僕は、タクシーに乗る時、いつも運転手さんに、
「今まで、何か怖い思いしたことある?」って聞くことにしている。大抵の運転手は、
「高速で、前を走るトレーラーが、急に蛇行し始めて、あんときゃ死ぬかと思った」とか、
「お客さんを送った帰り、居眠りして、崖から海に落ちそうになった」とか、
はっきり言ってどうでもいい話(運転手さんごめんなさい)が多い。でも中には、狙い通り?の話に出会えることもあり、その内の一つを、ここで紹介しようと思う。
夜10時ごろ、某駅で客待ちをしていた田中さん(仮名ってか名前知らない)は、蒸し暑かったので窓を全開にして、シートを倒して半分寝ていた。
そこに、一人の若い女が声を掛けてきたという。
「○○まで行ってもらえます?」
○○といやあ、こっから60キロはある。
(やったーもうかったー)
Aさんは大喜びで彼女を乗せ、出発した。
○○までには1時間はかかる。Aさんは、後ろに乗っている茶髪の女に声をかけようとバックミラーを覗いた。
女はひどく疲れているようで、眠っているようだ。
(水商売も大変だな)
Aさんはその女をかってに飲み屋のホステスだと決めつけていた。
ひと山越えれば、目的地に着くが、この峠が結構きつい。蛇行蛇行の連続で、一瞬でも油断したら、ガードレールにぶち当たる。
Aさんは注意深く運転していたが、前からも後ろからも、車の近付く気配はなく、少し緊張感が緩んできた。
そして、峠を越え下り坂にさしかかった時、突然バックミラーが眩しく光った。後ろから猛スピードで車が近付いてくる。ハイビームにしたダンプのようだった。
(ぶつかる!)
Aさんは、スピードをぐんぐん上げた。
(後ろからあんなダンプ来てたか?)そんな疑いも、ダンプが真後ろに張り付いた瞬間消し飛んだ。
(殺される!!)
「後ろの・・・・じゃないから・・・」
後ろに座っている女が、何かつぶやいた。
「え?なんです?」
「後ろの車、この世のものじゃないから、気にしなくていいよ」
「・・・・」
(なんだ?今、なんて言った?)
Aさんは、怖くて聞き返すことが出来ない。
ふと、気付くと、後ろの車は影も形も無くなっていた。
(えー?まじかよー)
後ろの女が目に入らないように、バックミラーを大きくずらす。
(頼むから、たのむからー早く着いてくれー)
町の灯りが見え隠れし始めた時、自分がちゃんとこの世界にいるんだ、ということを実感して、少し泣きそうになる。
「そこのバス停の所でいいから」
Aさんは、飛び上がるほど驚いた。たぶんもう、後ろには女はいないと思っていたのだ。
おそるおそる後ろを振り向くと、女は普通に座っていた。でも、やっぱり怖い。
「一万5000になります。端数はサービス・・」
女は静かに助手席に一万円札を2枚置くと、車から出て行った。
「お客さん、お釣り」なんて、とても言えない。ドアを閉めると闇雲に車を走らせた。
(あの辺り、家一軒もないじゃんかよー)
日が経つと、恐怖はだんだん薄れるものらしい。
Aさんは(あれ、やっぱり人間だったんじゃあ)と思うようになっていた。(幽霊というには、あまりにもリアルつうか、どう考えても人間だし)
夜は毎日、女を乗せた駅に張り付いた。10日経っても、20日経っても、女は姿を現さない。
Aさんは、意を決して、女を下ろした場所に行ってみることにした。夜になったら嫌だから、休日、朝早くに自分の車で出発した。
降ろした場所はすぐに分かった。確かにその周辺に家はない・・・
ふと見ると、バス停の横に、細い小道がある。
Aさんは車を降りて、竹林の中に消えていく小道を歩き出した。
(この先が墓場だったら、しゃれにならんなあ・・・)
竹林を抜けると・・
そこには立派なお屋敷があった。(もうここまで来たんだから)
Aさんはブザーを押した。
中から出て来たのは、品の良さそうなおばさんだった。
「つかぬ事お聞きしますが、お宅に茶髪のお嬢さんいます?」
おばさんは怪訝そうな顔をして、言下に
「そのようなものは、家にはおりません!」と言い、ドアを閉めようとしたが、みるみるその表情が柔らかくなり、
「あなた、もしかしてタクシーの運転手さん?」と聞き返してきた。
「そうですけど・・・」
「まあ、あがってお茶でも飲んでって」
(・・・・)
Aさんは訳も分らず、おばさんの後に続いた。
「実はねえ、あなたのこと、聞いてたのよ」
「・・・」
「結○瞳さんって知ってる?」
「・・・」
「この頃、よく金縛りに遭うから来てもらったんだけど」
「・・・・」
「ここに来る途中、タクシーがダンプに追いかけられたんだってねえ」
「・・・!」
「結○さん、そのダンプの運転手見て、ちょっと驚いたんですって」
「首が完全に折れてて、顔を真横にしてたって」
「それで、事故られたら大変だから、ぶつかって来たって大したことないよ、と運転手さんに伝えようとしたんだけど、なんか、その運転手パニクってて」
「あーこの人、私のこと絶対お化けだと思ってるーて可笑しくって」
「ずーと、お化けの振りしてたんだけど」
Aさんは、霊能者とかいう人間が、大嫌いだったから、大変腹を立てて、その家を後にしたそうな。
今は、彼女のファンらしいけど。
怖い話投稿:ホラーテラー ホラーハンターさん
作者怖話