1983年製作で、大ヒットした『13日の金曜日』(1980)の設定をある程度踏襲しながら、全体にみなぎる手作り感と、様々なカメラ手法のテクニックが、奇妙なバランスを保っている、自主映画ホラーとでも言うべき作品である。この映画には、と言うか、サム・ライミのものは全部そうなのだが、ホラー特有の悪意が余り感じられず、主人公も純朴で、化け物を殺すのに積極的でなく、怨霊もどこかユーモラスで子供っぽい。要するに、この手のホラーの定番的テーマであるところの、若者の性道徳を戒める(あるいは肯定する(『鮮血の美学』))と言った基本線が欠落しているのであるが、それが一つの個性になっているわけだ。なにしろ、最初に襲われるのは、性的なパートナーがいない女性だからである。
化け物の地を這う視点ショットや、地下室での回転パンの使用、さらに目のクローズアップなど、『ノスフェラトゥ』を意識したと思しきカメラ手法が目白押しで、余り効果的でない中途半端な音楽を含めて、サイレント映画のようであった。そうした手法を、単に真似をしようと言うのみならず、自らのものにしている点において、これは並々ならぬ才能だろう。
それにしても、もっとも基本的な設定である、一軒家で呪いの本が出て来る点などを鑑みると、『呪怨』などは、これのある種のリメイクだったことが分かるし、そのハリウッド版を、サム・ライミが製作することになるのだから、それはそれで何か感動的な巡り会わせではあるのだろう。また、ここでチェーンソーを持った青年が、呪いにかかったかつての恋人を解体しようとして葛藤し、躊躇する所など、『スパイダーマン』を思わせ、単なるホラーを撮っているわけではないことが分かる。その意味では、映画に必要な最低限の要素を、短い長さでも、確実に備えている映画なのである。
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