「寝上戸って言うんですか?酔うと寝ることしか考えられなくなっちゃうんですよね」
ジロウくんは大学三年生。
それは金曜の夜、サークルの仲間と飲んだ帰りに起こった。
飲むと眠くて仕方がなくなるジロウくんは、家に帰るなりベッドに突っ伏して寝てしまった。
深夜。ジロウくんは尿意で目が覚めた。
「閉所恐怖症の人っているじゃないですか。僕は逆で、トイレとかだと鍵をかけないと落ち着けないんですよね」
トイレに入り、いつものように鍵をかけて用を足す。
ふと、あることに気が向いた。酔っていたので、玄関の鍵をかけ忘れたかもしれない...
用を済ませたら、締めなければ。
トイレを出ようとしたその時だった。
shake
「ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ!!!」
ドアノブが激しく上下した。
息をつく間もなく、次の衝撃が襲う。
shake
「バーン!バーン!バーン!」
ドアを外から蹴られているようだった。
幸いドアが破られることはなく、暫くして衝撃は止んだ。
一瞬落ち着きかけたその時、別の音がドアから聞こえた。
shake
「ガン!ガンガンガンガン!!」
ジロウくんは腰を抜かした。
ドアの右上から、ナタが覗いていた。
穴は左下へぐりぐりと広げられ、隙間から目が覗いた。
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血走っていた。
何故か白目にホクロがあったのをよく覚えている。
このままでは殺される...と覚悟した時、意外な言葉が聞こえた。
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「あっ、間違えた」
言葉とともに目から殺気が消え、外に出ていく音がした。
その場にへたりこんで暫くすると、隣の部屋から音が聞こえた。
さほど大きな音ではなかったが、興奮していたジロウくんにははっきりと聞こえた。
スイカを叩き潰すような音だった。
結局あまりに恐ろしくて外に出られず、ジロウくんはトイレで夜を明かした。
辺りが明るくなり、もうそろそろ外に出るか、と思った時のことだった。
「ピンポーン」
チャイムが鳴った。
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トイレを出て、恐る恐るドアスコープを除くと、マスクをした男が立っていた。
「最近は物騒でねえ、ここらへんをちょっと見回りしてるんですよ」
男は刑事だという。
警察手帳を見せられるかと思ったが、
「あまり威圧しちゃいけないんで、最近は見せないんですよ」
とにかく不安だったジロウくんは、そんなものかとあまり気にせず、昨夜のことを話した。
少し気が楽になった。
刑事は左手にペンを持ち、熱心にメモを取った後、こう言った。
「こう言っては失礼かと思いますが、不幸中の幸いですね。
もしも顔を見てしまっていたら、口封じに殺されていたかもしれませんよ」
私も伝えておきますが、一応110番しといて下さいね、と言って刑事は帰っていった。
まだ昨夜の恐怖が残っていたジロウくんは、とにかくすぐに警察に保護してもらいたいと思い、110番をした。
隣の部屋の話をするとすぐに警察がやって来た。
刑事と一緒に隣の部屋に向かう。
チャイムを押してみるが、返事はない。
大家の許可を取り、鍵を開けると...
女性が、ナタで頭を割られて死んでいた。
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この話には続きがある。
隣の女性が殺されていた上、昨夜の体験である。
当然ジロウくんは刑事から様々な質問を受けた。
やや疲れながらも話をしている途中、そういえば、とジロウくんは切り出した。
「今朝も、刑事さん来ましたよ」
その瞬間、刑事の顔色が変わった。
「おい、すぐに署に連絡だ」
刑事曰く、その警察署でジロウくんの近所を見回っていることはないという。
さらに、
「威圧しちゃうっていったってねえ、求められたら警察手帳見せるよ、普通」
と言いながら本物の警察手帳を見せられた。
朝の刑事について何か覚えていることはないかと聞かれ、ジロウくんはあることを思い出した。
「そういえば、白目にホクロがありました」
数日後、ジロウくんは引っ越した。
犯人はまだ逮捕されていない。
警察の話によると、あの夜、犯人は女性を殺害した後、朝まで部屋に居座っていた形跡があるという。
冷蔵庫のアイスクリームを食べたり、ネットサーフィンをした形跡まであるそうだ。
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・ドアの右上から左下に振り下ろされたナタ
・左手に握られていたペン
・白目のホクロ
・「顔を見ていたら、殺されていたかもしれませんよ」
あなたには
真実が
見えましたか?
(続きは投稿者コメントにて)
作者caffelover
右上から左下に振り下ろされたナタ
→ 犯人は左利き
左手に握られていたペン
→ 朝の刑事も左利き
白目のほくろ
→ 犯人と朝の刑事は同一人物
犯人は朝まで部屋で過ごした後、刑事を装ってジロウくんに接触。
顔を覚えていないかどうか試したのでした。
もしもジロウくんが顔を見ていたら...殺されていました。
ちなみに、最後に書いた「殺した後長時間部屋に居座り...」というのは、実際にあったことです。
世田谷一家殺害事件をご存知でしょうか。
2000年の大晦日に全国を震撼させた事件ですが、この事件の犯人は、一家を殺害した後、数時間部屋に居座り、アイスクリームやネットサーフィンをしていた形跡があるそうです。
犯罪というものは、時に人間を不可解な行為に向かわせるのかもしれません。
ちなみに、ここに出てきたジロウくん、ナースコール
http://kowabana.jp/stories/21745
に出てきた3人のうちの1人(という設定)です。