中編7
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夢の中の女の子

これは僕が高校生の時に体験した話です。

・・・・・・・・

高校生だった時、僕はある夢を見た

その夢の中の僕は大体5〜6歳の年齢で、兄に手を引かれて夜の街を歩いている

(僕は男4人兄弟の末っ子で、この時手を引いていたのは3男です)

2人で歩いているその夜の街は僕がその時通っていた高校の周りの住宅地だった

僕が通っている高校は、自分の住んでいる町の隣町で、本当ならば5〜6歳の時の僕はまだ見た事がないはずの土地だったが

夢の中だからか全くその事に違和感を感じなかった

そんなふうに見慣れた風景なのだが、夢の中で身も心も子供になっている僕はその夜の雰囲気がとても恐ろしく、兄の手に縋り付きながら恐る恐る歩いていた

「ねぇ・・・お兄ちゃん早く帰ろ・・・」

「うん・・・・」

兄も少しその雰囲気に怖がっているように見えた

そして

少し歩くとその住宅地の中で見慣れない公園を見つけた。

どの遊具も錆びついている。古い公園のようだ。

しかし、他の風景はいつもの住宅地なのだがその公園だけは僕の記憶にはない

こんな公園こんなとこにあったっけ?

歩きながらその公園の中をじっと見ていると、公園の中でブランコの一つだけが揺れている事に気付いた

「キィ・・・キィ・・・キィ・・・」

錆び付いたブランコの揺れる音だけが聞こえてくる

人がいるのだろうか?

そう思い、暗い公園の中を目を凝らした

よく見たらその揺れるブランコの横に5〜6歳の女の子が立っている

その子は揺れるブランコの横から僕達兄弟をじっと見つめていた

白っぽい服を着た小学生低学年くらい?の子供だ

一目で僕はその子が

「普通」のモノでは無いのだと悟った

その女の子は少し笑ってるようにも見える

ふと兄を見ると、兄もその女の子を見つけたようで顔が青ざめている

「ねぇ・・・・お兄ちゃん・・・アレ・・・」

僕が不安そうに兄の手を引っ張ると

兄は急に慌てだし

「アレはやばい・・・見るな・・・!走るぞ!」

と、兄はいきなり僕の手を引っ張り、住宅地を抜けた先の大きな通りへと向かって走り出した

僕はその手に引かれ思いっきり走った

あの子が追いかけてくるような気配を背中に感じる

後ろを振り向いてはいけない!

追いつかれてはいけない!

早く!

早く逃げないと!

必死の思いで僕は走った

でも子供の体の僕の足は短い

どうしても兄のスピードについていけない。

でも僕の手を引く兄のスピードはどんどん上がっていく。

「待って!待って!!待って!!!」

僕がどれだけ叫んでも兄の走るスピードはどんどん上がっていく。

そのスピードについて行けず、僕の手は少しずつ兄の手から離れて行く。

僕が兄の名を呼んでも兄は振り向きもしない。

そして大きな通りに出るすぐ手前で、兄の手が完全に僕の手から離れた。

僕は叫んだ

「危ない!!!!!」

shake

sound:24

バンッ!!!

その瞬間

僕の目の前で

兄の身体は横から走ってきたトラックに跳ね飛ばされた

ーーーーーー

そこで僕は目を覚ました

悪夢で飛び起きるなんて事は、今まで何回かあったでも、その夢の目覚めの感覚は未だ嘗て体験したことがない。

身体の震えが止まらず、

冷や汗で身体はびっしょりと濡れていた。

そして、頭の中ではあの女の子のこちらを見る顔と、兄が目の前で跳ね飛ばされた瞬間の映像が何度も何度も再生されていた。

直感で感じた

この夢はただの悪夢じゃない・・・・

・・・・・・・・

それからだった。

僕の周りで不思議な現象が起こり始めたのは

夜遅くに勉強をしていると部屋の外で子供の声が聞こえる

家の外の自動販売機でジュースを買っている時に後ろで子供の走る音が聞こえる

朝起きると家の玄関にシロツメクサの花冠が落ちている

こんな現象が一ヶ月の間、何度も起こった

そのどれもがあの女の子に繋がっているようで僕は恐ろしく、

耐えきれずに親にその事を話した

・・・・・・

しかし、両親とも僕の話を信じてはくれなかった

まぁ確かにどれも実害はある訳でも無かった

その為

僕はその内に気にしないように気にしないようにと、その現象をスルーするようになっていった

無視していればきっといつか治るだろう

そう思っていた

しかし、それでもスルー出来ないような現象がある日起こった

僕はその日の夜、自分の部屋でヘッドホンをつけて音楽を聴きながらゲームをしていた。

周りの雑音をシャットアウトして音楽を聴き

何も考えずにゲームに熱中するこの時間は本当に大好きな時間だった。

僕がそのゲームに熱中していると、どこか聴いていいる音楽?音?に違和感を覚えた

「・・・〜・〜・・・〜・・・・」

何か音楽の中に雑音が混じってる?

「〜〜・・・・・〜〜・〜・・」

いや?ゲームの音か?いや、でもゲームの音は切ってるし・・・・・

「〜〜・・・〜・〜・・・・〜〜」

やっぱり聞こえるウォークマンが壊れたのか・・?

