6月1日
良い苗床が手に入った。
まだ若いし、何より体力がある。
かれこれもう2時間も叫び続けている。
明日からの観察が楽しみだ。
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6月2日
本日はいよいよあれを開始。
やはり苗床は頑として口を開かなかったため、やむを得ず開口器を使用した。
万力の要領でみるみる苗床の口が開かれていった。
俺はすかさず、直径30㎜のアクリルパイプを苗床の喉に押し入れた。
そして、ジョロウグモ、コガネグモ、クロオオアリ、アシナガバチ、トビズムカデ、ヒメカマキリ、ニクバエの計7種類16匹(内10がクロオオアリ)を苗床の食道に流し込んだ。
苗床は暴れたが両手両足を拘束されて動くことはできない。
一連の流れが住んだ後、苗床の口をガムテープで塞いだ。
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6月3日
苗床がしきりに喉を気にしている。
どうやら、まだ蠱どもは苗床の食道にいるらしい。
いや、這い上がってきたのだろうか。
恐らく何匹かは既に胃で消化されてしまっただろう。飛べるモノ、脚に毛があるモノ達は生きるために戻って来たのだ。
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6月4日
苗床が咳き込むようになった。
蠱どもの影響だろうか。
様々なプレデターやスカベンジャーを放り込んだが、彼の消化管は現在どうなっているのだろうか。
想像するだけで胃酸が込み上げてくるような心地だ。
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6月5日
ガムテープに血が滲んでいることに気づいた。
気になってガムテープを剥がしてやると、苗床は口の中のモノを吐き出した。
どうやらずいぶん吐血していたらしい。
床に血だまりができている。
その中心には奴らが「あった」。
3日前に放り込んだトビズムカデとニクバエだ。
・トビズムカデ
半分は消化されてしまっているが、体の節々に食いちぎられた跡が確認できる。クロオオアリの仕業だろう。
・ニクバエ
消化された形跡も、目立った外傷も見られない。
死因は餓死だろうか。
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6月6日
性懲りもなくあの女が金をたかりに来た。
薄汚いハエめ。毎月送っている養育費だけでは満足できないというのか。
あいつは離婚してもなお、俺を苦しめている。
俺の地位を奪い、愛する息子を奪い、そして今金さえも奪おうとしている。
当然怒鳴りつけてやったが、あいつはまた来ると笑いながら帰って行った。
今に見ていろ、お前は罰を受けるんだ。
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6月7日
苗床がいつも以上に暴れ出した。
よほど苦しいのだろう。
彼の身体は今修羅の場と化している。生きながらの地獄だ。
彼に恨みはない。俺は息子の親権を取り戻せれば彼を解放することを約束し、地下室を出た。
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6月8日
苗床の叫びは今もなお続いている。
白目をむいて、口を除く穴という穴から水分が溢れている。
食事を与えていないため体力も限界のようだ。
苗床は今、死と戦っている。
私にできるのはただ蠱どもの決着を待つのみだ。
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6月9日
警察が聞き込みに来た。
苗床の男を捜索している。
俺はそこで初めて苗床の名を知った。
「佐藤大介」
君には本当に感謝している。
佐藤大介は今日も地下室で、誰にも届かないと知りながら叫び声を上げている。
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6月10日
佐藤大介が死んだ。
いつものように様子を見に行くと、彼の身体は小刻みに震えており、時折ビクッと痙攣。
それが数分続くと、何の前触れもなくうなだれ、動かなくなった。
死とは悲しいものだ。
自然と涙が流れた。
今まですまなかった。そして、解放してやれなくてすまなかった。
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6月11日
佐藤大介の死から1日。何の変化も見られない。
暗い地下室に拘束された死体があるだけ。
蠱は出て来ない。
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6月12日
蠱はまだ出て来ない。
ここ最近の雨で湿気が酷い。
早くしなければ佐藤大介が腐ってしまう。
せめてもの償いとして佐藤大介を生前と変わらぬ姿のまま家族に返したい。
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6月13日
