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もう随分前、まだ学生だった頃に少しだけ住んでいたアパートの話をしようと思う。
子供の頃から何度か不思議な体験をしてたが、印象に残ってる体験なので拙い文章だ
が興味があれば読んで欲しい。
大学入学で田舎から出てきた俺は大学にも近かった事もあり
下○沢の駅から少し離れた場所にアパートを借りた。
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そのアパートは築20年くらいの外観、でもそれほど風化もしてなく、
あの時代にはよく見かける、外に階段が設置してある
2階建てのポピュラーなアパートだった。
人気の街だけあって、さすがに駅近というわけには行かなかったが
田舎出身の俺にとっては東京での独り暮らしは希望の大学にも入れたことも重なり
青春の絶頂期を謳歌してたと思う。
あの部屋での生活が始まるまでは・・・・・
俺が借りた部屋は1階の西側から二つ目。
部屋の作りはよくあるタイプで、玄関があり入ってすぐ右にキッチン
4畳半ほどのダイニング、ガラス戸の奥に6畳位の居室(勿論和室)で
半軒程の窓があった。
引っ越し当日は先に上京していた先輩も手伝いに来てくれて
それほどの荷物もないのであっという間に片付き
夜はそのまま渋谷へ飲みに出かけた。
渋谷で飲んでる時もハイテンションだった俺は中々酔も回らず
まだ未成年の自覚もなく下○沢の二軒目に先輩を強引に誘った。
その店でいい感じに酔った時には最終電車もなくなり
先輩と俺は新居のアパートで雑魚寝をした。
部屋に戻るなり、着替えもせず二人共あっという間に爆睡状態。
深夜喉の渇きで、まだ酔も覚めていないのに突然目が覚めた。
ぐるぐる回る三半規管を落ち着かせてから起き上がろうと
ふと横で寝ている先輩を見ると同じタイミングで起きてたらしく
何故かお互い目が合い固まってしまった・・・
先輩の目を見ると眠気眼じゃなく、意志を持った目で俺を見つめている。
幼少時から何度か嫌なものを見てきた俺は一瞬で状況が飲み込めてしまった!
先輩の目が俺の後方先にツーっと移動した。
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・・まじか!?・・
もう眠気も酔いも一気に去り、徒競走を並んで待つ小学生並みに心臓が鼓動始めた。
先輩はなにか口走りたそうに俺にアイコンタクトを送ってくる。
俺も意を決して、そこにあるものが見間違いであって欲しいと
少しだけ期待しながら後方を見るためにゆっくり寝返りをうった。
はたしてそこにあったものは、オレンジ色か朱色に光るピンポン玉位のものだった。
最初部屋の蛍光灯についてる常夜灯かと思った。
いや、そうであって欲しかった。
でもそれは違った・・・
数分なのか数秒なのか今でもはっきりしないが、見つめている間に少しづつ
大きくなってる様だった。
俺も先輩と同じく金縛りじゃないが体が固まってしまってた。
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・・・このまま大きくなったらどうなるのか?・・・
その時、後ろにいた先輩が俺の背中を蹴ったのでハッと我に返り
考える暇もなく急いで立ち上がり蛍光灯の紐スイッチを引っ張った。
部屋が明るくなった時にはさっき見たピンポン玉は
夢を見ていたかの如く消えていた・・・
立ち尽くしている俺と横になってる先輩はそこではたまた数瞬の間見つめ合い、
見間違いだよな?って顔をしていた。
ようやく先輩が口を開き、「悪酔いしたか・・」と口にしたが、部屋の空気が
戻っていないのを感じたらしくやけに小さい声だった。
まだTVを設置してなかったのでその空気を一掃できないもどかしさから
二人でタバコを吸いながら明るくなるまで大学生活の事、先輩の彼女のこと
話題が尽きないように二人で一生懸命喋った。
ようやく朝を迎えた頃にはなんとかお互い気分も一新し、深夜に見た物も
おかしなもの位になっていた。
不思議と眠気もなく部屋でシャワーを浴び先輩は自宅に戻って行き
俺は眠る気にもなれず新しい街を探検しながらいたずらに時間を潰した。
夕方になり陽も陰り出した頃ようやくアパートに帰った。
携帯もパソコンも普及してなった頃なので漫画を読むくらいしか田舎者の俺には
思いつかず、大好きだった「空手バカ一代」を読み返す。
ベッドでゴロゴロしてると何故か息苦しさを感じ始め、漫画を読むのをやめ
部屋を見回した。
なんか部屋が狭くなってる!!
ベッドと反対側の壁が少しこちらに寄ってるよな?
天井も低くなってないか?
目の錯覚か?
なんだこれ?
その時は怖いという感情よりも何がどうなってるのか、錯覚が引きおこしてる
現象かと思った。
そろりとベッドから降り、台所の方に移動しそこから居室の方を眺めたが
特に変わった様子もない。
気分転換になにか飲もうと冷蔵庫を開けるために中腰になりかけた瞬間・・
左の耳元で息遣いを感じた。
・・・!?・・・
ギックリ腰をやった人なら分かると思うが、まさにあの状態で固まった。
これが金縛りか?
動かない!
後ろになにか気配を感じる。
やばい!やばい!やばい!
