二十二回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの家がお寺の七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
あれは高校三年の夏の時期のことだった…
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「あぁぁぁ…。あちぃぃい」
最高気温を更新し続ける真夏の暑さに、僕は扇風機の前から離れられずにいた。
暑さにめっぽう弱い僕にとって、八月の猛暑はただ苦痛でしかなかった。今日の予定は特に無いが、バイトにも行かずに暑さに対しての不満を漏らしながら、朝からアイスキャンディーにむしゃぶりついていた。
「冷てっ」
アイスキャンディーが溶けて、アイスキャンディーの棒をつまんでいる指にポタポタと滴が落ちる。
慌ててティッシュを取りに机に向かうと、机に置いてある携帯電話が音も出さずに震えているのが目に入った。
「そうだ、マナーモードにしたままだった」
僕はポツリと呟くと、手についたアイスを丁寧に拭き取り、僕が電話に出るのをまだかまだかと急かしているかのように震え続けている携帯電話に手を伸ばした。
しかし、僕の手は携帯電話を掴む寸前で動きを止める。
液晶画面に『杏里さん』の文字が見えたのだ。杏里さんは僕のバイト先の先輩でこの世で最も怖い『笹木さん』の妹だ。
朝から何の用事だろう。嫌な予感を感じながら携帯電話を掴み、耳に近付けていく。あれだけかいていた汗はいつの間にか不自然な程に止まっていた。
「はい」
「あーー!やっと出たぁぁ!もぅ、何してたのよー!見せたいものがあるから早く私の家に来て!」
受話器からは予想通りに元気で溢れた声が聞こえてきた。
「い、今からですか?僕これから用事があっ…」
「龍悟くん今日バイト休んでるんでしょ?お兄ちゃんから聞いたよ?お兄ちゃんは龍悟くんが風邪で休んでるって言ってたけど、ずる休みって言っちゃうよー?」
確かに笹木さんには風邪で休むと伝えた。体調不良でもないと、あの人はなかなか休ませてくれないからだ…
「杏里さん!ちょっと待ってください!」
「うん、分かった!待ってるからねー!」
弾けるような明るい声が耳に残るも、通話は一方的に切られていた。
何だこれは。何なんだこれは。
あまりにも強引な杏里さんの態度に困惑しながらも、今回は自業自得であると自分に言い聞かせて、家を出る準備を淡々と行った…
nextpage炎天下の中自転車を走らせ、杏里さんの家に到着する頃には全身汗でびっしょりと濡れていた。
「ピンポーン」
「はーい!」
「ガチャリ」
玄関で待ち構えていたのか、返事とほぼ同時に玄関のドアが開いた。
「あっ、龍悟くんか!早く入って入って!『あれ』はまだ来てないから一緒に待とう」
杏里さんは満面の笑みで出迎えてくれたが、僕の他に誰かが来るのか杏里さんは浮き浮きと楽しみな様子を体全体で表していた。
取り敢えず居間に案内されてキンキンに冷えた麦茶を出してもらった。
それにしても杏里さんはタンクトップに短パンと相変わらず肌の露出が多い。高校生の僕には刺激が強すぎて目のやり場に困る程だが、杏里さんは気にしている気配が全く感じられない。
「杏里さん、誰かこれから来るんですか?やけに浮き浮きしてますが」
「うふふふ、そうなのそうなの!待ちに待った『あれ』が今日ついに来るの!この日をどれだけ待ったことか!」
杏里さんは落ち着きなくその場で立っては座りを繰り返している。僕はそんな杏里さんを見て少し可愛いと思ってしまった…
「ピンポーン」
「きたぁぁぁぁああ!!」
チャイムの音が聞こえると、杏里さんの興奮度は絶頂へと達し、机を右手で強く叩くと、勢いよく立ち上がり、玄関へと走っていった。
僕も杏里さんが待ち望んでいるものが気になった為、玄関に向かった。
「はーい!」
杏里さんが玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは意外な人物であった。
長身で細めの眼鏡を掛け、髪はきっちりと中分けで黒いスーツを着ている。そして、その人は右手に大きなアタッシュケースを持っていた。
玄関に立っているのは僕の叔父の『尚人』さんだ。僕の父の弟にあたる人で、何故杏里さんの家に来たのか理解出来なかった。
「ご注文の品をお届に上がりました」
叔父はそう言うと、ケースを杏里さんの前に突き出した。
「やったー!待ってましたー!」
杏里さんは何の迷いも無くそれを受け取る。僕はその黒いアタッシュケースに見覚えがある。僕の記憶が確かならば『あれ』が入っているはずだ。
「叔父さん…何でここに…」
叔父は僕に視線を合わせると、表情一つ変えずに人差し指で眼鏡をずいっと押し込んだ。
「やあ龍悟くん。こんな所で逢うとは奇遇だね。龍悟くんこそ、ここで何をしているんだい?」
杏里さんは僕と叔父の顔を交互に見合わせている。
「ん?どういうこと?」
杏里さんは首を傾げて僕を見つめる。
「杏里さん、そこにいるのは僕の叔父です」
杏里さんは素早く叔父の顔を見る。叔父は杏里さんにいつもの作り笑いを見せた。
「どうも、龍悟くんの叔父です」
「えーーー!」
杏里さんは声を張り上げて、失礼な程に僕と叔父を交互に指差した。
「龍悟くん、それホントなのー?!ここにいる『尚人』さんって超有名なのよ!私たちの業界じゃあ尚人さんを知らない人の方が少ないくらいよ!知らないのが罪なくらいすごい人なのよー!」
叔父は酷く苦笑いをしている。杏里さんの言う『業界』がどういうものなのか良く分からないが、たぶんその『業界』からしたら叔父は凄い人なのだろう…
「私はそんな有名人ではありませんよ。それより杏里さん…」
「またまたご謙遜をー!何ですか?」
叔父は不気味な笑みを浮かべて僕と杏里さんを見つめる。
「君たち二人はどういった関係なんですか?」
杏里さんはうふふと笑いながら僕に近付くと、ぎゅっと僕の腕に抱きついた。
「私たち付き合ってます!」
杏里さんは興奮し過ぎたのか、訳の分からないことを口走った。
「いやいやいや、杏里さん!そんなこと言ったら話がややこしくなるじゃないですか!」
僕は腕に抱きついている杏里さんを離そうとしたが、なかなか離れない。
「なるほど。二人の関係が良く理解できたよ。龍悟くんも隅に置けないね。それではこれで失礼するよ」
叔父さんは静かに玄関のドアを閉めて帰ってしまった。色々とわだかまりを残したまま…
「杏里さん。ふざけるのもいい加減にしてください。付き合ってるだなんて…」
「いいじゃん!私たち付き合ってるようなもんでしょ?休みの日はよくデートするし、よく電話やメールするし、よくご飯も一緒に食べるしね?」
