私の母親は病気でいつも入退院を繰り返していました。
私は物心ついた時から母方の親類に『N(私)は母さんを助けて、守らなきゃ』と耳にタコが出来るぐらい、いつも言われ続けてました。その発言の押し付けがましさに時折嫌気がさしましたが私は多少の反抗期はあったものの、曲がった性格にはならず人並みに育ちました。
年月が流れ、私も高校を卒業、地元を離れ遠い県外へ就職しました。知らない土地で働く事に不安も抱えながらも何とか仕事を覚え、独り立ちし、数ヶ月が経ちました。
ある日、私は同僚とお酒を飲み、ほろ酔い気分で深夜に帰宅。布団に入り、眠りにつくとこんな夢を見ました。
『白いモヤの中に私が立っていてどこからか「帰ろう、帰ろう」と声が聴こえてくる。声の主を辿ると右手をわしづかみにされて「帰ろう」と引っ張られる』と言う内容でした。
私はハッと目を覚ましました。夢かぁと安心していると右手がズキズキします。電気をつけると右手首が真っ赤に晴れ上がっていました。ビックリしたのですがそれと同時に頭に浮かんだのは数年前から寝たきりになり、痴呆が進んで孫の顔も名前もわからない状態の祖母の顔でした。もしかして虫の知らせ?と思い、早朝に母に電話しましたが全くそんな事はないと笑われました。それならナゼと思ってたんですが後日うちの両親が祖母のお見舞いに行った時に謎は解決しました。
母は祖母に『なんでNのとこに行った?Nビックリしてたよ』と話かけたそうです。するとボケていた祖母が『Nは気持ちが優しくて良い子に育った。A(母)のそばにおいた方が良い。きっと助けてくれる。遠くに離してはダメだ』とハッキリと言ったそうです。
痴呆が進み、孫の顔どころか娘の顔も名前も忘れていたはずなのにと両親はビックリして言葉を失ったそうです。
その話を母から電話で聞き、生き霊として私を連れ戻しに来たんだとある意味、納得しました。
その数ヶ月後に母が手術をするとの事で私は母を助ける為に会社を退職、地元へ戻りました。地元での就職も決まり、新しい仕事に慣れて生活が落ち着いた頃、祖母は天国に旅立ちました。私が母の元で暮らすようになり、安心したのかもしれません。
祖母は体の弱い母が心配で心配で仕方なかったのでしょう。最期に祖母の願いを叶えてあげられた事が私にとってのおばあちゃん孝行でした。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話