私は方向音痴では決してないと思っていましたが、一つだけ不思議な体験をしました。
30年以上前のことです。
私と倫子(仮名)とゆかり(仮名)は幼馴染の仲良しでいつも一緒でした。
ところが二十歳を過ぎたある日のこと突然、倫子が駆け落ちの家出をしてしまったのです。
両親の心配は相当なものでしたが、毎月近況を知らせる手紙が倫子から届き、幸せに暮らしている写真をみると、少し落ち着いてきたようでした。
しかし倫子が何処に住んでいるのかは一切分からず、消印もバラバラで居所はつかめませんでした。
ある日、私とゆかりは、写真に重要なヒントを見つけそこに行く決心をしたのです。
きっとこの近所に住んでいる!なんでそう確信したのかわかりませんが、第6感というものでしょうか。
そこは、H県K市で私たちの住んでいるW県から車でも3時間も走れば行けるところでした。
当時はナビもない時代でしたので道路地図を見ながらでしたがすんなり目的地につきました。
写真にあった場所とそのお寺は一致しました。
周辺はのどかな田舎町で以外でした。
K市は有名な大都市のイメージが強かったけど、中心部から離れていて、少し足を延ばせばA市だったのです。
一日周辺を聞きこんだりして倫子の居所を探しましたが手掛かりはなく、また休みをとって出直すことにして帰ることにしました。
ガソリンスタンドでガソリンを入れ、店員さんに一番近い高速道路の入り口を教えてもらいました。
教えられた通りに車を走らせたのですが、店員さんの言う、「この道は一本道で突き当たりを左に曲がって500mほどで高速の入口」が見つからないのです。
もう夜になっていて周りは田園と民家がまばらにあるだけで。
行き過ぎたかな?と思い元の道をバックすると、なんとさっきのガソリンスタンドらしきものがあり、「ちょっとさっきのスタンドじゃ・・」と私が言うと運転しているゆかりが「そんなはずない、距離がちがう」といいました。
何故か私もそうよね、もっと先にあるはずと納得しました。
ところがバックした元の道は行き止まりで、なんと駅があるのです。
私たちは「え~?」と言いながら、一本道だったよね、ガソリン入れたスタンドはいつ通り過ぎたの?最初にみたスタンドがやっぱりそうだったの?とにかくその駅のロータリーを周り。
もう一度引き返しました。
しばらく走ると左手にスタンドがあり、さっきの店員さんが見えたのでもう一度聞いてみました。
この先に突き当たりあたりなんかなかったことを言うと、どこかで違うところに入りこんだと思ったのか、もう一度丁寧に教えてくれました。
「ほんとに一本道のつきあたりなんですけどね、横の道はあるけどとにかくこの道なりをずーっと行けば突きあたりがあってそこを左です。
少し曲がっていますけど」
私たちのもっている道路地図を見ながら説明してくれました。
距離にすれば2キロ弱で高速道路にはいれるはずなのです。
。
近いわ、なんでわからなかったのだろう。
この時はまだ楽観的でした。
突きあたりを目指して進むと橋がありこの下を高速道路が通っていることがわかり、やっぱりすぐそこだわと安心していました。
ところが道は多少蛇行していますが一本道をそのまま行くとさっきの田園とまばらにある民家のところにきてしまったのです。
そして、はじめは気が付きませんでしたが駅らしき建物があるのです。
そこだけがこうこうと明るく○○駅と書いてあり、電車が入ってくる明りも見えました。
私たちは「違う、また通り過ぎた」と言い、元の道をバックしました。
ところがそのまま本当に道なりに1本道だったのに、バックした突き当たりは最初に見た駅のロータリーでした。
タクシーが大勢止まっていて乗降してくる人たちを乗せていました。
私たちは、車を降りてタクシーの運転手さんたちに聞きました。
するとスタンドの店員さんと同じことを教えてくれたのです。
突き当たりがなかったと言っても、そんなはずはない、きっと横道にそれたんだろうと言いました。
田園と民家だけだったこともいうと、「確かにこの先はそんなところだ、しかしそこに行くにはやっぱり突き当たりを左に曲がり、すぐ右に曲がらないと行かない。
高速道路は左に曲がる
すぐにわかるよ」
左ね、左、左・・
じゃ、田んぼの中にある駅は?