杏里さんは玄関に置いてあるケースを持ち上げると、大事そうに抱き抱える。
「デートって言ってもいつも心霊スポットに行くくらいじゃないですか。それに僕はまだ高校生だし、杏里さんから見たら僕なんかはまだ子供でしょ?」
杏里さんはゆっくりと僕に近付いてくる。
「私が高校生を好きになったらダメなの?」
「いやいや、ダメ…ではないですけど、そんなことあり得ないというかなんというか…それに…」
「それに?」
杏里さんは僕に顔を近付け、ジッと僕の瞳を覗き込んでくる。
「僕、彼女いますから」
「そんなこと知ってるよ…だからどうしたの?」
杏里さんはにこりと笑うと、僕の前を通り過ぎて居間へと戻っていった。杏里さんに声を掛けようとしたが言葉が浮かばず、僕も無言で杏里さんの後に続き、居間に入った。
nextpage「バンッ」
杏里さんは机の上に黒いケースを置いた。このケースの中身が僕の想像している物でなければいいが…
「これでやっと逢える」
杏里さんは冷静さを取り戻したのか、真剣な眼差しでケースを見つめている。
「逢えるって、どういう意味ですか?」
杏里さんはケースを右手でゆっくりと撫でている。
「それはね…」
「うわぁっ!」
僕は思わず尻餅をついてしまった。
「えっ?何?どうしたの?」
杏里さんはしゃがみこむと、僕を心配そうに見つめてくる。
「杏里さん、あれ見て!」
僕が部屋の窓を指差すと、杏里さんは僕の指差す方をすぐに振り向いた。
「いやぁぁぁあ!」
杏里さんは悲鳴を上げて、しゃがんだまま後退りをしている。
僕が指差した窓には女性の姿が見える。その女性は干からびているかのように顔が酷く痩けていて、顔の色は灰色。首の骨が折れてしまっているかの様に不自然に首が斜めにだらんと傾いている。それに音はしないが、窓ガラスを何度も両手で引っ掻いている。
「…れさ…ば…」
杏里さんは何かを小さく呟きながら静かに立ち上がる。
「杏里さん?」
僕の声掛けに杏里さんの反応はみられない。杏里さんの目は虚ろで、脱力した様に背を丸くして少し前屈みになっている。
「こ…えあれ…」
杏里さんは机の上に置いてあるケースに近付くと、ケースの両側にあるロックを解除し、ゆっくりとケースを開けた。
杏里さんはケースから真っ黒な人形を取り出した。それは全身「毛」の様なもので出来ている。
あれは間違いない。『髪人形』だ。
僕は初めて髪人形を見た時のことを思い出し、身震いした。
杏里さんは髪人形を強く抱きしめる。
「これさえあればこれさえあればこれさえあればこれさえあればこれさえあれば…」
杏里さんは急に大きな声を出しながら、髪人形に頬擦りしている。
僕は力が入らない足腰に鞭打ちながら必死に立ち上がり、杏里さんの肩を揺らした。
「杏里さん!しっかりしてください!」
杏里さんは恍惚な表情を浮かべ、口からは涎を垂らしている。
「杏里さん!その人形を離して!」
僕も大声を出して杏里さんの両腕を掴む。
「わぁぁぁあぁあああぁああああ!」
杏里さんは口を大きく開けて叫びだす。目は血走り、焦点が合っていない。
僕は咄嗟に杏里さんの頬を強く叩いた。
杏里さんは大声を出すのを止め、深く俯くと、髪人形をケースの中にぼとんと落とした。
「杏里…さん…?」
「ごめん…」
杏里さんは正気に戻ったのか、顔を上げると僕の方を向いて、無理に笑顔を作った。
「ごめんね龍悟くん。なんか私おかしくなっちゃったね…」
「杏里さんのせいじゃありませんよ。この髪人形の影響ですよ」
僕はそう言いながら窓の方を見たが、先程の女性の姿は消えていた。僕はケースを閉じ、すぐにロックを掛けた。
「この髪人形は絶対危ない物ですよ。こんな物捨てましょう!」
「龍悟くん、髪人形のこと知ってるの?」
杏里さんはケースを優しく撫でている。
「良くは知りませんが、見たことならあります…」
「そうなんだ…でもね龍悟くん。これは捨てられないの。今の私に必要な物だから…」
「必要って、杏里さんはこれで誰かを呪う気ですか?」
杏里さんは優しく微笑む。
「龍悟くん。これは『藁人形』と全く違うのよ。形が似ているから強力な呪いがかけられると勘違いしている人がいるけど、これは全くの『別物』なの」
「別物ですか…じゃあ何に使うんですか?」
杏里さんは僕の問いに答えないまま床に座り込む。
「龍悟くん、座って」
僕は杏里さんの言う通りにその場に座った。
「これから少し長い話をするけど、聞いてくれる?」
杏里さんは今まで見たこと無いような真剣な表情で、僕を見つめる。
「はい」
僕はそれだけ言って頷く。
杏里さんは深呼吸を一つしてから話し始めた…
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杏里さんにはお兄さんの他に双子の妹がいた。名前は『梨央』といい、杏里さんと梨央さんはどこに行くにも、何もするにも常に一緒に行動していた。
杏里さんがまだ小学生の頃のある日のこと、杏里さんと梨央さんは二人で家の近くの湖に遊びに来ていた。そこの湖の水は澄んでいて、小さい魚やザリガニなどが豊富にいるということで、小学生達には人気のスポットであった。
杏里さん達が湖に遊びに行った日も、他校の小学生が沢山居て、ザリガニ釣りをして遊んでいた。
杏里さんと梨央さんもいつものように裸足になって浅瀬を歩き、魚等を観察していた。浅瀬の水の深さは膝あたりまでであったとのこと。
30分程経った頃に梨央さんは帰りたいと言い出した。いつもは1時間以上はいるのにどうしたのか疑問に思った杏里さんが梨央さんに尋ねると、両足が急に痛み出し、寒気がするとのこと。
杏里さんは梨央さんが湖の水で体が冷えてしまったと思い、早く湖から出ようと梨央さんの手を握ったが、杏里さんはすぐに手を離してしまった。
梨央さんの手が異常な程に冷たく、杏里さんは咄嗟に手を放してしまった。
梨央さんの体が小刻みに震えだし、「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…」と同じ言葉を繰り返しながら体を竦ませ始めた。
梨央さんは「杏里ちゃん、怖いよぉ」と言いながら杏里さんに手を伸ばしてきたため、杏里さんが梨央さんの手を掴もうとした瞬間、梨央さんが消えた。梨央さんが湖に吸い込まれるように一瞬で消えてしまった。
杏里さんは焦って辺りを見渡すが、梨央さんの姿は無い。梨央さんが立っていたところに大きな穴があったのかもしれないと思った杏里さんは必死に湖の底を確認したが、それらしきものは見当たらない。
まわりには他校の小学生と大人の人もいたため、事情を話して一緒に探してもらったが、暗くなっても一向に見つかる気配がない。
