中編6
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意味が判ると怖くない話

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#1.

長い、ほんとうに長い“鬼ごっこ”だった。

味方のいない私は孤独に震えながら、

地獄のような日々を逃げ続けていた。

いつ捕まってしまうだろう。

どんな目に遭わされるんだろう。

そうして昨夜とうとう、鬼が私の肩を掴んだ。

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薬指を強く締め上げられて、

私はたくさん涙を流した。

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#2.

小学生を殺したあとに、

次は中学生を殺し、

高校生を殺してから大学生も殺した。

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社会人を拷問して嬲り殺し、

或る女の恋人も、

幼い子供の親も殺した。

私の命は殺しに彩られていたが、

いつだってとても幸福だ。

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私の殺しはいつも誰かのためだったし、

そのおかげで友人にも恵まれて、

そのおかげで愛する家族が出来た。

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耐えることはとても苦しかった。

けれど、殺しには価値があった。

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#3.

その亡霊は毎夜、自宅の庭に訪れた。

退治しようとしても私の足にしがみついて離さず、

あるいは爪を立て傷を残し、

ヒトのものでない異臭を撒き散らして去る。

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恐怖に襲われて私は、

避難用の小屋を造った。

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#4.

雪山で遭難した登山部員達は深夜、

荒れ果てた無人の山荘に辿り着いた。

凍死するような寒さの中、

正方形のリビングで身を寄せ合い、

生き延びる方法を相談。

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Aは言った。

「ちょうど4人なので全員で眠らないように、

部屋の各隅に座って順番に休憩しよう。

他の3人が眠っている間は誰か一人が起きていて、

15分毎に次の隅のメンバーの肩を叩いて目覚めさせる」

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Bは同意した。

「良い方法だ。

眠ったらアウトだものな!」

Cも賛成した。

「体力温存にナイスアイディアだぜ!」

Dは感動していた。

「お前みたいな機転の利く人物と友達になれて良かった!」

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この方法だとじつは、

4人で互いの肩を叩いて朝を迎えることは不可能である。

図式はこうして循環するはずだった。

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A→ B

↑□□↓

D← C

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AがBを起こしに次の隅へ移動すると、

一周目の始まりでAが居た場所は無人になる。

そして、この一周目の終わりでDは、Aが居た場所に移動、

次の誰かが起こしてくれると信じて眠る。

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この時点でCは取り決めに従い眠っているので、

Dを叩きに行けない。

なのでDはAを起こしに行けない。

全員が睡眠という状態が成立し、

結果、凍死する。

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D× A

↑□□↓

C← B

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まずこのようになり、

翌朝には次のようなことになる。

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×××

×□×

×××

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しかし実際はこうなった。

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D×A

↑ ↑

  E

↓ ↓

C ×B

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このEの登山部でのアダナは

“地味沢 影太郎”だった。

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#番外編.

これは今ほんとうに起きていることだが、

山荘の四隅のくだりが上手く描写できなくて、

実際に4枚の紙切れを各A.B.C.Dとペンで書いて割り振り、

クロッキー帳に並べて整理した。

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キーボードで文章を打ち込んでいると

“B”とサインした切れ端がどこかに消えていて、

どんなに探してもまだ見つからない。

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ちなみに私の部屋は異様に家賃が安く、

これまでに何度も悪夢を見ている。

決まってその夢には、

廊下でふらふらと揺れる黒い誰かがいる。

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出勤前などは、

廊下のすぐ横のユニットバスでおかしな低い音が聞こえる日もある。

何かが擦れているような、でも何なのか判然としない。

私はただ建物のきしみだと信じている。

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これは今ほんとうに起きていることだが、

どういうわけか肩が少し重い。

洗面所の鏡を見るのがすごく怖い。

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タイトルと主題が違うけれど、

一応ここに記録しておく。

さて次の話。

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#5.

私は絶望に打ちのめされてしまって、

森の小鳥は翼に怪我を、

お気に入りの鈴は踏まれて壊れた。

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生きる哀しみの嵐の人を、

飛べず弱りきる凄惨の鳥、

もう鳴ることの無いあのベルを、

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誰が知っていてくれるだろう?

誰が証明してくれるだろう?

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私と小鳥と鈴の命は、

誰にも知られず消えるのだ。

存在すらせず、詩にもされずに、

報われないまま消えるのだ。

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#6.

