これは、僕が21才頃にした実際の体験談です。
何年も前のことですが、最近になってその頃を思い出す出来事があったため投稿をすることにしました。
当時、専門学校の卒業を機に引っ越しを考えていた僕は友人が住んでいたのをきっかけに○○駅で物件を探すことにした。地方出身者の自分にとって、高層のマンションなどがあまりないその街は雰囲気にも好感がもてたからだ。
後日、さっそく物件探しに不動産屋を数件回ったが時期が悪かったのか、なかなか条件に合ったところはみつからず最後に入った不動産屋で物件情報を見せてもらいながら粘っていた。
用意できる金額も決まっていたため条件に合わないと見るやいなや提示される物件を端から却下していたが、まだ新人だとゆう担当者さんは嫌な顔せず丁寧な対応をしてくれた。
ひとしきり目を通し、場をなごまそうと冗談半分に金額が抑えられればいわく付き物件でも構わないなどと話していると担当者は思い出したように
「実は、一件お客様の条件を満たす物件が空きそうではあるのですが…」
そう言うと奥から物件情報を持ってきてた。
間取り、月々の家賃などが記載された用紙に目を通すと頭金を含め、見事に希望を満たしている。
「しかも礼金無し!なんだ~やっぱり持ってるんじゃないですかぁ」
僕はそう言ってすぐの入居ができない理由をたずねた。
なにやら得意先の管理会社の物件で、前住人が2ヶ月ほど家賃を滞納しているため孤独死を心配をした管理会社の人が確認に行ったが中には誰も居らず、連絡もつかないのだという。
賃貸契約により、滞納が3ヶ月続いた場合は部屋内の荷物を処分し空き部屋として貸し出すことになっていて先日、ちょうどその期限を迎えたのだそうだ。
なかなか条件に合う物件がみつからずにいた僕は、他の人に取られまいと外観や立地だけでもすぐに見れないか頼むことにした。
すると意外にもあっさりと管理会社の了承がおり、16時に内見に向かうことになった。
現地周辺まで車で移動し、そこからなだらかな坂になった小道を入ると似たようなアパートがコの字に並び袋小路になっていた。建物の裏手が雑木林のせいか、まだ明るさが残る時間なのに西日は遮られ、少し湿った風が吹いてくる。
「あちらのお部屋ですね」
指さされた二階の部屋を見て目を疑った。
外から見えた部屋の窓ガラスには、白い和紙の様なものでびっちりと目張りされていたのだ、部屋の中が全く見えないほどに。
苦笑いをしている僕をチラっとみて不動産屋さんは少し申し訳なさそうに言った。
「実は先日、同じように外観を見たいという女性がいたのですが、これを見るなり住む気にならないと言われてしまいまして…」
確かにこれは、女の子にはキツだろう。
不動産屋さんはこう続けた
「先程、管理会社に内見可能な時期についてもきいたのですが、中に荷物が残っている状態でもよければ今日してもいいそうですよ」
契約解消されているとはいえ人の部屋に勝手に入って良いものかとも思ったが、家賃を踏み倒し、そのまま蒸発してしまう人も多い都会では不動産屋や管理会社がまだ荷物の残る部屋にやむを得ず入る事は珍しくないそうだ。
ただ、そこに内見希望者がいることは、やはり稀だろう。
しかし、その時ぼくは良心の呵責や恐怖心よりお化け屋敷に入る時のような怖いもの見たさの好奇心が勝っていて迷わず内見をお願いした。
外階段を上ると、内見をする部屋と同じドアが並んではいるが外に傘などは置いてなく、生活感が無いかったのでお隣さんが住んでいるのかを伺い知ることは出来ない。管理会社が鍵を開けておいてくれたらしく、心の準備をする間もなくドアが開らかれた。
中に入ると備え付けの下駄箱があり、胸ほどの高さの天板の上には普通のことのように塩が盛られていた。
それを見て不動産屋さんと目と目を合わせたがあの窓ガラスの後だ、これくらいしてあってもなんの不思議はないと、あえて言葉を交すこともなく中を見渡したす。