警察に届け出をだしたが、結局水難事故で行方不明ということで片付けられてしまった。
杏里さんは梨央さんが消えた日から毎日のように湖に行って梨央さんを捜したが、梨央さんが見つかることはなかった…
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杏里さんが話し終わってからしばらくの間、お互いに長い沈黙が続く。杏里さんはそんな過去があったのにまわりには明るく振舞い続けている。それは杏里さんの心の強さなのか、それとも…
考えれば考えるほど杏里さんに何と言ってあげたら良いのか分からなくなってしまった。
「ごめんねこんな話しちゃって!なんか重い話だったよね!ほんとごめん!」
杏里さんは笑顔で両手を顔の前で合わせた。
「いえいえ。僕の方こそ気が利いた言葉が出なくてすいません。杏里さんって強い人ですよね。そんなことが過去にあったのに、いつも笑っていられるなんて…」
「何言ってるのよー!私全然強くなんてないよ!」
杏里さんは僕の肩を軽くポンッと叩いてきた。
「私強くなんかないよ。現在だって思い出して泣いちゃうことあるもん。でも…」
「でも?」
「今は龍悟くんがそばにいてくれるから」
杏里さんは満面の笑みを浮かべている。
「私には龍悟くんや友達、お兄ちゃんがそばにいてくれるから笑えるんだよ。みんながいてくれるから今の私があるんだと思うんだよね」
杏里さんの話を聞いて、頭に『七海』の顔が浮かんできた。もし僕が七海と出会わなかったら僕は今どうなっていたんだろう…そう考えると無性に七海に会いたくてたまらなくなる。
杏里さんはニコニコと笑っているが、肝心なことを聞かなくてはいけない。
「杏里さん、梨央さんのことと、この髪人形は何の関係があるんですか?」
杏里さんは髪人形が入ったケースに手を置く。
「これはね、私と梨央ちゃんを会わせてくれるかもしれない大事な人形なの」
「会わせてくれるって…行方不明になった梨央さんとですよね?そんな力がこの人形にあるんですか?」
杏里さんはコクンと頷く。
「これは完全に推測だけど、梨央ちゃんは地獄に落ちちゃったんだと思う。この人形を『ある場所』で使うと、地獄にいる人を呼び出すことができるんだって」
杏里さんは物凄いことをさらっと話しているが、梨央さんは地獄に何で落ちてしまったのか、本当に地獄なんてところがあるのか、そもそもこんな気味の悪い人形にそんな力が本当にあるのか。様々な疑問が僕の頭を駆け巡っていたが、あまりにも杏里さんが真剣な表情をするので信じることにした。
「それに、この髪人形の力は強力だから、色んな悪霊を呼び込んでしまうみたい。だからさっき変な霊が窓に張り付いていたのかもね…」
杏里さんはちらっと窓に視線を向ける。
「そうなんですね。でもそれって危険なことなんじゃないんですか?」
杏里さんは再び僕の目を見つめる。
「危険だってことは百も承知!でも梨央ちゃんに会えるんだったら私何でもする!」
杏里さんはそう言うと急に立ち上がった。
「龍悟くん、着いてきて!龍悟くんに手伝ってもらいたいことがあるの!」
僕も杏里さんに釣られて立ち上がる。
「手伝ってもらいたいことって何ですか?」
「それは後で説明するね!とにかく行くよ!」
杏里さんは秘密道具が入っているリュックを背負い、髪人形が入っているケースを持ち上げた。
「行くって今からですか?!」
「もちろん!」
杏里さんは満面の笑みで僕の手を引く。
僕はとてつもなく嫌な予感がしてたまらなかったが、梨央さんの話を聞いて、僕に出来ることがあるのであればと思い、杏里さんについていくことにした…
nextpage僕と杏里さんは杏里さんが事前に呼んでいたタクシーに乗り込み、杏里さんの言う『ある場所』へ向かった。
1時間ほどすると住宅街から離れ、人気が殆ど無い道を走っていた。
さらにしばらくすると横に細長く、割と大きな建物の前にタクシーは停車した。
「着いたね」
杏里さんは運転手にお金を払い、僕たちはタクシーを降りた。
一見どこかの寮のような雰囲気の建物で、窓ガラスや入口の扉も割れたり壊れたりすることもなく、廃墟という感じでもない。
杏里さんは僕の顔を見て、『行くぞ』と言わんばかりに首を縦に振り、建物の入口へと向かう。
入口の扉の前に来ると、杏里さんはケースを地面に置き、ロックを解除した。
ケースを開け、ケースの中を手でまさぐると、ケースの中から鍵を取り出した。鍵は金属製の輪っかに二本繋がられていて、一本を扉の鍵穴に差し込み、右に回す。
「ガチャリ」
扉は難なく解錠され、杏里さんは扉をゆっくりと開け、中に入っていった。僕も杏里さんに続き、中に入る。
建物の中は夏場だというのにヒンヤリとしていて涼しく感じられる。
玄関入ってすぐ左に木製の下駄箱があるが、下駄箱の中には靴がぎっしりと規則正しく並べられている。
「ここって誰か住んでたりするんですか?」
杏里さんは首を傾げる。
「どうだろう…こんなに靴が置いてあるのは変だよね…」
杏里さんはそう言いながらも靴を脱いだため、僕も靴を脱ぐ。
玄関の正面に階段があり、杏里さんは迷うことなく階段を上がっていく。
「杏里さん、ここに来たことあるんですか?」
杏里さんを首を横に振る。
「初めて来るよ。でも、場所は分かってるの」
階段を上がり終えると、杏里さんは立ち止まり、一つ深呼吸をした。
「左の奥の部屋だから」
杏里さんはそれだけ言って廊下を歩きだす。廊下の右側は部屋が何室もあり、部屋のドアは全て閉まっている。
僕は杏里さんの後ろに着いていきながら、不気味な静けさを感じていた。物音一つしないのだ。たぶん誰も住んでいないんだろうと余計なことは考えないようにして長い廊下を歩いていった。
廊下の突き当りまで来ると、杏里さんは立ち止まる。
「ここだね」
杏里さんの言っていた『ある場所』に到着すると、僕の心臓の動きは一気に早まった。いつの間にか額に溜まっていた汗を腕で拭う。
ここの部屋だけ明らかに違う。他の部屋のドアは木製であったが、ここの部屋のドアは鉄製であり、色は真っ白。ドアにはお札が数枚貼ってある。
今すぐ帰りたい気持ちを抑えるので精一杯だ。
杏里さんは先程取り出した二本の鍵の内、入口で使ったのとは違う鍵を鍵穴に差し込み、右に回す。
「ガチャリ」
そして杏里さんはドアノブを握る。
「龍悟くん、いい?開けるよ?」
僕はゴクリと喉を飲み込む。
「はい…」
杏里さんはドアノブを回すと、一気にドアを開け放った。
ドアを開けると、暗闇が僕たちを待ち構えていた。不自然なほどに暗い。
「パチン」
杏里さんはおもむろに電気のスイッチを押す。
「カチカチッ、カチカチッ、カチッ」
天井にある白熱灯が部屋を白く照らす。
暗闇の原因が分かった。この部屋には『窓』が無いのだ。それに部屋が異常に広い。壁や床は真っ白で部屋の広さは20畳くらいはありそうだ。
