痩せ薬の秘密 -世にも奇妙な怪談7-

中編6
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痩せ薬の秘密 -世にも奇妙な怪談7-

「急に痩せ始めて、正直あの時は羨ましいと思ったわね」

ミキさんは証券会社に勤めるOL。

これは彼女が中学生の頃に体験した話である。

ミキさんの父親は銀行員。

多分に漏れず転勤族だった。

「3年に1回くらいのペースで転勤するのね。

引っ越しには慣れてたけど...クラスに溶けこむのは大変だったわ」

中学2年の夏。

彼女はある地方都市の公立中学に転校することになった。

「全体としては良い雰囲気だったんだけど...1人、乱暴な子がいたの」

彼女の名前はアカネ。

大柄で、身長は170cm弱。

かなりの肥満体で腕力も強く、男子にも殴りかかるので手に負えない存在だった。

当然ながら、皆が避けるようになっていた。

「でも、避けられてる理由はそれだけじゃなかったの。

実は彼女も転校生みたいなもんだったらしくて。。。」

公立中学の場合、同じ地区の小学校から生徒が上がってくる。

ところが、アカネはその地区の小学校出身ではなかった。

他県の小学校を卒業してすぐこの地域に引っ越してきたため、

小学校時代からの知り合いはいなかった。

「でね、何で引っ越してきたかっていう、かなり有名な噂があって」

アカネは小学校時代からの乱暴者で、クラスを仕切るいじめっ子だったのだという。

かなりひどいいじめをやっていたらしい。

「それで、、、ヨシエちゃんて女の子をいじめで自殺させちゃったらしいの。

その子、父子家庭だったらしくて...」

アカネが通っていた小学校に知り合いがいるという女子から広まった話は、皆をアカネから離れさせた。

ところが、1人だけアカネを避けない女の子がいた。

「リサって子なんだけど、アカネとは似ても似つかない優等生。

ただ、彼女もアカネと同じ引っ越し組だった。

それで仲良くなったんだと思う」

リサは小学生時代を海外で過ごしていたらしい。

乱暴なアカネも、彼女には優しかった。

そんなある日、アカネにある変化が起こる。

「ねえ、アカネ痩せてない?」

友人に言われてよく見てみると、確かに少しほっそりしている気がした。

それから1週間、2週間経つと、アカネの体型が明らかに変わった。

驚くほど痩せたのである。

もともと長身だったアカネは、まるでモデルのような体型に変貌していた。

男子からも徐々に人気が出ているようだった。

当然、ある疑問が女子の間で湧き起こる。

どうやって痩せたのか...?

