俺の母は過保護だ…
今ニートになってしまった俺。
ちょっと過去の話を。
「たかしちゃん、今日学校どうだった?」
「普通」
「何だか元気ないわね?嫌なことあった?隠してるんじゃないの?」
「ないよ!違うって」
「たかしちゃん…」
ああ、本当にウザい。そう思っていると友人から電話がかかってきた。
「もしもし?……ああ、いいよまた彼女とデート?その代わり飯奢れよ」
電話を切ると母親がこちらをじっと見ていた。
「何の電話?」
「普通の話」
「何か隠してるんじゃないの?心配なのよ…ご飯奢れとか言ってるけどまさか恐喝?」
ああ…本当に面倒臭い。
そのまま無視すると、腕を捕まれた。
「待ちなさい!!」
凄い形相の母親。
仕方ないから、友人が彼女とデートで忙しいから俺が宿題を見せ、その代わりに何か奢って貰う約束をしたんだよ…その話をした。
すると母の顔が変わった。
「なんて荒れた友達と付き合ってるの!?学生は勉強するものでしょ?それを…それを…今すぐ縁を切りなさい!!」
「は?」
付き合ってられず、無視して部屋に入った。
しばらくして、風呂に入っていると母の罵声が聞こえた。今度はどうしたんだろうと思いながら、バスタオルで髪を拭きながら出てくると携帯がない。
「…」
リビングに行くと母が俺の携帯をテーブルの上に置いていた。
「貴方の友達に、ちゃんと忠告しておいたから」
翌日、学校に行くと即友人の元に走った。昨日母親が勝手にかけた電話について謝ろうと思って。すると友人からゾッとする様な目で見られた。
「…何なんだよ、お前の母親。気味悪ぃ。彼女とデート中電話で怒鳴ってきて害虫だのもう近づくなだの…」
すると他の友人も何の話か近づいてきた。青い顔をしたままこいつの母親ヤバいと話始めた。
取り敢えず本当にごめん…と謝ると逆に同情された。
数週間後、体育祭があった。運動神経には自信あるけど、問題は…
「きゃー!!うちの子よ!ほらほらほら!!格好良い!」
リレーで走ってる最中、ロリータ服を着たおばさんがこちらを見て叫んでる。母親だ。
友人逹は俺の親が過保護と知ってるから、ネタを見るように爆笑している。
走り終えて戻ろうとすると、そのままこちらに走ってきて抱きつかれた。
「流石ママの子ね…素敵よ」
そのまま頬を押さえられて無理矢理キスされた後、嬉し泣きなのか号泣された。
場が凍りついた後、ざわざわと引いてるように周りがどよめく。
ちらりと友人を見ても目を逸らされた。
休み明けに学校に行くと、みんな引いた目でこちらを見ていた。
授業中、何か紙が回ってきた。
『マザコン。お前は母親とデキている』
破り捨てたくなった。怒りより…堪らなく恥ずかしい。恥ずかしくて恥ずかしくて、生まれなければ良かったと後悔する程。
先生から放課後呼ばれた。
「あー…、何て言うかその…」
頭を押さえて考え込んでいる先生。
「こんな事言ったらお母さんに悪いけどな…同情するよ」
ストレートに言われた。今まであまり気にかけなかった先生だけど、正直さに今好感が持てた。
「俺の学校生活、真っ暗ですよね。今後」
「いや、頑張って先生がどうにかするよ」
翌朝、先生が教壇に立って話した。
「お前らな、体育祭の事だけど、こいつの母親は異常に息子を愛してるだけで、こいつ自体は可哀想なやつなんだ。分かるだろ?だから、あんまり苛めてやるなよ」
…あまり真っ直ぐ言うから本当に驚いた。冗談の様に言ったせいか、クラスメートは笑い始めてる。
「ごめんな、そうだよな。びっくりしてさ。あれ冗談だから」
本気で苛めてただろと思いながら。
「本当、このまま苛められたら登校拒否しようかと思ってたよ」
と笑いながら返した。この先生案外凄いかもしれないなと思いながら。
ある日、試験前にソファーで寝転びながらノートを開くと、紙が出てきた。
『ありがとう。家で母ちゃんとラブラブやれよ』
友人に以前ノート貸したとき、挟み込んでおいたんだろう。もう冗談半分と分かってるから軽く流せる。
拾おうとすると、母親に腕を捕まれた。
「手紙?私も見たい…え?」
内容を見て硬直する母親。
「母さんが体育祭でキスしてきただろ?それでからかわれて……」
…母親の顔が真っ赤になってる。えっ?と思った。
「や…やだわ!最近の子は…あの時は嬉しかったから…」
…俺はこの時気づいた。この人、息子としてじゃない。別の意味でも俺を見てる。
…異常者だ。
ゾッとした。どうしてよいか分からない。
「ほら、今日の夕飯はハンバーグよ」
一気に吐き気が込み上げてきた。