玄関スペースの先は3メートルほどの短い廊下があり、すぐ右手に6畳間の引き戸、次に左手にトイレのドア、突当りにキッチンスペースのドア、と配置されている。いわゆる風呂トイレ別の1DKの間取りだ。
自分たちが来る前に管理会社が来ていたなら、中に人は居ないとはわかっていながらも居合わせたときはどう謝罪をしようかなどと考えつつ、靴を脱ぎ廊下にあがった。
まず、上がってすぐの6畳間を見てみることになり磨りガラスの引き戸を開ける。
室内の様子からするに、いつ住人が戻って来てもおかしくない印象を受けた、まるで朝に出かけた時のままの様な。
もっとも過去に蒸発をした人の部屋を見たことがあるわけではないから比較対象はできないのだが。
部屋へ入ると最初に目が行ったのは、やはり窓だった。
外から見た時、左右にずらせる窓が一組かと思われたが、部屋角の柱を挟んで90度に二組並んでいて、見えていなかった方の窓もやはり、和紙の様な紙でびっちりと目張りされている。
紙は横に長い帯状で、それをガラスはおろかサッシにも直接ノリで何枚も貼り重ねて隙間を埋めてある感じだ。もちろん鍵は触れない、カーテンをつけるだけでは駄目だったのだろうか。
そんな事を考えながら不動産屋さんの方に目をやると、不思議そうな顔をして木製の台に乗せられたブラウン管テレビを見ている。どうかしたのかと聞く前に僕もその理由に気が付いた。
何の変哲もない普通のテレビだったが、電源コードが差されていないのだ。コンセントの差しこみ口は部屋の反対側に一か所あるが電源コードが届く距離ではない、延長コードも見当たらずビデオ等の周辺機器が設置されているわけでもない。たまたま、そこに置いてあっただけと言われればそれまでなのだが、それもとても不自然に感じたのを覚えている。
部屋の奥には、廊下に先に見えたキッチンルームへ入れる扉と洋服棚があった。
洋服棚に関しては、引き出しを開けて中を見るのはさすがに忍びないと思い、ひかえる事にしたがかけられている服からするに住んでいたのは女性一人のようだ。
ぼくたちは部屋の奥の扉からキッチンルームへ入ることにした。
五畳ほどのキッチンスペースにある裏の雑木林側の窓もやはり目張りがされており、サッシの前には塩が盛られている、隣にある風呂場の入口にある段差にも。
結局、風呂場やトイレといった水回りに変わった様子は無かったものの、個室とゆう個室全てに塩が持ってあるとゆう状態だったが救いだったのは冷蔵庫の中を含め、腐る様な物が無かったおかげで二ヶ月以上もそのままにされていたのに異臭などはなかったこと。
聞くに、孤独死などで人が腐乱したまま長期間放置されると、なかなかその臭いが部屋からとれず壁はもちろん床も張りかえなければならないそうだ。
ひとしきり見て外に出ると外はうす暗くなっていた。
「肝試しみたいになってしまいましたね、戻って別の物件を探しましょうか」
一仕事終えたようにしている不動産屋さんをよそに、このとき僕は不謹慎だが事件現場に足を踏み入れたかのような感じにワクワクしていた。
「中の物は処分していただけるんですよね?」
そう切り出すと、不動産屋さんはその日一番の反応をみせた。
次の日、不動産屋から入居可能日の連絡が入った。物件の持ち主である管理会社の対応は迅速で、四、五日で入居可能だという。
管理会社からのご好意とでも言えばいいのだろうか、欲しいものがあれば譲ってくれると言うので、好奇心からあの使用用途不明のテレビをもらうことにした。
週末、契約を済ませて同じ駅に住むことになる友人に手伝ってもらい引越しをすることとなった。
現地に着き、部屋に窓を見上げると一面にあったあの目張りはきれいになくなっており、中はきれいに掃除されていて以前入った時はうす暗かった室内は明るく別の物件の様だった。六畳間の畳も新しいものに張りかえられていて、室内にはあのテレビだけがぽつんと置かれている。