ついにこの時が訪れた。
ジョロウグモだった。
佐藤大介の口はガムテープで塞いでいたため、鼻から這い出て来た。
このジョロウグモこそが、あの忌々しい虫を食い殺すだろう。
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6月14日
もう一度あれについておさらいしたいと思う。
・蠱毒
古代中国で用いられた呪術。
複数の虫を同じ容器で飼育し、共食いをさせる。そして最後に残った蠱を呪いたい相手へ金銭と共に贈りつける。
相手は定期的に人間を与え、蠱を養わなければならない。もしもそれを怠れば蠱は相手を殺す。
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6月15日
あの女がまた訪ねて来た。やはり今回も金をよこせと言って来た。
好都合だ。
俺は3万とジョロウグモの入った茶封筒を渡してやった。
これでやっとあの女に復讐できる。
俺はやり遂げたんだ。
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6月16日
何ということだ。大変なことになった。
奴はとんでもない置きみやげを残していた。
佐藤大介の遺体を家族に返すべく、手始めに口に貼ったガムテープを剥がした。
すると、皮膚まで剥がれてしまった。剥き出しになった歯茎からはどす黒い血 流れ、ボタボタと床に落ちた。
それだけに飽きたらず、佐藤大介の歯茎で蠢くモノどもがいた。
ニクバエの幼虫。すなわち蛆だ。
大きさはそれほどないにしても数が多い。奴らが一斉に佐藤大介をクチャクチャと食らう咀嚼音が俺を震え上がらせた。
ニクバエが死んだあの時、せめて子供だけでもと佐藤大介の歯茎に卵を産みつけたのだろう。
奴は試合に負けて生存競争という勝負に勝ったのである。
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6月17日
地下室を完全に封鎖した。
このままでは、奴らを養わなくてはならないのは俺になってしまう。
奴らの数はいくつだ?50か?100か?
俺はどうすればいいんだ。
今朝は台所で一匹の蛆を見つけた。
すぐに踏み潰したが、もう奴らがそこまで迫っている。
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6月18日
今日は風呂とトイレで一匹ずつ見つけ、その場で踏み潰した。
時間がない。
しかし逃げようとしても無駄だ。
先ほど玄関で30以上の蛆を見つけた。
奴らは俺を外へ出さない気だ。
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6月19日
こうなれば強行突破だと玄関へ降りた結果、足の小指がなくなった。
口が小さい分ジワジワと肉をえぐられ、地獄の苦しみを味わった。
佐藤大介はもっと痛かったのだろう。苦しかったのだろう。ガムテープを剥がした時、彼の舌は穴だらけになっていたのだから。
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6月20日
私は諦めた。
もう何をしても無駄だ。
今日は居間で両足のかかとをやられた。
これでは逃げることは愚か歩くこともままならない。
辺り一面蛆で真っ白だ。
今は机の上に避難しているが、奴らは続々と登って来ている。
いつまでこの日記を書いていられるだろうか。
もう俺に助かる道はない。
佐藤大介には申し訳ないことをした。
もし可能ならばもう一度会って謝りたい。
息子をもう一度抱きしめたい。
そしてもう一度お父さんと呼
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shake
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7月1日
私は息子をあのクモの化け物に譲り渡した。
あの子は泣いていたけど私は無事。
でもまた次の人間を要求された。
私はどうすればいいの?
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7月2日
化け物を住まわせている部屋に行くと、あいつは息子の脚をしゃぶりながら次の獲物を催促してきた。
早く持って来なければ私を食うとも言っていた。
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7月3日
私は同僚の佐藤里沙にこれから家に来ないかと電話した。
彼女は最近旦那が失踪して抜け殻状態になっていたため、相談にのると言ったら喜んで来ると言ってくれた。
本当にバカな女。
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7月4日
私はつかの間の安全を得た。
作者千月
蛆ネタは過去に使っているのでできれば使いたくなかったのですが、最近スランプで良いものが書けないので過去に考えていたこの作品を投下します。