ただ物は何も置いていない。テーブルにしろベッドにしろ何一つ置いていないのだ。
床を見ると、髪の毛が数本落ちているのが見える。
「それじゃあ準備するね」
杏里さんは部屋の真ん中まで移動し、ケースとリュックを床に置いた。
ケースの中から髪人形を取り出して、部屋の丁度中央あたりに人形をそっと置く。
「あの、僕は何をしたらいいですか?」
杏里さんは床に置いてあるリュックに手を入れて、中からお札の束を取り出した。
「龍悟くん、この札を持ってて!これから起こることが全て終わったら、髪人形のまわりにそのお札をありったけ貼ってほしいの」
「分かりました」
僕は杏里さんからお札の束を受け取った。
「それじゃあ始めるね」
杏里さんはそう言うと、人形の側に正座をし、両手を合わせた。
目を瞑ってお経みたいなのを唱えている。僕はただその行為を見守ることしかできない…
nextpage杏里さんがお経を唱えはじめてからどれくらい経っただろうか。真っ白で何もない部屋にいるため、時間の感覚が麻痺してしまっている。
時間が経てば経つほどに緊張感が増していき、見ているだけなのに僕の体は緊張感に過敏に反応しているのか、汗が次から次へと吹き出てくる。
杏里さんは大量の汗をかいていて、タンクトップは汗でうっすらと色が変わり、鼻や顎からはポタポタと汗が滴り落ちている。
何とも言えない熱気が僕と杏里さんを包んでいるようだった。
「ファサァ…」
突然髪人形に異変が起きた。髪をを束ねて結わいてあった紐がほどけて、人形は原型を保てず崩れる。
「ズズズズズ…」
一気に体が硬直する。
髪の毛の束が少し盛り上がっていくのだ。
「ズズ…ズズズズズ…」
髪の毛の束は尚も盛り上がり続けている。
「ズッ…」
髪の毛の盛り上がった先端部分から人の手が突如として這い出てきた。それは手首のあたりまで出てきていて、色は紫色でところどころ黒く変色している。
それはみるみると上に向かって伸びていき、肩のあたりまで出てくると、カクンと肘を曲げて床に手をついた。
「杏里さん!」
危険だと思い、杏里さんを呼ぶも、杏里さんの反応はない。
杏里さんはその手を握ると、膝を立てて無理やり引っ張った。
「ズズズズズズズズズズ…」
髪の毛の束から上半身が姿を現した。
それは小学生くらいの女の子で顔や体全体が濃い紫色をしていて、やはり所々黒く変色しているように見える。
僕はあまりの出来事に息を呑んだ。
杏里さんはその子のことを抱きしめる。
「やっと逢えた…逢いたかった…ずっと逢いたかった…」
杏里さんは肩を震わせて泣いている。
「イタイヨォ…クルシイヨォ…サムイヨォ…ヒトリハヤダヨォ…コワイヨォ
…」
「大丈夫。もう大丈夫だから」
杏里さんはその子の頭を優しく撫でる。
「ヒトリニシナイデ…ヒトリニシナイデ…ヒトリニシナイデ…ヒトリニシナイデ…」
その子から発せられる無機質な声に僕はどこか気持ち悪さを感じてしまっていた。
「梨央ちゃんごめんね。もう二度とひとりになんかしないから。私がずっと傍にいるから」
杏里さんは更にきつくその子のことを抱きしめる。
その子は行方不明になった時のままの姿なのか、髪は濡れているように見える。
「ズズズ…」
急にその子の体が髪の毛の中に沈み込む。
「杏里さん!梨央さんの体が髪の中に沈んでますよ!離れた方がいいですよ!」
その子はがっちりと杏里さんに抱きついているため、離れることができないのか、杏里さんは微動だにしない。
徐々にその子の体は髪の中に沈み、上半身は胸の位置くらいまで沈み込んでいる。
このままでは杏里さんが髪の中に引きずり込まれてしまう。
「杏里さん!危ないですって!!」
僕は杏里さんを助けようと杏里さんの腕を掴もうとした。
「触らないで!!」
杏里さんは大声で叫ぶ。
そして僕の方を見て、ニコリと笑う。
「ごめんね大きな声出して。でも絶対に私に触らないで。龍悟くんまで連れて行かれちゃうから」
「何言ってるんですか!このままじゃ杏里さん引きずり込まれちゃいますよ!そんなの見ていられないです!」
話している間にもその子の体はどんどん沈み、その子を抱きしめている杏里さんの腕は髪の毛の中に入り込んでしまっている。
杏里さんの体がみるみると紫色に変色する。
「くっ…」
杏里さんの顔が苦悶の表情に変わる。
「私ね、もう梨央ちゃんをひとりにしないって決めたの。龍悟くんや他のみんなに会えなくなるのはすごく辛いけど、梨央ちゃんはもっと辛かったんだよ。ずっとひとりぼっちで…梨央ちゃんをもうひとりにはしたくないの。龍悟くんごめんね」
杏里さんは瞳に涙を浮かべている。
「そんなの僕は納得できません!」
「龍悟くん…大好きだよ」
杏里さんはにこっと笑い、髪の中に消えてしまった。
僕は杏里さんの体を押さえようとしたが間に合わなかった。
でも体が咄嗟に反応し、僕は床の髪の毛の束に右手を突っ込んだ。
冷たい。髪の毛の中はまるで氷水に手を入れているかのように痺れるような冷たさを感じる。
無我夢中で髪の毛の中を弄るも、もう杏里さんの体に触れることは出来なかった。
「杏里さん…」
僕はポツリと呟くと、髪の毛の中から腕を引き抜き、その場に座り込んだ。
どうすればいい…どうすれば杏里さんを助けられるのか…
例えこれが杏里さんが求めていた形であったとしても、このまま放っておく訳にはいかない。
僕はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、『笹木さん』に電話を掛けた。
「おう、龍坊。どうした?」
笹木さんの声を聞き、心が少し落ち着いた。
「笹木さん!杏里さんが大変なことに!」
「杏里がどうしたって?!詳しく説明しろ!」
僕は今の状況をなるべく詳しく笹木さんに説明した。
「何やってんだこの野郎!場所教えろ場所!とにかく早くその場所を教えろ!」
笹木さんは興奮した口調で怒鳴る。実の妹が危険な状態になっているので無理もない。
僕は今いる場所の道順を説明した。
「大体分かった。すぐ行くから待ってろ!」
道に詳しい笹木さんは僕の説明でどこにいるのか理解してくれたらしい。なんと心強いことか。
電話を切ると、僕の右腕に異変が生じていた。
僕の右腕に痺れるような感覚が襲ってくる。
右腕を見てみると、紫色に変色している。右手の先から肩のあたりまで色が変わっていた。
「痛っ!」
痺れるような感覚は次第に突き刺すような痛みに変わっていく。
たまらず右腕を左手で押さえるが、痛みは徐々に増していく。
右腕の激痛に耐えられず、僕は右腕を押さえたままのた打ち回る。
「ズズズ…」
奇妙な音が聞こえ、音の方に視線を移すと、髪の毛の束が僕の方に少しずつ移動してきているのが見えた。しかも髪の毛の量が増えている。
