えてはいけない。
驚きを少しでも見せてはならない。
さもないと……。
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