どんどん悪い考えが頭を回る。
夕飯に唾液とか混入されてるんじゃないか。風呂上がりどんな目で俺を見てるか。寝るとき部屋にやって来てるんじゃないか。彼女が出来たら殺すんじゃないか…
気が狂いそうだ。
主人が亡くなって絶望しかなかった。
あんなに可愛がってくれた貴方。休みの日には必ずどこかに連れていってくれた。別に記念日でもないのに。それが…私が殺してしまった。
事故だった。あれは…ね。
主人が死んでも一生暮らしていけるだけの遺産がある。でも世の中何が起こるか分からない。贅沢せず普通の生活をするようにした。
外食も月1くらい。あとは全て手作り。
主人が死んでから息子と二人きりになった。この子は私が守らなければいけないけど、いつも精神面で助けられている。
まだ5歳だった息子が逞しく見えていた。
段々息子も成長し、今では学生服が良く似合う、男子高校生。勉強も出来るし運動神経も良い。将来が楽しみだ。
最近、気づいた事がある。私は少し愛しすぎているかもしれない。今まで全く気づかなかった。
でも、ある日いつも通り学校に行った息子のベッドに入り、息子の臭いを嗅いでるときハッと思った。
これは異常な行動かもしれないと。
でも、そう思うと余計エスカレートしていく自分が分かった。止めることが出来ない。
とにかく迷惑はかけない様に極力心がけ、せめて外見だけは綺麗にしようとフリル、リボンつきのワンピースを着たが、ただの危ない人にしか見えないと分かり、止めた。
体育祭の時は息子が眩しくて感動して…思わず抱き締めたところから余り記憶がない。ただキスした感覚だけ思い出せる。
先日、息子の友人からからかいの手紙を見て悟った。私は息子を…かなり不味い目で見ているかもしれない。
「どうしよう…」
本気で悩む。息子が私から離れていくのも分かる。嫌…
医者に相談すると、良くある事と言われた。ヤブだ。友人に相談すると一瞬引かれたから冗談でごまかした。すると分かると言われた。みんな子供が大切らしい。
息子が最近部屋から出ないのが心配。
軽くノックすると叫び声が聞こえる。どうしよう…どうしたら良いんだろ。
私が悪いのは分かってる。だから余計対処法が分からない。
メモをしていた息子の友人の電話番号を確かめると、かけてみた
「…もしもし。母親です…息子が部屋から出ないの…」
部屋でとにかく悩んでいた。どうしよう…とにかくショックだ。実の母親から恋愛感情を抱かれるのは、もうこの世で一番ショックな事かもしれない。死より辛い。
「開けて!!ごめんなさい私が悪かったから。さっきね、お友達を呼んだの」
えっ…?
「開けろよ、学校どうするんだよ、お前」
うわ…もう嫌だ。恥ずかしい。一体なんて説明したんだろ。母親の悲鳴に近い俺を呼ぶ声が、耳を塞いでも聞こえてくる。
しばらくして静かになった。ゆっくり耳から手を離すと、軽くノックの音が聞こえる。
「今、俺しかいないから開けろよ」
ゆっくり開けると、友人が1人で立っていた。静かに招き入れる。
「…聞いた?」
「ああ…お前に恋愛感情があるってバレて…」
ボロボロと俺は泣き出した。
「…最悪だよ。母親が…もう女なんて嫌だ…怖い」
静かに友人は俺が泣くところを見ていた。惨めだ…
「じゃあ……男はどうだ?」
「えっ?」
「ゲイ的な意味で」
「…えっ?」
一瞬で泣き止んだ。
友人に手を掴まれ、目を見られた。
「…お前彼女いるだろ?」
「ああ、あれさゲイだってバレたくないから。フェイクってやつ?彼女も俺と付き合う理由そうだし」
…怖い
「俺さ、正直今凄いチャンスなんだよね…このままさ、お前と将来結婚出来なくてもお前の父親になれば良いだろ?」
俺の腕を引っ張って部屋から連れ出すと、友人は母親に説明し始めた。
「で、貴方も俺と結婚すれば、息子さんに対する感情も多少は薄れると思うんですよね。俺は俺で、愛する息子さんと親子になれて幸せ…良いじゃないですか?」
「そうね…良いかもね。私には相手が必要なのかも」
…母さんっ何でそこ納得するの!?
「じゃあ…俺が大人になるまで待ってくださいね?」
「…はい」
えっえっ
「おかしい…よね?整理するとさ母さんとお前は俺に惚れてて」
「そうね」
「だな」
「で…君たち結婚すると」
「よろしくな」
数年後…
「真理子、まだ出ないのか」
「そうね。でも良いんじゃないかしら。私達が死んでも生きていけるだけお金あるし…それに」
真理子は旦那にスッとキスをすると微笑した。
「あの子は完全に私達の物ね…これで」
怖い話投稿:ホラーテラー 家さん
作者怖話