さほど遡らない或る時期、

私は産まれたことを呪っていたし、

この世界全体に怨みを抱いていた。

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「死にたいという気持ちは、

より佳く生きたいという願望の裏返しだ」

と、幾つかの場所で拝聴した。

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ほんとうのことだと思う。

誰だってよりよく生きたいのだろう。

問題は、よりよく生きたいのに、

よりよく生きられないことなのだ。

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単なる分析は馬耳東風で。

けれど私にはその分析力もそして世間的価値も、

言葉の命も無かった。

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私は人が生きられる言葉を創りたかった。

愛してきた作家達と同じように、

私にも、

誰かに寄り添える言葉が創れると信じたかった。

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読んでくれている君にすまないけれど、

これはもう肩コリ酷太郎の気まぐれな落書きの

『意味が分かると怖くない話』なんてものでは決して無い。

心の底からの告白だ。

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ごく僅かではあれ、暴力革命の可能性を感じていた。

北アイルランドのような国土でさえ出来ないことを、

どういうわけだか自分なら関与しそして奉仕できる気がしていた。

現在の香港を知ればそんな考えは起きなかったかもしれない。

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ISに参加しようとする人々が、

どういうわけだが多くいる。

あんな残酷に人を殺すようなやつらにどういう憧れを持つのか判らないけれど、

死体で遊ぶような暴力行為は肯定できないにしろ、

ごく一部だけわかる心がある。

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“死に場所”を求める時期が人それぞれに恐らくあるのだ。

私には17歳と24歳だった。

左翼の思想に傾いていたが、

戦時に産まれていればきっと大日本帝国を敬愛していた。

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つまり思想の問題では無かったのだ。

私は私の都合で、悪戯に思想を掻き混ぜていただけ。

この際だから、

個人的な話をさせて欲しい。

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ほんとうに死にたかったのだ。

もういちど言う、

ほんとうに死にたかったのだ。

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だったら死ねよと君は言うかもしれない。

その通りだと考える。

じゃあどうして私は自殺しなかったのか?

死ぬのが怖かったからだ。

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当然ながら人間には生存本能がある。

もうこの世界から消えたいと表層で意識しても、

高校の屋上から飛び降りたりしない。

……飛び降りた人は知っている。

恋人の友達だったから。

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単純に言ってしまえば、

焼肉の食べ放題には行きたいけどダイエットしたい状態みたいなことで、

それがやや深刻そうな雰囲気になったと考えてくれて良い。

たいした問題ではない。

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それを知ると怖くない、ということが様々にあって、

たとえば食べれるタマゴタケと猛毒のタマゴタケモドキが違うように、

宗教家と信仰者も同質ながら役割がやや違う。

何が毒か知っていれば近づくこともない。

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似て非なるこの世界の渦で、

遥かな雲に告げていたのは、

生きてる意味なんてわからない。

あるのは価値だけなんだ。

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多くの辞書の解釈と少し違うけれど、

“意味”はそれが存在している理由であって、

“価値”はそれを存在させている理由。

つまりその価値は?。

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価値の無い意味は消えて行く。

生きる意味を守るのは、

もし誰かを愛するなら、

その人の意味に生きて欲しいのなら、

価値を与えるのはあなたのしごと。

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たとえば家族や、恋人、

友達や同僚でも。

あなたが誰かに生きていて欲しいなら、

生きていて欲しいと伝えてみてください。

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それは言葉にしなくても、

ちょっとした握手や、

ささやかな笑顔で、

少しのねぎらいや、

あまり面白くないジョークでも、

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投げかけてくれる誰かの存在が、

あなたの大切な人を生き続けさせるかもしれない。

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私にとって人生は、

とても怖ろしいものでした。

……その美しい意味が判るまでは。

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@あんみつ姫 様
意味と価値についてはずいぶん悩みました。
英語圏の人達がロジックに巧みなのは、純粋に言葉の意味だけを扱う言語だから、と聞いたことがあります。
漢字のほとんどは象形文字だし、和製漢字も複数の意味合いの組み合わせで成立していて、
日本の書き言葉はどうやら一つのワードに幾らもの意味があるようです。
同じ小説を読んでもイメージが複数にわかれて定着し、人によって文脈理解が枝分かれしやすい。

僕は理論を組み立てるのがあんまり上手くなくて(アホなので)、
雰囲気とか感情の流れをよりどころに文章を作っています。
なのでそういうのが嫌いな人には全然面白くないでしょう。
自分が何を書きたいかもじつはそれほど知りません。
「誰か、何か、わかってくれ!」
と投稿しています。

もし何か伝わっていたなら幸いです!

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@kusimi 様
ありがとうございます!
最後のほうでやや逸脱しましたが、
スタイルを決めて書くというのは久々に試したので、
上手く出来あがっていれば嬉しいです!

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