髪の毛は僕の体まで近付くと、更に量を増やし、僕の体に纏わりついてきた。
抵抗しようと手で髪の毛を払おうとするが、あっという間に僕の体は髪の毛に覆われてしまった。髪の毛は僕の全身をきつく締めつけてくる。
呼吸をするのも苦しくなり、意識が朦朧としてきた。
「龍悟くん、今助けるからね」
男性の声が聞こえた。その声は聞き覚えがある声だ。
全身に温かさを感じた瞬間に、僕の全身を覆っていた髪の毛が離れていった。同時に右腕の痛みも和らいでいる。
「大丈夫かい?」
声がする方を振り向くと、そこには叔父の尚人さんが居た。叔父は人差し指と中指を合わせて僕の右腕に押し当てている。
僕の腕は紫色から元の色に戻っていった。
「何で叔父さんがここに?」
叔父は僕の肩に腕を回し、優しく上半身を起き上がらせてくれた。
「君のことが心配で様子を見にきたんだよ」
「ありがとうございます。でも何でここの場所が分かったんですか?」
叔父は手で自分の顎を撫でる。
「髪人形を持った人の大抵がこの場所を訪れるからね。それにここは僕の知人の所有する建物なんだ」
叔父には色々と聞きたいことがあったが、今は聞いている時間はない。
「叔父さんお願いです!杏里さんを助けてください!杏里さんがその髪の毛にのみ込まれてしまったんです!」
叔父は眉間にしわを寄せて、人差し指でこめかみ部分をトントンと叩いた。
「うぅん…龍悟くんには悪いが、杏里さんを助けることは出来ない」
「何でですか?!何で出来ないんですか??!」
僕は叔父の服の袖を引っ張る。
「何でと言われても私にはあそこから助けられる力は無いんだよ」
叔父は髪の毛の方を指差す。
「あれはね、この世とあの世を繋いでくれる道具なんだよ。あの世と言ってもそれがどんな世界なのか詳しくは分からないが、私たちが居る世界とは全く異次元な場所だと思う。そして…」
「そして…?」
「あれは言わば片道切符の様なもので、向こう側へは難なく行くことが出来るが、向こうからこっちの世界に来る場合は、上手く魂を留めておくことが出来ないんだ」
「魂って言っても、杏里さんは死んじゃった訳じゃないですよね?!」
「もし仮に肉体が無事であったとしても、魂が一緒に戻ってくるとは限らない。魂と肉体が一緒に戻ってきたとしても、魂は再び向こうの世界に引っ張られてしまうだろう」
僕は下を向き、ガクッと肩を落とす。
「それじゃあ、杏里さんはもう…」
叔父はそれ以上何も言わず、胸ポケットから煙草を取り出し、火を付けた。
深く煙を吸い込むと俯きながら煙を吐き出す。
「私の力では助けることは出来ないが、私の知人に頼めば何とかなるかもしれない」
折れかけていた気持ちが叔父の言葉で何とか持ち直すことが出来た。
「叔父さん!その人に頼んで下さい!お願いします!お願いします!!」
「頼んではみるけど、何せ気難しい人でね…まぁ龍悟くんの頼みってことで引き受けてくれるかもしれないね」
「えっ?その人は僕も知っている人ですか?」
「君は知らないかもしれないが、向こうは君のことを知ってるよ。会いたいと思ってるんじゃないかな?」
何か叔父の歯切れが悪い言い方に少し苛立ちを覚えたが、少しでも可能性があるのであれば直ぐにでも頼んでもらいたい。
「叔父さん!」
「分かってる分かってる。直ぐに電話してみる…」
「ガチャ」
急に部屋のドアが開く音が聞こえた。
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ドアの方に視線を送ると、ドアが開いた隙間から、真紅のオーラが溢れ出ているのが見える。
「おい、龍坊」
ドアを開けて入ってくる一人の大男…
『笹木さん』だ。
笹木さんは部屋に入るなり僕に近付くと、僕の胸ぐらを掴んだ。
「おめぇの言ってた『クソ人形』はどこだコラ」
笹木さんの声はいつもより一段とドスが利いている。
「うっ、ちょっ、ちょっと落ち着いてください!苦しいです。苦しいです!」
笹木さんの馬鹿力のせいで、僕は胸ぐらを掴まれたまま、体が宙を浮いてしまっている。
「『カス人形』はどこだって言ってんだコラ。早く言えコラ」
笹木さんは鬼の形相で僕を睨み付ける。
胸ぐらを掴む手を何度も叩いたが下ろしてくれそうにない。
僕は髪の毛の束の方を指差した。
「あれです!でも紐がほどけてしまって、今は髪の毛の束になってますが!」
笹木さんは僕を乱暴に下ろすと、すたすたと髪の毛に近付いていく。
「勝手なことをしないでくれるかな」
叔父が笹木さんの前に立ち塞がる。
「あ?何だてめぇ」
笹木さんは叔父の顔に顔を近付け、至近距離で睨み付けている。正に一触即発だ。
「だから勝手なことをするなって言ってるんだよ」
叔父も少し興奮気味だ。
「うるせぇこの野郎!」
笹木さんは大きく振りかぶって、叔父に殴りかかる。
叔父は半身に構え、笹木さんの拳をかわすと、笹木さんの腕を掴み足をかけ、笹木さんを床へと転がした。
笹木さんはすぐさま立ち上がり、戦闘体勢に入る。
叔父は合気道をやっていると聞いていたが、まさか笹木さんの拳をかわすとは…素直に叔父のことを凄いと思った。
いや、関心している場合じゃない。二人の喧嘩を止めなくては。
笹木さんがもう一度叔父に殴りかかろうとしているため、僕は意を決して笹木さんの前に出て、喧嘩を止めようとした。
「喧嘩はやめてくださっ…」
「ゴスッ」
鈍い音が聞こえ、左頬に激痛が走り、口の中いっぱいに鉄の味が広がる。
「邪魔すんじゃねぇよ」
笹木さんは僕の肩を強く押してくる。よろけながらも僕は笹木さんの腕を掴んだ。
「いい加減にしてください笹木さん!」
笹木さんは僕の髪の毛を荒々しく掴み、ぐいっと顔を近付ける。
「あ?」
「杏里さんを助けたい気持ちは僕も同じなんです!ここで喧嘩していたらただの時間の無駄だと思いませんか?こうしている間にも杏里さんは…」
「そんなこと分かってんだよ」
笹木さんは掴んでいた僕の髪から手を離す。
「笹木さん、杏里さんを助ける方法は何か考えてるんですか?」
「そりゃあ、あれだ。そこの髪の中に入って杏里を連れ戻す。それだけだ」
「あそこに入るって、危険ですよ!もしそれで二人とも戻って来なかったらどうするんですか?!」
「まぁ、そん時はそん時だ。やってみなきゃ分かんねぇしな」
「それじゃあ僕が困るんです。目の前で杏里さんが消えちゃって、笹木さんまで消えちゃったら…」
笹木さんは頭を掻いている。
「僕の大切な人をあんなものに二人も奪われたくないんです!」
「わぁーた!分かった分かった!おめぇの気持ちは良く分かった。でもよぉ龍坊。おめぇの方は杏里を助ける何か良い手はあるってのか?」
笹木さんはやっと少し興奮が治まったようだ。
