アテレコ

とある動物園の近くにボロアパートが会った。

そこに住んでいる男は、日中ぼおーっと窓の外を見ていることがあった。

男の部屋からは動物園のゴリラの檻がよく見えた。男はやがて、暇つぶしがてらそのゴリラにアテレコをするようになった。お客さんに向かって「何見てんだよ、コラ」とか言ってみたり「餌の時間はまだかなあ」などたわいもない内容だ。

そうしているうちに、男は不思議なことに気がつく。

いつの間にか男が考えるゴリラのアテレコに合わせて、ゴリラが行動しているようになったのだ。

ゴリラが寝ているのに、ケンカをするようなアテレコをすればゴリラはたちまち起き上がって隣にいるゴリラとケンカを始める。「お前のこと大好きだよ」と言うと、隣のゴリラと抱擁をはじめる。

はじめはたまたま起こった事のように思えたが、やがて面白くなってきた男は「あの飼育員の女を食い殺そう」とアテレコをしてみる。するとゴリラは飼育員が餌を与えるタイミングで、飼育員を降りの中に引きずりこみ本当に飼育員を噛み殺してしまったのだった。

男は怖くなり、窓を閉め布団の中で震えていた。

すると、アテレコの声が男の頭のなかでこだました…

「いつもジロジロ見やがって」、「あいつも今すぐ殺そう」、「手足をもいでやろう」