「駅?」タクシーの運転手さんたちは怪訝な表情で「この先に駅なんてないよ、駅はここだけだ、国鉄が通っている」「あんたら何か見間違いしたんだろ」運転手さんたちがあっさりいうので私たちも「そうよねー」とその時は納得してしまいました。
教えられたとおりに車を走らせると、スタンドがあり、店員さんがいました。
駅のことがやっぱりひっかかり、私たちはスタンドで車を止めました。
定員さんは私たちを見て「あれ?また迷ったんですか?」と言いました。
「なんだかキツネにばかされたみたい」と笑いながら、駅のことを聞きました。
店員さんは「駅は一つだけですよ、この南側に下ると国鉄の駅があるだけで、北側に言っても突きあたりであとは田んぼと小さな山があるだけです。
どうですか、僕、10時になったら交代で勤務が終わりますから高速の入り口まで案内しますよ。
」私たちはもちろんその好意をうけ、店員さんの勤務が終わるまで、30分ほど待っていました。
その間に周辺をみたりして、夜だったのですが、よく見ると周りは一面団地ばかりで特に見るものもありませんでした。
店員さんに案内され私たちは無事に高速道路に入り帰宅できました。
本題はここからです。
その後私たちは、倫子の足跡をたどる機会がないまま月日がたち、結婚してゆかりは15年前、夫の転勤でK市に住むことになりました。
その時ふっと倫子を探してK市に行ったことを思い出し、ゆかりは「近くに住むから会うかも」と笑っていました。
「近くって言ってもあんたK市は大都市だよ広いし、人口が違うよ」
私たちはその時まだ倫子が、あの写真のお寺の近くにいると何故か確信していたように思います。
ゆかりが引越してしばらくがたち電話がありました。
見せたいものがあるからK市に来れないかというのです。
てっきり倫子のことかと思ったのですが、そうじゃない。
もっとすごいこと、あの迷った道を見つけたというのです。
ゆかりがとにかく来ればわかるというので私は電車で指定されたJRの駅まで行きました。
JRの駅を降りると、タクシー乗り場があり、ゆかりが待っていました。
「この駅、見覚えがない?」
わたしはぐるっと見渡し、なんか、あの時の駅?タクシーの運転手さんが道教えてくれた?
ゆかりは大きくうなずき、「もっとすごいよ」と言い、自分の車に乗り、駅のロータリーから北方向に一本道を進んで行きました。
途中に左手にガソリンスタンドがあり、周りは団地でした。
私とゆかりはあの時のことを話しながらここに間違いないと言っていました。
その先を行くと、高速道路の上にかかる橋があり、しばらく走ると田園地帯と民家があり、なんと駅があるではありませんか。
「やっぱり駅あるじゃない!」わたしは、なんでスタンドの店員さんも、タクシーの運転手さんも田んぼのところに駅はないと言ったんだと思いました。
ゆかりは言いました。
「ところがねーこの駅、昔はなかったんだって。
最近らしいよ、こっちのほうが開けてきて、この先のほうにマンションや家ができ、K市の地下鉄が延びてきて
ここまで通るようになったって。
今は昼だからピント来ないけど、私この前、夜にこの道通ってこの駅を初めて見た時、あの時見た駅じゃないかとピンときたのよ。
」私はなんだか混乱して、じゃ突き当たりの道は?私たちが通っても見つけられなかったつきあたりが、店員さんが案内してくれた時にはすぐにあった突き当たり、今日はなかったじゃない?
「あれね、確かに数年前まであったんだって、その突き当たりは小さな丘みたいな感じでそれをつぶしてえJRの駅から延びる新しい道を作ったんだって。
だからつぶした丘の手前が左に曲がりまた左に行くと高速の入り口なのよ。
私たちは、何故か当時はあるはずのない突き当たりのない道を通り、あるはずのない地下鉄の駅まできたことになると思うんだけどー」
じゃ、写真にあったお寺は?ある?
「この近くにあるよ」
ゆかりは続けて言いました。
「私思うんだけど、私がここに越してくるようになったのは、倫子が呼んだんだと思う。
もう倫子は生きていないと思う、なにか私たちに伝えたいんじゃないかな」
倫子は生きていない、私は今日のこの現実でそれを感じていました。
30年以上前に倫子がいなくなり、それを追っていた私たちが体験した不思議な出来事。
なにかつながりがあるような気もします。
そして、私も今、人生いろいろあり、なんの因果なのか、K市の隣のA市に住んでいてガソリンスタンドの近くの職場に通勤しています。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話