僕は首を縦に振った。
「叔父さんの知り合いの人が助けてくれるかもしれません」
叔父の方を見ると、叔父は電話を掛けていた。
「叔父さんってのはこいつのことか?」
笹木さんは叔父のことを指差す。
「はい。その人が来てくれれば…」
叔父は電話を切ると、携帯電話をズボンのポケットに入れ、僕を見て微笑む。
「来てくれるそうだ」
叔父の言葉で一筋の光が見えた気がした。その人が来れば杏里さんは助かる。今はそう信じるしかなかった。
「ここに居ても何だから、彼女が到着するまで下で待つことにしよう」
叔父はそう言うと部屋のドアへ向かった。
「おい。その『彼女』ってのはほんとに杏里を助けられるんだろうな?」
笹木さんはズボンのポケットに手を突っ込み、叔父を睨む。
「私は助けられると思う。いや、正確には今のこの状況を何とか出来るのは彼女以外には無理だろう」
叔父はそう言いながらドアを開ける。
「そいつは一体何者なんだ?」
叔父は笹木さんの方を振り返り、いつもの『作り笑い』を見せる。
「会えば分かるよ」
叔父はそう言って部屋から出て行った。
「なんだそりゃ」
笹木さんも不機嫌そうに部屋を出ていく。
叔父の言う『彼女』とはどんな人なのか。僕の心に好奇心が募っていく。髪の毛の方を見るが、髪の毛はピクリとも動かない。
僕も先に出た二人を追いかけるように部屋を後にした…
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僕と叔父と笹木さんは無言のまま玄関付近で彼女が到着するのをひたすら待った。
笹木さんはイライラしながら廊下を歩いてみたり、外に出て煙草を吸ったりとしている。対照的に叔父は階段に座り、静かに外を見つめていた。僕は叔父の隣に座った。
「叔父さん、今から来る人って霊媒師なんですか?」
「霊媒師…まぁ生きた人間と霊との中間に位置する存在という部分では共通しているけど、彼女はもっと神秘的で、天使のようでもあり悪魔のようでもある。決して人知では計り知れない、得たいの知れない存在だね」
僕は叔父の説明を聞いて少し怖くなった。得たいの知れない存在…今まで色んな人に会ってきたけど、多分僕の想像を遥かに超えている人なんだろう。
「その人は何で僕に会いたがっているんですか?」
叔父は僕のことを優しい眼差しで見つめる。
「龍悟くんは彼女に会うのが怖いかい?」
なんだか叔父に心を見透かされている様な気がする。
「はい、少し怖いです」
叔父は僕の頭に軽く手を乗せる。
「怖がることは何もないよ。彼女は運命を知っている。君に会いたがっている理由は直接彼女に聞いてみるといい。それと、彼女の前では『嘘』をついてはいけないよ。彼女の中では『嘘』は最も重い罪に値するからね」
そう言うと叔父は急に立ち上がった。
「来たね」
車が近付いてくる音がする。叔父と僕は外へと向かった。
黒い車が僕たちの前に止まり、運転席から小柄で白い髭を蓄え、黒のタキシードを着た男性が降りてきた。
その男性は不機嫌そうにこちらを見る。
「どうも」
叔父は頭を下げて挨拶する。
「まったくお前さんはいつも急なんじゃよ。じゃが『紫音』様は今回は何も文句も言わずに引き受けておったが、お主まさか紫音様の弱みを握ってたりせんじゃろな?」
男性は人差し指を叔父の胸に押し当てた。
「いやいや、そんな卑怯なことはしませんよ。たぶんこの子が居るからじゃないですか?」
叔父は苦笑いをしながら、僕の肩を叩いた。
男性は僕の方をジロリと睨むと、頭の先から足先までジロジロと見てくる。
「ほぅ、これはこれは…」
男性は髭を触りながら、車の後部座席のドアを開けた。
「紫音様、どうぞ御足元にお気を付け下さい」
後部座席から一人の女性が降りてきた。
僕はその女性の姿を見て、全身に雷が落ちたような感覚に陥った。
その女性は長い白金の髪を後ろでまとめ、肌は透き通るような白さで、目は大きく、瞳は淡い赤色に見え、そして濃い目の紫の着物を着ている。
僕は彼女の姿に心を奪われてしまった。
彼女は僕の方に向かってくる。ゆっくりと、そして確実に。
彼女は僕の前まで来ると、頭を軽く下げた。
「初めまして。私『紫音』と申します」
紫音さんは頭を上げると、僕を赤い瞳で見つめてくる。
「あっ。はっ、初めまして。りゅ、龍悟です」
紫音さんは両手で僕の左右の肩を掴んできた。
「失礼お許しください」
紫音さんは僕の顔に鼻を近付け、顔全体の匂いを嗅ぎ始めた。僕は緊張して体が硬直してしまっている。
匂いを嗅ぎ終えると、僕の首筋に頬を当ててきた。
紫音さんの突然の行動に、僕はもう何が何だか分からなくなっていた。
紫音さんは顔を上げ、目を細めてにわかに笑った。
「とても良い匂い。間違いありませんでした」
僕は紫音さんの言っている意味が理解できなかった。
笹木さんが僕と紫音さんに近付いてくる。
「さっきから何してんだよ。こっちは待ちくたびれてんだ。早く…」
「触らないで」
笹木さんは紫音さんの肩に手を伸ばしたまま動かなくなってしまった。
それに一瞬だったが、紫音さんが言葉を発した時に、紫音さんから黒いオーラが出ているように見えた。
「紫音さん、お久しぶりです。案内しますので着いてきてください」
叔父が紫音さんに話し掛けると、紫音さんは無言で頷いた。
叔父と紫音さんが建物の中に入っていく。二人の姿が見えなくなると、笹木さんは金縛りが解けたように動き出した。しかも何故か肩で息をしている。
「笹木さん大丈夫ですか?」
「あの野郎…」
笹木さんは大粒の汗をかき、まだ呼吸が整のわない。
「気を付けなされ」
運転手の男性が声を掛けてくる。
「気を付けろって、何をだよ」
笹木さんは男性を睨み付ける。
「紫音様に不用意に近付くと命の保証はない。肝に命じとけ若僧」
「うるせぇよ」
笹木さんは首を左右に傾け、首の骨を鳴らしながら建物の中に入っていった。僕も笹木さんの後を追う。
先程の部屋に入ると、紫音さんが髪の毛の束の近くに膝をついて座っていて、髪の毛を数本拾い、照明の明かりに照しながら、髪の毛を観察していた。
「『あなた方』はまだこんなものを作っているのですね。今回のような被害者が何人出ていることやら…」
叔父は紫音さんを見下ろしている。
「私達はただ、幸せな世界を創ろうとしているだけです。そこに被害者という概念は皆無です」
「あなた方の考えや行動はこの先とても大きな災いをもたらすでしょう。それでもあなたは今と同じことが言えますか?」
叔父は不気味な笑みを浮かべる。
「全てはあの方の思し召し。紫音さんの言う運命がどうであれ、私はあの方の御導きのままに行動します。それが今の私の役割であり、宿命でもあるのです」
紫音さんは髪の毛をパラパラと床に落としていく。