動け動け!
足の指からゆっくり少しづつ力を入れていった。
心ではうら覚えの般若心経をとなえつつ・・
金縛りから抜け出したとたん脱兎のごとく部屋を出た。
近所のコンビニに行き、悪戯に明るい店内の白色蛍光灯に救われた。
気持ちを落ち着かせるため雑誌を立ち読みしながらも
自問していた。
・・部屋に戻るべきか?
・・いやいや先輩のアパートに行こう。
・・しかし何も持たずに出てきたぞ。
・・このまま逃げたらあそこには住めないぞ。
・・なんかムカつくな!
・・追い出されるのは納得いかねぇ。
・・道場の師範と対峙した時とあれ、どっちが怖い?
・・う~ん、よし!戻ろう
部屋に戻ると何事もなかったように蛍光灯は点灯してる。
少しほっとして、ダンボールに入れっぱなしだったラジカセを取り出して
音を鳴らした。
タバコを吸おうと台所に取りに行き、窓を開けようと居室に戻る時
またまた後ろに気配!
まさに背中に張り付くような至近距離。
耳に息のような気配すら感じられた。
心の底の方から恐怖が沸き起こりそうになるのを感じ
その感情に飲み込まれたら心が折れると思い、組手の時のように前に出るんだと
自分に言い聞かせ、思い切って振り向きながら猿臂(えんぴ、肘)を
そいつの顎があると思われる辺りに向けて放った。
「うっ!」
確かに聞こえた!!
しかし何もいない。後ろには誰もいない。
なんだった!?
何故か相手が逃げたと勝手に思い少しだけ満足しながら
怖々その日はラジオをつけながら寝た。
明日は必ずTVを買いに行こう。
翌朝目が覚めると肘に違和感が・・・
「あれ、曲がらない。。おいおい小さい反撃かよ~」
TVを買いに先輩を誘い渋谷へ。
飯食って軽く飲んで二人で俺のアパートに戻ってきたのは夜遅くだった。
その頃には肩も上がらず、小さい反撃だとは思わなくなってた。
先輩が怖がるといけないのでその原因は内緒にしてた。
とりあえず明日病院に行くことにしよう。
先輩と部屋飲みしてたら
「そういえばあの変なものあれから見ないのか?」と聞いてきた。
「えぇ、あの時は飲みすぎてましたから」
と適当にかわす。
「おい、冷蔵庫開いとるぞ」
あれ、さっき確かに閉めたはずなのに・・・
いや、気のせい気のせい。
適当に飲んでるうちに先に先輩が寝てしまったので
俺もそろそろ寝ようと玄関の鍵をかけに台所へ。
ドアノブの鍵をひねったとたん
ガチャガチャ!
ドアノブが外から回された!
えっ?なに?
今の何?
チャイムも鳴らさず?
慌ててドアについてる魚眼レンズ?みたいな奴覗いて外見たけど
誰もいない・・・
ハッと気がつき急いで開け放してた居室の窓も占める。
・・・う~~今夜もかよ~
・・・もう許してくれよ~
・・・まぁ、一人じゃないのが幸いか・・・
とりあえず電気も消さずにベッドに横になった。
「明るい!電気消せ!」
先輩の怒声。
「はいはい」
チッ、何も知らずに・・・
常夜灯を残し俺は蛍光灯を消した。
酔っていたがなかなか寝付けずに何度も寝返りをうっていた。
ふと気がつくと押し入れが少し開いてる。
常夜灯の薄明かりの中、押入れの中は全くの闇。
あまり見たくないと思えば思うほど目は押し入れの闇に・・・
閉めたくても何故か気持ちが起きない。
目をつむってまた開けたとき、押し入れの扉が少し動いた。
その時判った。
何か居るじゃん。
動いてる。
なんだ?
なにか黒い塊みたいなのが押し入れの上段で動いてる。
出てこようとしてるのか?
閉めなくては!
うっ!!動かない!
また相手の術にかかった!
目が離せない中、それはするすると押入れから出てきた。
黒い煙の様のものが徐々に押し入れの前で形になり始め
よく見てると人の形になった。
黒い塊にはかわりないから男女の区別はつかなかったが
頭は前に垂らした感じで頭頂部がこっちに向いてる気がした。
どれくらい経ったか判らないが、俺は体が動かず目も離せず状態だった。
その間、その塊がどうなるのか目を瞠って見てた。
そいつは近づくこともなく形もそのままで微動だにしなかった。
(今考えると悪意はなかったんじゃないのかとも思う)
そうしてるといきなり先輩の大きなくしゃみで
黒い塊の呪縛から逃れることができそいつも散った。
文字通り霧のように散ったんだ。
なぜか俺はこれで終わったと感じた。
そのまま朝を迎え、先輩は何も知らず二日酔いの体で目覚めた。
俺はこれで終わったと勝手に思ってしまったんだ。
・・長くなったので一旦ここで切りますね。
作者kazu-ngt
ここまで読んで下さってありがとうございました。
いつもは読むの専門だったんですが
昔経験したことを書かせてもらいました。
慣れないので予想以上に長くなってしまったので
一旦切ります。
後日また続きを書かせてもらいます。
(反響があれば::)