「しかし、お前も変わってるよなぁ。そんなものみといて住もうってんだから」
友人はそう言いながら、あまり気にする素振りもなく運び込みを始めた。
新居での生活が始まり、何事も無く二ヶ月程経ったころ引越しを手伝ってくれた友人と飲みに行くことになった。
「お前、それどうしたの?」
店に入って上着を脱ぐといつも飄々としている友人が少し真剣な顔で言ってきた。
ここ最近、首から肩や胸にかけてひっかいた様な痕がよくできる。寝ている間にやってしまうらしいのだが、表皮からの出血は無く、傷ではなく内出血の赤い色が筋状についている感じだ。
「あのお化け屋敷のせいなんじゃねえの~?」
なかなか治らないと嘆く僕を尻目にそう友人はそう言って笑っていた。人事だと思って、とも思ったがこうゆう物怖じしない人間が居ると何かと心強いものだ。
帰りがけに友人が、今度は自分の彼女も混ぜて新居で宅飲みしようと言い出した。大方、彼女を怖がらせようとでも考えているのは察しがついたが、何も言わず誘いに乗ると休みの予定を確認にして友人は上機嫌で帰って行った。
宅飲みの日、僕はアルバイトがあったため、合鍵を渡して友人たちには先に家に入っていてもらうことにした。
いざバイトが終わって急いで帰ろうとすると、友人から電話が来た。
「わりぃ今日の飲み会、おれの部屋でもいい?」
ぼくはてっきり友人が彼女に部屋のことを話して嫌がられたのだと思い言い返えす。
「お前、よけいなこと言ったんだろー?」
すると友人は
「いや、それが何も話してないのにお前のアパートの前まで来るなり急に入りたくないって言いだしてさぁ。
もし話してたら、そもそも家の前までも来ないだろ?まぁいいや、とりあえず後で話す」
そう言ってさっさと電話を切られてしまった。
友人の部屋に着くと、すでに鍋の用意が始められており片手間に彼女を紹介された。
「はじめまして、△△です。」
愛想がよく、相手の目を見て話してくるのが印象的な女の子だった。
僕のアパートに近づくのを嫌がって入ろうとしなかったと聞いていたが怒っている様子は無い。
彼女は挨拶を済ますと突然、僕に後ろをむくよう言ってきた。
何か仕返しでもされるかと思いながら言われるがまま背中を向けると、彼女は手の平と甲で往復するように僕の肩をパンッパンッと軽くはらうと、何事もなかったかのようにテーブルへ案内してくれた。
「ビールでいいですか?」
彼女はそうきくと、僕がうなずくのをみてキッチンの方へ戻って行ってしまった。
友人達が用意を終えテーブルに着くと、何を思ったのか空気を読み違えた友人は勝手に乾杯を言ってビールを開けた。
僕と彼女の間には、彼が心配しているような険悪な感じはなく、どこにでもある初対面の人間同士の気まずさがある程度だ。
ただ、僕はそれがどうでもよく感じるくらい先程の彼女の行動が気になり、ビールを一口飲んでいきなり尋ねた。
なぜなら、さっきされたのと同じ行動を幼い頃にされたことがあったからだ。
彼女は横目でちらっと友人の方をみたあと、こちらに目を戻し
「変だと思われるのは嫌だから、あまり話したくなかったんだけど。」
そう言って小さなため息をして話し始めた。
彼女はお祓いで知られる神社の娘で、友人へはたまに家業の手伝いをしているという程度のは話しかしていなかったそうだ。
今回は友人が言っていた通り、僕の部屋については事前に何も聞かされてはいなかったが建屋に近づいたとき、足がすくみ悪寒がして入るのを拒否したのだという。
「さすが神社の娘!霊感ってやつ?」
それを聞いて半信半疑の僕たちが茶化すように言うと彼女は慣れた口調で答えた。
「霊が見えるとか、テレビに出ててる人の様な力は私には無いよ。お祓いや厄払いに始まる憑き物落しの多くは、法具や様式を用 いて先人たちのこさえてくれた知識に頼った儀式を行うだけなの。」
彼女が言うに、そういった神事はなにも霊が視えている人間がやらなくてはならないわけではないだという。