聞いてはいけない会話を聞いてしまった気がした。『あの方』の存在が気になるが、もうこれ以上足を踏み入れてはいけない…
「あのぉ、紫音さん」
紫音さんは僕の方を振り向き、立ち上がる。
「龍悟さんのご友人を早く助けなければいけませんね」
紫音さんは杏里さんを助ける『方法』を丁寧に説明してくれた。
まず僕が杏里さんのことを頭に思い浮かべる。そして紫音さんが僕を通じて、杏里さんの魂と体をこっちの世界に近付けるので、僕が髪の毛の中に手をいれて、杏里さんを引きずり出す。本来であれば一度向こうの世界に行ってしまった魂はこっちの世界で留まることが出来ないみたいだけど、紫音さんは杏里さんの体の中に魂をしっかりと繋ぎ止めてくれるという。
笹木さんが僕の代わりに杏里さんを引きずり出すと提案したが、最後に会った人でないと駄目らしい。
そして、紫音さんの説明の後に叔父から、髪の毛の前ではもうこの世にいない人に逢いたいと思ってはいけないと言われた。
あの髪の毛の中にまた手を入れるのが正直怖い。でも杏里さんを助けるためならやるしかない。今は笹木さんも、叔父も、それに紫音さんもそばにいてとても心強い。
僕は緊張で乱れてしまっている心臓の鼓動を感じながら、髪の毛の束に近付き、しゃがみこんだ。
紫音さんも僕の隣に膝をついて座る。
「龍悟さん、最後に忠告があります」
紫音さんは真剣な表情で僕を見てくる。
「忠告とは何ですか?」
「ご友人を助けるまで私の手を離さないでください。それと、もしご友人以外のものが出てきてしまっても、決してそれには触れないでください」
「もし触れたらどうなるんですか?」
紫音さんは僕の手を握りしめてくる。
「もし私の手を離したり、向こう側のものを触れた場合は向こうの世界に引きずり込まれてしまいます」
背筋に冷たいものが走る。
「分かりました」
僕はそれだけ言って、視線を髪の毛の方に向けた。
「それでは始めます」
紫音さんはそう言うと、唄を歌い始めた。それは民謡のようであったが、聴いたことがない唄だ。
紫音さんの歌声はとても綺麗で脳に直接響いてくるようだった。
僕は目を瞑り、杏里さんのことを頭で思い浮かべた…
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少し経つと紫音さんが手を強く握ってきた。
それに反応して目を開けると、僕たちの居る部屋が薄く黒い霧で包まれているのが見えた。
紫音さんの方を見ると、歌いながら僕を見て頷いた。
僕も無言で頷き、手を髪の毛の束の中へゆっくりと入れた。
やはり髪の毛の中は冷たく、心まで冷えてしまいそうだ。
僕は意を決して肩のあたりまで一気に腕を入れていった。
少しまさぐると、僕の腕に何か当たった。
僕の腕に当たったのは杏里さんだろうか、それとも…
今は考えてても仕方ない。
僕はそれを掴み、力の限り引っ張った。
髪の毛の中から人の腕が出てくる。そして、女性の頭が次に出てきた。
杏里さんだ。
僕は息を弾ませながら、更に引っ張ると、杏里さんの上半身、そして下半身が髪の毛から出てきた。
杏里さんの足には…
梨央さんがしがみついている。杏里さんは気を失っているみたいで、ぴくりとも動かない。
「イヤダヨォ、ヒトリニシナイデ、イッショニイテヨォ…」
梨央さんはそう言うと、杏里さんをまた髪の毛の中に引きずり込もうとする。
このままでは不味い。せっかく杏里さんをこっちの世界に戻せたのに、梨央さんが連れていってしまう。
僕は杏里さんが髪の中に引きずり込まれないように、力いっぱい杏里さんを引っ張ってはいるが、腕の力もそろそろ限界だ。
そんな時、笹木さんが僕の視界に入った。
笹木さんは梨央さんの体を掴み、無理矢理杏里さんと引き離す。
「笹木さん!触っちゃだめですよ!!笹木さん、すぐ離してください!!」
笹木さんは梨央さんを離すどころか、優しく抱きしめた。梨央さんは笹木さんの腕の中で泣いている。
「ひとりで辛かったな。もぅ終わりにしような」
笹木さんからは真紅のオーラが溢れだす。
そして、梨央さんは泣き止むと、少しずつ体が薄くなり、やがて消えてしまった。
杏里さんを見ると、床に横たわっていて、口からは白い煙のようなものが出ていた。
紫音さんは杏里さんの背中に手を当てて、何かを唱える。
すると、白い煙のようなものは杏里さんの中に戻っていった。
「これでこの方はもう大丈夫でしょう」
紫音さんはそう言って立ち上がった。僕は紫音さんの言葉に心から安堵した。杏里さんは助かったんだ。
笹木さんが梨央さんに触ってしまった時はどうなることかと思った…
梨央さんは笹木さんに抱かれながら消えていったけど、兄弟である杏里さんにもお兄さんにも逢うことが出来て成仏することが出来たのか。それとも…
僕はこの時、心の片隅で父に逢いたいなと、無意識に思ってしまった。
「初めて見ました…『魂喰い』」
紫音さんが笹木さんの方を見ている。
「たまくい?何ですかそれ」
僕は魂喰いという言葉を初めて耳にする。
「『魂喰い』とは言葉の通り、魂を喰らうということです。自分の体の中に魂を入れ、魂を無にしてしまうのです。魂喰いに関しての書物を拝見したことはありましたが、まさかこんなところで見れるとは…」
紫音さんは興味深々な様子だ。
梨央さんはやはり成仏した訳ではなかったのか。
「確か魂喰いは、その魂の恨み辛みや、強い怨念を全て受けとめるとこになるから、魂喰いをするには相当な修練が必要だと聞くよ。修練を積んだ人でも精神が壊れてしまったり、それが原因で早死にしてしまうと謂われているから、現在では魂喰いを出来る人はほんの僅かみたいだけど、こんなところで出会えるなんてね」
叔父はそう言うと、煙草に火を付けて、煙を深く吸い込む。
「あ?何だその『たまくい』ってのは?」
笹木さんは頭を掻き、魂喰いのことを理解していない様子であった。
「まさか魂喰いのことを知らないでやったのか?!これはこれは何とも…」
叔父は笹木さんを馬鹿にした様な表情で笹木さんを見ている。
笹木さんの拳に力が入っていくのが分かる。
紫音さんは何故か床の髪の毛の方を見ていた。
「紫音さん、どうかしましたか?」
紫音さんは返事をしてくれない。紫音さんの表情が徐々に険しくなる。
髪の毛の束から黒いオーラが微々たる量であるが、出てきている。
「皆さん!何か来ます!」
紫音さんは大きな声を上げる。
紫音さんの声でただならぬ雰囲気を感じたのか、笹木さんも叔父も髪の毛の方に視線を移した。
部屋全体にピリピリとした緊張感が漂い、空気が張りつめていく。
突如髪の毛の中から腕が伸びてきた。そして何かが髪の毛の中から這い出てくる。
それは男の人のように見える。
叔父は何かを察したのか僕の顔を一瞬見つめ、すぐに男性の方へと視線を戻した。
