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ヨシコさんは、その日も遅くまで仕事していた。
「学校の先生って忙しいのよ」
ヨシコさんは中学教師。
その夜も書類作業に没頭していた。
「家庭がある先生はさすがにちゃんと帰るんだけど、私は独身だったから...」
気が付くと、最後の一人になっていた。
「仕事は無事終わったんだけどね」
帰り支度をしている時、腹痛が襲ってきたのだという。
「その校舎、かなり古くて、電気が自動でつかなかったの」
スイッチを入れなくては明かりが灯らないが、そんな余裕はなかった。
真っ暗な廊下を通り、トイレへ向かう。
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歩いている途中、彼女は恐ろしいことに気付いた。
自分のものではない足音がしている...
思わず一瞬立ち止まった。
足音は止んだ。
気のせいか...そう自分を納得させ、トイレに入る。
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「廊下のこともあったし、今度はちゃんと電気を点けようと思ったんだけど...」
スイッチは壊れていた。
腹痛は限界に近くなっており、仕方なく携帯の明かりで個室に入る。
用を済ませ、ホッとしている時だった。
彼女はギョッとした。
「コツ、コツ、コツ...」
さっき聞こえた足音だった。
足音はこちらに向かっていた。
「コツ、コツ、コツ...」
恐怖に怯えているうちに、足音はトイレに入ってきてしまった。
心臓の鼓動が速くなる。
ふと、彼女は財布に入れているお守りを思い出した。
「私、霊感ゼロなんだけど、一応持ってたの」
それは彼女がお婆さんから貰ったものだった。
かなり力のある祈祷師から譲り受けたものだという。
「私の実家は千葉なんだけど、はるばる九州からもお客が来る程だったらしいの。
知る人ぞ知る、といったところね」
バッグからお守りを取り出し、握りしめる。
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「コツ、コツ、コツ、、、コンコン」
"それ"は、トイレのドアをノックし始めた。
個室は5つ。
入り口から一直線に並んでいる。
彼女は真ん中、三番目の個室に入っていた。
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「コンコン、、、」
一番目。
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「コンコン、、、」
二番目。
sound:14
「コンコン、、、」
三番目。
彼女の個室だった。
恐怖に息が詰まりながらも、お守りを握りしめる。
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「、、、コンコン、、、コンコン」
ノックは彼女の前を通り過ぎていった。
足音は消えた。
ふぅーっと一息つき、お守りに感謝する。
ふと上を見上げた。
彼女はギョッとした。
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個室の上から、老婆が覗いていた。
老婆の顔はしわくちゃで、、、目がなかった。
黒い穴になっていた。
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老婆は身を乗り出してきた。
彼女は縮み上がった。
乗り出してきた腕は毛だらけだった。
ヨシコさんはお守りを握りしめたまま失神した。
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気が付くと朝になっていた。
助かった...彼女はほっとした。
が、すぐに異変に気付いた。
壁が赤く汚れていた。
よく見ると、それはルージュで書かれたメッセージだった。
「幽霊じゃないよ。」
床を見ると、バッグの中身が散乱していた。
財布と鍵がなくなっていた。
「あの後すぐに警察に通報したわ。
お婆さんなんだけど、あの後ディスカウントショップでそっくりのマスクを見つけたの。
暗かったから分からなかったのね」
それ以降、彼女はなるだけ早く帰るようにしているという。
作者caffelover
お守りも生身の人間には効かなかったようです