あまりにも具体的な回答が返ってきたものだから、ぼくたちはすごんでしまい聞き入ってしまった。
「ほらーっ。こうゆう反応されるのが嫌なのよー」
「じゃあ、霊感が無いならなんで、こいつに部屋に行くのためらったんだ?」
我に返った友人が言った。もっともな疑問だ。
「○○くん達も、仕事をしたらそれに慣れるでしょ?必要な知識が身に付いたり、要領を得たり。それと一緒じゃないかな」
もはやまともな回答では無い気もしたが、何故か納得せざるを得なかった。
僕は好奇心のおもむくまま、乗り気でない彼女に気になったことを聞きまくった。
中でも興味深かったのが背中を払ったあの行為。あれは何を意味しているかだ。
子供の頃、友達の家に遊びに行ったときに友達のおばあちゃんに同じことされたことがあるのを伝えると
「その方は厄落しについて知識をお持ちだったのかも知れませんね」
そう言って簡単な説明をしてくれた。
風水を含めたいわゆる『よくない場所』に行った後は、誰かにああして誰かに背中を払ってもらうことで、簡単な厄払いが出来るそうだ。
これも霊感の有る無しに関わらず効果があるらしく、誰かといた場合はそれをお互いに行えばいいだという。
「で、こいつの部屋にはやっぱりなんかあるわけ?」
友人の言葉で話しは本題へ戻された。
「正直わからない、ご本人様を前にごめんないさい」
彼女はそう答えると罰がわるそうにしていた。
「まぁ、なんかあったら○○ちゃんちの神社に頼めばさ」
そんな彼女を気遣ってか友人がそう言って氷を取りに立つのをみて、僕も気にしないでくれと伝えた。
その日は他の話でも盛り上がり、帰る頃には外は明るくなりかけていた。
アパートの裏の雑木林から女性の変死体がみつかったのはそれから二日後のことだった。
長らく草木が放置されたままだった土地に、自治体により剪定にが入った際にみつかったそうだ。
身元不明の変死体発見で取材が来るなどして、ちょっとした騒ぎにはなったものの直接の死因は睡眠薬等の過剰摂取による中毒死らしく、他殺ではなかったためか長くは報道されなかった。
それを知った友人は騒いでいたが、いくら自分の家の裏で死体がみつかったからとはいえ急に生活を突然変えるわけにもいかず、普段通り過ごしていると数日経って警察の人が訪ねてきた。
ドラマなどで見る刑事の聞き込みとは随分とイメージが違い、来た人は二人とも警察署にいる国章の刺繍が入った水色のシャツを着ていて、鬼気迫る感はなかった。
内容はもちろん先日みつかった女性の死体について。
うっすら想像はしていたが、発見された女性は前住人だったらしく自分が入居してから誰か訪ねて来りといったことはなかったか、前住人宛の手紙などが届いていれば見せてほしいといった内容だった。
他殺じゃないと報道までされているのにどうしてそんな確認が必要なのか、不思議に思った僕は答えてもらえないのを承知で聞いてみることにした。
「あのー、事故か自殺でらしたんですよね?」
警察官は小さく二回うなずいて言った。
「現在お住まいの方が心配なさるのはもっともだと思います、報道もされていましたが変死体であったのは事実なので、事件性も加味して確認を行っています」
結局、詳しいことは教えてもらえないまま、前住人宛ての手紙や訪問もないことを伝えると警察署の内線番号を残し帰っていった。
それから一週間ほど経ってからだろうか、身寄りがなかったという前住人の供養を兼ねて草木が片付けられた雑木林でお経があげられることになった。
自分は出席しなかったが、土地の持ち主や不動産関係者は来ていたらしく、その帰りだといって物件を一緒に内見した不動産屋さんがあいさつに来てくれた。
「お世話になっております、この度は私の紹介させていただいた物件でこのような事になり大変ご迷惑をおかけいたしました」
頭を下げる不動産屋さんに対し誰かに予想できるような事じゃない、気にしないでほしいと伝え、一緒に内見をした時と見違えた部屋をみせたかった僕はお茶の一杯も出すことにした。