その男性が這い出てきて立ち上がるまで、誰一人声を上げるものはいなかった。
男性がゆっくりと顔を上げる。
僕はその男性の顔を見た途端に涙が溢れてきた。止め処なく流れてくる涙は僕の視界をぼやけさせていく。
僕は涙を拭い、しっかりと男性の顔を確認した。間違いなく父だ。父が僕に逢いに来てくれたんだ。
僕はずっとこの時が来るのを待っていた。ずっと、ずっと父に逢いたくて仕方がなかった。
父への想いが僕の足を一歩先へ踏み出させる。
今すぐ父に抱きつきたい。父の温もりを感じたい。
感情を抑えることが出来ずに僕は父へと近付いた。
「近付いてはいけません!」
紫音さんの声が聞こえたが、僕の頭にはもう届いてこない。
僕の目の前には父が立っている。
「お父さん…」
父に声を掛けるが、父の反応はない。
「お父さん、僕大きくなったよ」
「・・・・・」
「僕、友達もできたんだよ」
「・・・・・」
「お母さんがね、僕の顔がお父さんに似てきたって言ってくれたんだよ。すごく嬉しかったんだ」
「・・・・・」
「お父さんの夢をよく見るんだよ。この前は一緒に遊園地にお母さんとお父さんと僕で遊びに行った夢をみたんだ」
「・・・・・」
「ねぇお父さん…何か言ってよ…」
「・・・・・」
僕がいくら話しかけても父は返事をしてくれることはなかった。
父は俯き、体を左右にゆらゆらと揺らしている。
紫音さんは僕に近付き、腕を掴んできた。
「龍悟さん、目の前にいる人は姿かたちは龍悟さんのお父様に見えると思いますが、魂は『別物』です」
僕は紫音さんの手を振り払う。
「あなたに僕の父の何が分かるんですか!」
紫音さんは困った表情に変わる。
「おい龍防、危ねぇからとにかく離れようや」
今度は笹木さんが僕の腕を掴み、無理矢理僕のことをドア付近まで引きずるように移動させた。
僕は抵抗したが、笹木さんの力には敵わなかった。
「オイ…コッチコイ。コッチコイ」
父は僕が離れると、僕の方に腕を伸ばしてしゃべり出す。
「お父さん!今行くよ!」
僕は立ち上がって父の方に向かおうとするが、笹木さんがそれを阻止する。
「コッチコイ…コッチコイ…」
父は僕を呼び続ける。
紫音さんと叔父は何か目配せをしている。
叔父は髪の毛の束を掴むと、父のまわりに円を描くように髪の毛を下に落としていく…
それは一瞬の出来事だった。
紫音さんが唄を歌うと、父は苦しみだし、一瞬で円の中に消えていってしまった。
本当に一瞬の出来事。一瞬で父は消え、一瞬で僕の想いがかき消され、一瞬で僕の幸せな時間が…
終わってしまった。
僕はその場に立ち尽くした。立ち尽くすことしかできない。
いくら笹木さんが僕を慰めようと、いくら叔父が『あれは父ではなかった』と言おうと、僕の心には少しも響いてこない。
分かってるんだ。
分かってるんだよ。
あれは父じゃないってこと…説明されなくても分かってる。
分かってるんだよ。
お願いだから言わないで。同情しないで。僕に現実を突きつけないで。
本当は分かってるんだから…
紫音さんは僕に近付くと、僕のことを抱きしめた。細い腕で力いっぱいに。
体の力が全て奪われてしまったように、僕はがくっと膝を付く。
紫音さんもしゃがみ込み、今度は柔らかく僕を抱きしめた。
そして子守唄のような唄を歌い、僕の背中をポン、ポンと優しく撫でるように叩いてくる。
紫音さんの歌声に僕の感情は解放され、紫音さんを強く抱きしめて僕は泣いた。
皆に聞こえるくらいに大きな声を上げながら子供のように泣いた…
どのくらいの時間泣いただろうか。
僕が泣き止むと、紫音さんは口を耳元に近付けてきた。
「龍悟さん…私とあなたの魂は元々は一つ。あなたが悲しめば私も悲しくなります。あなたが辛ければ私も辛くなります。あなたが笑えば、私も…笑顔になります」
紫音さんは僕の肩を掴むと、顔を離した。
紫音さんも大粒の涙を流して泣いている。
紫音さんは涙を流したまま静かに微笑んだ。
僕も笑った。
nextpage叔父は髪の毛を丁寧に回収し、ケースの中に入れる。叔父には聞きたいことがある。
「叔父さん、さっきのことなんだけど…」
叔父はケースを持ち上げる。
「最後に出てきた人のことかい?龍悟くんには悪いが、今は話す時期じゃないんだ。時が来たら話すから、それまで待っててくれ」
叔父はそう言って、紫音さんに軽く会釈をして部屋から出て行った。
僕は叔父の言う通りに待つことにした。叔父が話してくれるその時が来るまで。
建物の入り口に戻ると、タキシードの男性が後部座席のドアを開けて待っていた。
「龍悟さん、また逢いましょう」
「紫音さん、本当にありがとうございました。それと…」
「それと?」
僕は恥ずかしかったが、気になっていたことを聞いてみた。
「紫音さんは何で僕なんかに会いたがっていたんですか?」
紫音さんは赤い瞳で見つめてくる。
「先程も言いましたが、私と龍悟さんの魂は元々は一つなのです。龍悟さんとは契りを交わさなくてはなりません。それは古来より決められしこと。私は龍悟さんの魂を確かめたかったのです」
紫音さんの言っていることが難しくてよく理解出来ない。
「それではまた…」
紫音さんが車に乗り込むと、すぐに車は行ってしまった。
杏里さんはまだ気を失ったままなので、笹木さんが車の後部座先に杏里さんを横にし、僕は笹木さんの車の助手席に座った。
笹木さんは車のエンジンをかけて車を走らせた。
nextpage「よぉ龍坊。あんまり心配かけんなよな」
笹木さんは前を見ながら僕に話しかけてくる。
「笹木さんすいません…危険だと分かっていたんですが、杏里さんが梨央さんに凄く会いたがっていたので」
「その梨央ってのは誰だ?」
笹木さんは僕の方をチラッと横目で見てくる。
「梨央さんですよ。杏里さんの双子の妹さんですよね?最後に笹木さんが梨央さんを抱き抱えていたじゃないですか」
笹木さんは何か考えている様子で少し無言になる。
「なぁ龍坊よ。おめぇ何か勘違いしてねぇか?俺と杏里は二人兄弟だぞ?」
「えっ?」
笹木さんが何を言っているのかよく把握出来ない。
「うふふ…うふふふふふ…」
杏里さんが起きたのか、後部座席から笑い声が聞こえる。
振り返ると杏里さんは体を起こして、車の窓に指で文字をなぞっているのが見えた。
「うふふ…梨央ちゃんだぁぁあい好き…」
僕は杏里さんを見て寒気を感じた。
「梨央ちゃん…」
「また逢おうね」
作者龍悟
ご無沙汰しております。
少し怖くてほんわかしていた高校生活から一変、これから更に怖い体験が待っています。
まだまだ続きますので投稿するのが大分遅くなってしまってますが、お付き合いいただけれだと思います。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。