中編5
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R 村で聞いた話

「近頃はユーチューバーとかいうおかしな若い衆が、こんな辺鄙な村にも訪ねてきてな

何が楽しいのか、なんか怖い場所はないか?お化けの出るところはないか?と、うるさく聞いてきよるんじゃ」

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そう言って掛軸の前に胡座した爺様は、座卓の上に置かれた湯飲みを口に運ぶ

その顔は何だか狂言で用いられるお面の「翁」を思わせるようなどちらかというと無表情で不気味な感じだ

塵一つない幾何学的な仏間

開け放たれた襖の向こうにある庭の地面や木々は、いつの間にか夕陽で朱色に染まっていた

少し冷たい秋風が一つ、座敷内を通りすぎていく

僕も目の前に置かれた湯飲みを口に運ぶ

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「おお、そうか、そうか、あんたも、あん人らと同じなんか 

わしなんか歳ばっかりくうて、日がな野良仕事をしている年寄りじゃから、そんなに面白い話を知っているわけではないんじゃが、今から話すのは、あんたのような若い人の生まれるずっと前のことじゃから、50年前ほどの話じゃ」

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爺様はまた湯飲みを口に運ぶと、眩しげな目をして庭先に目を移した

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ここは、都内から北へ北へとひたすら走った山あいにあるR 村だ

人口は1000人あるかないかという小さな集落で、怖い話専門に動画をあげている僕は、真新しいネタを求めてはるばるやって来たのだ

目の前に座っているのは、村一番の物知りらしいロクさんで、お歳は今年で80になるという

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「その頃、この辺の村の大地主と言うたら、誠太郎さんじゃった 

ああ、何で下の名で呼ぶかというとな、この辺のもんは皆同じ『田川』という名字だからじゃ

背が高くて、そりゃあ立派なガタイをしとってな、

年に一度の村の祭のときにある相撲大会でも、だいたい一番じゃった

大きなお屋敷に住んどってな、田んぼなぞは数えきれんくらい持っとった

気性の荒い性質じゃったらしくて、村衆の寄り合いのときなぞに酒なぞ振る舞われて酔っぱらうと、暴れだして大変じゃったらしい」

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「誠太郎さんは、奥様と息子の誠二郎さんと一緒に暮らしとった

奥様は小柄で上品なおとなしい方じゃった

息子の誠二郎さんは色白じゃったのじゃが、父親に似たのか、いやそれ以上にガタイは良くて、そりゃあ力道山のようで、背も天井にも届くようだった

ただ、そんな見たくれに反して、性質はとてもおとなしくて、大人になってからも仕事なぞせんと、ほとんど家から出ることはなくてな、屋根裏の部屋でウサギなんぞ数匹飼っとったということじゃ

今で言うと何というか、ニートというやつじゃった」

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「ニート」という単語が爺様の口から出たのには、少し違和感を感じた

恐らく最近訪ねてくるユーチューバーたちから聞き知ったのだろう

爺様は一度大きくため息をつき、また続けた

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「誠太郎さんは、日がな部屋に閉じ籠る息子には、ほとほと頭を痛めとったらしくての、穀潰し、穀潰し、と怒鳴って、たまに蹴飛ばしたりもしていたそうじゃ

いつぞやは鎌だけ持たされて、無理やり田んぼの真ん中に日が暮れるまで立たされとったこともあった

それでもやはり誠二郎さんは仕事をせず、ニートのままじゃった」

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「そんなある秋口のことじゃ

この辺はカラスどもの悪さがひどくての

道はゴミで散らかす、田んぼは荒らす、で、好き勝手にやっとったもんで、村の衆は皆頭を痛めとった

特に、大事に1年かけて育てた麦や米とかについては死活問題だもんで各々自分の田んぼに、いろんなカラス避けを仕掛けとったんじゃ

誠太郎さんのところも休みの日には若い衆を使って田んぼのあちこちに、いろんなカラス避けを仕掛けとったんじゃ」

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「そんなとき、誠太郎さん何を思ったのか、息子の誠二郎さんにも、田んぼのカラス避けを仕掛けるように頼んだんじゃ

まあ、人手が足らんかったんじゃろう

じゃが案の定、何日経っても外にさえも出やせん

挙げ句の果ては何を思ったのか、庭先にカラスのエサなんぞばら蒔いたりしだしたんじゃ

これにはとうとう堪忍袋の尾がきれた誠太郎さんはのう、誠二郎さんの可愛がっとったウサギを一匹残らず殺してしまい、その死骸を庭先に投げ捨てたんじゃ ちょうどそれが夕刻で、途端に腹を空かせたカラスたちがその無残な死骸たちに群がり、庭は真っ黒になったそうじゃ」

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外はもう日が沈んでおり、何処からか鈴虫の声も微かに聞こえてくる

爺様は話し疲れたのか、ここでうつむくと、大きく一息ついてから立ち上がった

それから曲がった腰でひょこひょこ歩いて、縁側の襖を全て閉めて、また座布団の上に胡座をかくと、また口を開いた

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「その翌朝のことじゃった

わしが野良仕事に行こうと畦道をとぼとぼ歩いておったら、隣に住んどるトメさんが真っ青な顔してあたふたとこちらに向かって来る

どうしたんじゃあ?と尋ねると、何か必死にしゃべっておるんじゃが、ちっとも要領を得ん

とにかくと言って、引っ張られながら歩いて行くと、そこは誠太郎さんのとこの田んぼだった」

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「見るとそこは何でか無数のカラスたちで覆われておっての、とにかく一面真っ黒になっておった

これはどうしたことじゃ?と見ておると、トメさん田んぼに入りこん棒でカラスたちを追っ払いだした

ようやく見えてきた青い稲穂のところどころには、人の背丈位の竹の棒が立てられておってな、その先っぽには何か奇妙なものがぶら下げられておる

よく見るとなんとそれは人の腕だったり、脚だったり、胴体だったり、、、カラスたちがつついたからか、皮膚は捲れ、肉が飛び出しており、それはもうひどい有り様じゃった」

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「そして田んぼのちょうど真ん中辺りには椅子があってな、そこには、、、

ああ、恐ろしいことじゃあ、、、

人の頭が置かれとった

目ん玉は片方くりぬかれて空洞になっており、もう片方の目は無念な様子で天を見上げとった

皮膚のほとんどは捲れていて肉がのぞいておった」

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「それは誰だったんですか?」

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僕は震える声で爺様に尋ねた

爺様は一口茶を飲むと、ゆっくりと口を開いた

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「駆けつけた駐在さんがすぐ応援を頼み、30分くらいでたくさんの警察官や救急隊員が来てくれて、翌日にはそのバラバラの遺体は誠太郎さんということが分かった

その3日後には、息子の誠二郎さんが逮捕されて連れて行かれたんじゃ」

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広い仏間は、シンと静まりかえっている

柱にある古い時計から聞こえてくる秒針の音が妙に響いていた

そして爺様は、最後にこう言った

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「犯人は誠二郎さんだったんじゃが、一点だけ警察官たちが首をかしげていたことがあったそうじゃ」

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「それは?」

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そう言って、僕は上目遣いに爺様を見た

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「最後まで凶器が見つからなかったということ

それで遺体の切断面を調べてみたら、刃物を使用した形跡はなかったということなんじゃ

つまり、切断されたのではなく、ものすごい力でもぎ取られたというような跡だったということじゃ」

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Fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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