いや・・・・違うなこれはヘッドホンから聞こえてる音じゃない・・・・

そして僕はヘッドホンを外した

すると

「アァァァァァァァァァァァァ!!!!」

sound:39

shake

飛び込んできたのは耳をつんざくような女の子の泣き叫ぶ声だった

ヘッドホンをつけていたから気がつかなかったが、その声の大きさは本当に家中に響き渡るほどだった。

どこから聞こえてくるんだ!?

音の出所を探る

すぐに分かった

窓の外だ

僕の部屋は1階、外は歩道だ

時間は深夜

こんな時間に子供が外を出歩いているわけがない

しかもこの声

まるで今にも自分が殺されるかのような、断末魔に近い泣き声

こんな泣き声は今まで聞いたことがない

僕はあの女の子の顔を思い出した

絶対あの子だ!

窓の外にあの子がいる!

でも窓のカーテンを開ける度胸も部屋を出て行く度胸も僕にはない

僕は電話を取るとすぐさま親に電話をかけた

両親が寝ているのは自分の部屋の真上の部屋

この泣き声で親も飛び起きているはず

prrrrrr・・・・ガチャ・・・・

「・・・何こんな夜中に・・・どうしたの・・・」

「母さん!?今起きたの!?この声聞こえる!!??」

僕は半ば泣きつくかのように母に訴えた

「外で誰かが泣いてる!!すごい声で!!!」

しかし帰って来た返事は、期待していたものでは無かった

「ハァ?・・・・いや?何にも聞こえないけど?」

ん?この声が聞こえていない?そんなはずが・・・

「いや!女の子のすごい泣き声が聞こえるんだって!」

「・・・・・女の子ぉ・・・?・・・・多分アレだよ・・・」

母は気だるそうにこう推理した

「猫が盛ってるんだって、猫が盛るとそんな声出のよ・・・もういい?寝るよ?」

そう言うと

「ガチャ・・・・」

電話を切られた・・・・

確かにネコは盛ると聞いたことがないような鳴き声を上げる。

でもこの声は間違いなく人の声だ!

そしてもう一つ気づいた事がある。

今もこんなに大音量で鳴り響いているこの声が上の部屋に聞こえていないわけがない。

電話越しでも母には聞こえていないようだった。

つまり、この声は僕にだけ聞こえている!

その後もその泣き声は止まず、僕は布団にくるまり震えながらその声に耐えていた

今まで起こっていた現象とは違い、僕の頭の中でアラートが最大音量で鳴っている。

これは大変なことになった

こうなってはもう無視なんてできない

早く夜よ明けてくれ!!!

耳を塞ぎ布団にくるまり僕は心の中で何度も叫んだ

何十分?何時間?経っただろうかその声は急にぴたりと止んだ

その夜はそれ以降声が聞こえてくる事はなかった

そして、僕はいつの間にか寝てしまっていた

ーーーーーー

またあの夢だ

僕の手を兄が引いている

あるはずのない公園が見えてきた

あの子が公園の中で立っている

兄が僕の手を引き、走り出した

僕はそのスピードに付いていけない

兄の手が僕の手から離れた

兄が目の前で跳ね飛ばされた

でもその後に少しだけ続きがあった

兄が轢かれ呆然としていると道路の向かいで

あの女の子が笑っていた

ーーーーーー

そこで僕は目覚めた

いつもの朝だ

僕は部屋を恐る恐る出て

震えながら朝食を作る母のところへ向かい昨晩の経緯を伝えた

母はそれを聞き、震える僕の姿を見て初めて

「お祓いしてもらおうか」

と言ってくれた

その日は学校を休み、馴染みのお寺の和尚さんを呼んでお祓いをしてもらった

棒に白いヒラヒラ付いてるあの例のやつでやって貰った

あとなんか棒で凄い叩かれた

すんごい痛かった

そしてそれから僕の周りで不思議な事が起こる事は無くなった

・・・・・・・・・

それから数年後

何事もなく僕は大学生になった

そしてある日、僕はあの夢の舞台だった住宅地に住んでいた友人と酒を飲む事になった

ふと、あの夢の事を思い出しその友人にその事を話す

すると

友人はとても驚いた顔をしてこう言った

「お前の話に出て来る公園、昔あったぞ」

僕も驚き手元の紙ナプキンを手に取り

夢の中に出てきた公園の場所や遊具の配置を書いて見せると

「そう!ここ!これ!何で知ってんの!!??」

とさらに驚いていた

友人が話すには、そこの公園は友人が小さい頃に遊んでいた公園なそうで

その公園は友人が小学生低学年の頃には無くなってしまったそうだ

隣町のそんな昔の公園の事なんて僕が知ってるはずもない

しかもその友人も忘れていた遊具の配置なんて覚えているなんて事あるはずも無い

夢の中の話が一気に現実味を増してきた

しかし何故だ?

何故そんな昔の公園が・・・?

僕は思いを巡らせた

「懐かしいなぁ・・・よく遊んでたなぁ・・・」

と、懐古している友人の隣で僕はあの夢の事をもう一度思い出して呟いた

「あの子は誰だったんだろう・・・・」

・・・・・・

あの夢の中の女の子

何故あの子は僕を選んだのだろうか

あの古びた公園であの子は僕に何を伝えたかったのだろうか

あの叫ぶような泣き声は何を意味していたのだろうか

寂しかったのか、忘れて欲しくなかったのか

はたまたあの子の気まぐれだったのか

僕も誰も

もうその真実を知る事は出来ないのだろう

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