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短編2
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待受

 会社のトイレ(個室)で携帯を拾った。

 このフロアへの来客は少ないから、社員の誰かのだろうと予想。

 で。

 悪いとは思いながら、折りたたみ式のその携帯を開いてみた。

 勿論、それ以上のことはしない。他人がどんな待受画面にしてるか興味があっただけ(笑)。

 あっ!

 慌てて携帯を閉じた。

 待受画面には、画面いっぱいに大写しになった女性の顔写真があった。

 恋人か?

 微笑みかけるその顔は、少し陰があるが幸せそうで、撮影者との仲の良さが窺われた。だからこそ余計に見てはいけない気がした。

 …なんだけど。

 その笑顔にドキドキして、ついもう一度開いてしまった(笑)。

 あれ?

 さっきと表情が少し違う…気がした。少しはにかんだような。

 なるほど。開く度に画像が切り替わるよう設定されているらしい。

 少し憂いのある、どことなく陰を帯びたその表情をもっと見たくなり、何度も携帯を開閉してしまった。その度に異なる表情が現れたが、見てるうちに「一体何枚写真入れてんだか」とちょっと可笑しくなった。

 でも、その事実だけでこの携帯の持ち主が彼女をどれだけ大切に思っているのかがわかった。

 何より、こちらを見つめる彼女の、陰のある表情の中のそこだけ熱のこもった強い眼差しからも、見つめる相手への想いが感じられた。

 フロアに戻った俺が、携帯をかざして「これ誰のー?」と呼び掛けると、すぐに「あ!俺の!」と反応があった。隣りの職場の後輩Sだった。

 携帯を渡すついでに、「誰のかと思ってつい開けちゃったんだけど、可愛い子だな」と、冷やかし半分でSに言うと、臆面もなく、「でしょう?」だと。さすが社内でも名の知れた色男(笑)。

 でも、「何枚も写真入れて、可愛くて仕方ないんだな」と言うと、彼は怪訝な顔をして「何のことスか?」と返してきた。

「何のことって…携帯の待受だよ」

「?」

「彼女か?」

「???」

 Sは黙って携帯を開き、笑いながら画面を俺に向けた。そこには…

「こないだ飼い始めたんスよ。動き回るんでなかなか上手く撮れなくて、ようやく一枚だけ綺麗に撮れたから待受にしたんスよ」

 一匹の柴の仔犬。

「めちゃくちゃ可愛いけど…さすがに彼女にはできないスねー」

 あれ?

 あの子は?

 あれ?

 じゃあ、あの子が熱く見つめていたのは…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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