普段決してアカネに近づかないような子がそれとなく聞いてみたり、数人でアカネに擦り寄ってみた。

最初は教えるのを拒否していたアカネも、徐々にガードを緩めていった。

アカネが語った話はこんな内容だった。

ある日のこと、彼女は自分の部屋に、謎のチラシと共に小さなプラスチックの容器が置かれていることを発見する。

リサが家に来た後のことだったので、彼女の忘れ物だと思ったが、聞くと違うという。

アカネはよく街中で試供品やティッシュを貰って帰るので、どこかで貰ってきたものだろうとチラシを読んでみた。

新しいダイエット薬のモニターを募集しており、容器には1ヶ月分が入っているという。

断りたければ所定のメールアドレスに連絡をすれば良いとのことだった。

怪しく思いながらも、調子が悪くなったらやめればいいと始めたやせ薬ダイエットだったが、効果は抜群。

暫く続けることにした。

ただ痩せるだけではなく、食欲が全くなくなるのだという。

それを聞いた女子達はその薬を欲しがったが、他の人にあげてはいけないことになっているなどと言い訳し、アカネは絶対に薬を手放さなかった。

チラシが届いているのはアカネだけだった。

仲の良いリサなら...とリサに掛け合ってもみたが、

「ううん、私そう言うの興味ないから...」

とそっけない返事だった。

また、他の女子がアカネに薬をせがんでいるのを見ると、

「やめなよ!みっともない!」

と珍しく真剣に注意するのだった。

その後もアカネは順調に体重を落とし、男子からの人気も急上昇していった。

ところが、痩せ始めて1ヶ月、事態は急展開を迎える。

「数学の授業中だったと思う。

最初は単に具合が悪いのかなと思ったんだけど...」

授業中、アカネが突然頭を抱え出した。

かなりひどい頭痛らしく、終いには大きな声で呻きだした。

周囲が心配し、先生が保健室へ送って行こうとした、その時だった。

急にアカネが鼻をかんだ。

「ブッ」

彼女の鼻から何かが飛び出した。

蛆虫の塊だった。

shake

「ギャーッ!」

アカネは絶叫しながら蛆虫を吐き出し、その場にしゃがみこんだ。

しゃがみ込んでからも次々と蛆虫が彼女の足元に溜まる。

教室は騒然となり、女子の悲鳴で教師や生徒が集まってきた時には、アカネは気絶していた。

アカネはすぐに病院に運ばれたが、そのまま帰らぬ人となった。

後で分かったのだが、アカネは中国原産の寄生虫に感染していた。

寄生虫は普段犬や猫に寄生するのだが、まれに人間に寄生することがあるのだという。

人間に寄生した場合、それは脳を食い荒らしてしまう。

特に食欲に関わる部分が最初に狙われるため、食欲がなくなってしまうのだそうだ。

アカネが飲んでいた薬は、その寄生虫の卵だった。

彼女の脳は食い荒らされ、まるでスポンジのようになっていたという。

チラシのメールアドレスは架空のもので、チラシ自体も一般的なプリンターで刷られており、結局どこのものか分からずじまいだった。

---

この話には後日談がある。

その事件の後、ミキさんはリサと仲良くなった。

「お互いもともとその地域にいたわけじゃなかったせいか、妙に気が合ったのよね」

学校でもよく話すようになり、ある日リサの家に遊びに行くことになったのだという。

リサの家は庭付きの2階建てで、広さは普通ながらも趣味の良さを感じさせた。

リサの部屋に行くと、ある写真が目に付いた。

幼稚園くらいの女の子2人と両親が仲良く食事をしている写真だった。

写真には"◯年◯月◯日 吉江家"とあった。

「この子、リサの妹?」

「うん。

実は私、双子なんだ。

二卵性だから似てないけどね。

うち、色々あって私がお母さんに、妹がお父さんに引き取られたの。

何年か前に妹は死んじゃったんだけどね。

昔はこの苗字だったんだよ」

ミキさんはごめん、悪いこと聞いちゃったと謝ったが、リサはいいのいいのと笑っていた。

菓子を食べたり、話で盛り上がっているうち、あっという間に帰る時間になってしまった。

ふと庭を見ると、犬の墓があった。

「ちょっと前に死んじゃったの。

私、小学生の頃は中国にいて、その時から飼ってたんだけど...」

とリサは言い、借りた漫画を取ってくるといって家に戻っていった。

その間、ミキさんは何気なく犬の墓に近寄ってみた。

彼女は見た。

墓から、蛆虫が這い出てくるのを。。。

ミキさんは漫画を返してもらうと、足早にそこを立ち去った。

---

・「父子家庭のヨシエちゃんがアカネにいじめられて自殺しちゃったの」

・「私、昔は吉江って苗字だったんだ」

・「私はお母さんに引き取られたんだ。

お父さんに引き取られた妹は何年か前に死んじゃった」

・「リサが来た後に痩せ薬があった。

アカネは痩せ薬をリサの忘れ物かと思った」

・「寄生虫は中国原産で、普段犬や猫にいる」

・「中国にいる頃から犬を飼ってて...」

・「犬の墓から這い出てくる蛆虫」

あなたには

真実が

見えましたか?

(解説は投稿者コメントにて)

Concrete
コメント怖い
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GEN HIRATAさん:
怖い&コメント頂きありがとうございます。
個人的に心霊よりもこういった話のほうが好きなこともあり、ついつい書いてしまいます笑

次の話も虫系にしようと思いますので、ご期待下さい。

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ネタバレ注意
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黒シャツさん:
怖い&コメント頂きありがとうございます。
幽霊の全く出ない怪談でいかにゾッとしてもらうかを念頭に置いて
作品を書いているので、励みになります。
今後も心霊とは一味違う恐怖を提供していきたいと考えています。

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はるさん:
コメント頂きありがとうございます。
謎解きのスッキリ感と明らかになった真実への戦慄を味わえる作品を
作っていきたいと思っております。

同じく意味怖路線で書いた作品がこちらです。
よろしければお楽しみ下さい。

http://kowabana.jp/stories/21781

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Noinさん:
怖い&コメント頂きありがとうございます。
挑戦して頂きありがとうございます。大変励みになります。
ヒントの出し方が良くなかったのかもしれないので少し表現を変えました。
今後共よろしくお願いします

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おぞましいです…鳥肌たちました…

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分からなかった。
良いとこまでは行ってたんですがね~

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