俺は彼女を車で迎えに来ていた
この彼女、夜会うときは決まって支度が遅い
彼女の家の前は道が狭いため、俺はいつも通り少し離れた街灯の下に車を停める
……遅い
一時間待たされるなんてこともよくある
(準備が出来れば電話してくるだろ)
そう思い、ドアにロックをかけ、車のシートを倒すと仮眠の体勢に入った
……
(ん?今何時だ?)
目を覚まし、助手席に投げていた携帯へと手を伸ばす
携帯の画面を見ると23時になっている
「寝過ごした!……あれ?着信ないじゃん」
(確かに今日約束があったはずなんだけど……)
そう思いながら一伸びし、体を起こした所で俺の動きは止まった
車の前に女が立っている
離れていればなにも思わなかったかも知れないが、あまりにも近すぎる。今にも車に触れそうだ
街灯に照らされてはいるが、長い髪で俯いているためその表情はわからない
しばらく動けないでいると、ふいに女は踵を返し歩き始める
去り際、一瞬見えた口元には笑みが浮かんでいたように見えた
「助かったぁ~」
思わず言葉が漏れると同時に
ピリリリリッ
開いたままで手に持っていた携帯が鳴り出した
俺は咄嗟に通話ボタンを押す
「もしもし?」
『もしもし?ごめん待った?』
彼女だ
「遅い!おかげでさっき怖い思いしたわ!」
『ごめんごめん。今そっちに歩いてるから』
俺は通話を続けながら車を進めると、すぐに人影が見えた
『眩しい!ライト切って』
どうやらあれが彼女のようだ
俺はライトを切り、フォグの明かりで車を進める
彼女まで後30mほどの位置にきた所で、ロックを解除しようと手を伸ばした
テンッ♪テッテテン♪テン♪
耳元の携帯が再び鳴り出す
俺は思わずブレーキを踏んだ
おかしい。今俺は彼女と通話中なのだ。キャッチは入るが着信音が鳴るはずがない
携帯の画面には彼女の名前が出ている
そこで俺は気が付いた
俺は彼女からの着信音だけ音楽に変えている。だが、さっきは通常の着信音だった
俺が電話で話していたのは誰だ?
前から歩いてきているのは誰だ?
俺が携帯に出ることも出来ず固まっていると
ドンッ
突然助手席側の窓が叩かれた
恐る恐る目を向けると、さっきの女が窓に顔面を叩きつけている
俺は夢中でアクセルを踏み込んだ
どこをどう走ったのか覚えていないが、ともかく俺は自宅に逃げ帰っていた
部屋に入るとすぐ彼女に電話
彼女は約束を忘れていたわけではないが、つい寝てしまっていたらしい
目が覚めて慌てて俺に電話をしたとのことだった
俺はさっきあったことを話し電話をきった
一睡も出来ないまま夜が明ける
平日なので仕事の準備を済ませ、車に向かう
乗り込もうした時、車のドアノブに無数の引っ掻き傷があるのに気付いた
もしロックを掛けずに寝ていたら・・・・・・もし彼女からの電話が鳴らずにそのままロックを解除していたら・・・・・・
俺はどうなっていたのだろうか・・・・・・
怖い話投稿:ホラーテラー Mさん
作者怖話