「まるで別の部屋のようですね」
そう言って何度も室内を見渡していた。
「そういえば警察の人が聞き込みに来たんですよ」
僕が話の種にそう話すと彼は不思議がる様子もなく言った。
「そうでしたか、管理会社さんのところにも来ていたそうです。私も店で聞いた話なんですが
なんでも首から胸にかけて皮膚がめくれるほど激しくかきむしった後があったのが理由で変死体と騒がれたらしいですよ」
それを聞いてゾッとなったと同時に、自分でもどうしてだかわからないが首元にある内出血を隠さなければならないと思いシャツのボタンを一つ閉めた。
そんなことをよそに不動産屋さんは部屋を見渡している。
「あれ、もしかしてあの時のテレビじゃないですか?本当に使ってるんですか?」
「ちゃんと映るんですよ、これ」
テレビを見つけると、よほど印象に残っていたのか内見が終わった後に見せたようなその日一番の反応をした。
「もし、他の物件を探されるおつもりでしたら、できる限りのお手伝いをさせていただきますのでいつでも言って下さいね」
不動産屋さんなりの気遣いだったんだろう、そう言うと何度も頭を下げながら帰って行った。
結局、僕はその好条件を捨てきることができず、一年ほど住んで新しく決まった就職先へ通う距離を考えてその町を離れることになった。
最後まで前住人宛の手紙や訪問は無く、警察も来ることが無かったのでやはり単なる事故自殺だったようだ。
治っては消え治っては消えしていた筋状の内出血は、病院にも行っても原因は分からずじまいだったというのに、今の生活になってすぐにできなくなった。
数年が経ち、最近になってすっかり顔を合わす機会が無くなっていた友人と久しぶりに合うことになり、僕は久しぶりにあの町を訪れた。
駅まで迎えに来てくれた友人とあいさつを交わすと、友人は僕が住んでいた物件へ行ってみようと言い出した。
そんなことを言い出すんじゃないかとは思っていたが、僕あのアパートが今どうなっているか気にならないわけでもなかったので行ってみることにした。
お互いの近況報告をしながらアパートへ続く小道に入ると、通りとは違い湿った風が吹いてくる。
「駅前は変わっても、ここは変わらないな」
駅前は新しいお店ができていたりして雰囲気が少し変わっていたが、その部屋がある辺は以前のままのように感じた。
友人は変わらずこの町に住んでいるが、駅を隔てて反対側であるこちらへ来ることはほとんどないそうだ。
建屋につく頃、前を歩いていた友人がつぶやくように言った。
「おい、あれ…」
指差されたた先を見て言葉が出なかった。
あの部屋の窓には新聞紙が窓一面に張られていたのだ。
日は落ちかけていたが電気などはついていない、中に人が居るかまでは分からなかったが、ぼくたちは急いできた道を戻った。
「いやぁびっくりだな、内見したときもあんな感じだったのか?」
新聞紙でなかっただけでやってることは同じだ。あの部屋の窓は北側を向いていて日差しなどに何の問題もない、ましてそれならカーテンを付ければ済む話だ。普通に暮らすのにあんなことをする理由などないことは住んだ人間ならよく分かる。
友人の部屋に着いてしばらく話すと、彼女へ電話をかけてさっそく今日の出来事を報告をしていた。
「彼女がよろしく伝えてってさ」
話終えるとキッチンへ氷をとりに行って戻ってきた友人が表情を歪めて言った。
「お前、首のそれって」
渡された鏡を見てみると、首から胸にかけて爪でかきむしった痕のように線状の内出血ができていた。
あの部屋へ行ってものの一時間だ、もちろん自分でやった覚えなどない。
「やっぱりなんかあんじゃないのか?あの部屋」
それから僕たちは思い出したかのように顔を見合わせると、お互いの背中を手ではらった。
wallpaper:698
あれから二週間が経ったが、まだ首元や胸の痕は消えていない。
作者退会会員
#gp2015