中編5
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Anniversary 〈記念日〉

愛子とは元々、行きつけの居酒屋で1年ほど前に知り合った

彼女の方から一方的に声を掛けてきて、俺の方が押しきられて、結果として付き合うようになった

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年齢は俺より10上で、46歳

でも、ぱっと見は全然そんな歳には見えなくて、茶髪をボーイッシュに短くカットした色白で細身な女だったよ

性格はさばさばとしていて、はっきりものを言う方だったと思う

どちらかというと草食系の俺には、こういう姉御はだの女がお似合いだったかもしれないな

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ただ、ごくたまになんだけど、切れるときがあった

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ごくたまにだけど、、、

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付き合いだしてしばらく経ち、彼女の住む借家に招待されたんだけど、これが変わっていて、アパートとかでなく、いわゆる古民家で、築50年は軽くいっている木造の典型的な日本家屋だ

市の中心部からはかなり離れた山の麓にあった

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「なあ、この赤い丸は何?」

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八畳はある広い居間の炬燵に手足を突っ込んだまま壁のカレンダーを見ながら、俺は愛子に尋ねる

12カ月が一枚に収まったカレンダーが2枚、去年のものと、今年のものが並べて貼ってあるんだが、その去年の11月30日に、なぜか赤マジックで丸が書かれており、骸骨マークがいたずら書きしてある

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「ああ、それね、ふふふ、、、知りたい?」

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少し離れた台所の方から、愛子のハスキーな声が聞こえてきた

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「いや去年の12月2日が俺たちが出会った記念日だろ だから、その前前日のちょうど今日に当たる日って何だったんだろう、て思ったんだけど、、、」

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結局愛子は俺の質問には答えず、二人分の晩御飯を乗せたお盆を持ってくると、俺の前に並べ、斜め向かいに座った

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「ねえ、ヒロくん、あさっての記念日だけど、どうする?」

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出来立ての味噌汁を啜りながら、ピンクのスエット姿の愛子は甘えたように尋ねる

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「そうだな、土曜日で俺も仕事休みだし、ここで、なんか、ごちそうでも食べようか?

愛子の手作りで、、、」

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にやつきながら、イタズラ顔で愛子の横顔をのぞくと、

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「わたしの、、、」

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愛子はそれだけ言い、なぜか下を向き黙りこんだ

それは数分続くと、彼女はようやく口を開いた

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「なんで、、、なんで、わたしだけがいつも料理しないといけないんだ?

てめえはただ食うだけなのか!?」

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そう言って、いきなり思い切りテーブルを叩いた

俺は驚いて、のけぞると、慌ててフォローする

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「そ、そうだ、そうだ、俺は愛子の好きなスイーツ買ってこようかな」

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すると愛子の顔は般若から優しい福女に変わると、

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「そうしよ、そうしよ、わたし頑張って美味しいもの作るから ヒロくんは食後の甘~いスイーツを買ってきといてよ」

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と言って、いそいそと目の前の食器を片付けだした

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少し遅めの晩御飯を終え、しばらく二人でテレビを見ながら雑談をしているといい時間になったから、寝ることにした

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広い仏間に敷かれた布団に二人、枕を並べて寝る

この辺は人家などはほとんどない、本当に人里離れた、という言葉がぴったりの場所みたいで、夜は特に静かだ

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ようやく微睡みだしたときだった

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─ゴトン!

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何かが畳に落ちたような音がした

半身を起こし、縁側に通じる障子から漏れる微かな月の光を頼りに、周囲を見てみる

すると壁際に置かれた古い箪笥の前辺りに、ずっしりとした大きな鉈が落ちており、刃先が鈍く不気味な光を放っている

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─なんで、鉈が?

箪笥の上のが、落ちたのかな?

いや、それにしても、、、

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俺はしばらくその無機質な刃物を不思議な目で見ていたが、らちが明かないので、また床についた

それからは寝付けずに、幾度となく寝返りをうっていると、、、

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─ウウウウ、、、ウウウウ、、、

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どこからだろうか

男の人の苦しそうなうめき声が聞こえてくる

俺は隣で寝ている愛子の肩を揺する

彼女は眠たそうに目を擦りながら「んんん、、、なに?」と、こちらを向く

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「なあ、何か聞こえないか?」

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彼女も俺の真剣な様子に気付いたのか、しばらくじっと耳を澄ました

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「何にも聞こえないけど、、、

この辺たまに夜、変な鳥が鳴いたりするから」

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そう言うと、また枕に顔を埋めた

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翌日は仕事だったので、早朝に一人起きた

不思議なことに昨晩畳に落ちていた鉈は無くなっていた

俺はさっさと着替えると、車で会社に向かった

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記念日の日は会社が休みだったから、俺は昼過ぎから自宅マンションを出て、ケーキ屋でスイーツを買うと、そのまま彼女の家に行った

夕方くらいまで二人でDVD を観て楽しんだ後、彼女が晩御飯の買い物に行っている間、俺は留守番することになった

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寝室として使っている広い仏間の真ん中辺りでクッションを枕にyou tube を観ていると、どこからか何かガサガサという音が聞こえてくる

俺は携帯を傍らに置き、耳を澄ます

しばらくすると、また、あの声が聞こえてきた

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─ウウウウ、、、ウウウウ、、、

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立ち上がり、部屋のあちこちを動き回りながら、音の出所を探し回る

どうやら畳の下の方から、聞こえてきているようだ

俺はとうとう部屋の中央辺りにある畳を一枚持ち上げると、床下を覗いてみた

薄暗い空間に木製の梁が縦横に複雑に走っており、その下には灰色の土が見え、所々に土嚢が置かれている

間違いなく声の元は近い

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そして3枚目の畳を持ち上げたときだった

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─え!?

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背中を冷たいものが走り、心臓の鼓動が一気にはね上がる

梁と梁の間の地面の上に、男が仰向けになっていた

手は後ろ手に手錠で拘束されているようだ

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俺と同じくらいの歳だろうか、、、

いや、もっと上かもしれない

髪と髭は汚ならしく伸び放題で、おまけに猿轡を嵌められており、ガリガリに痩せた身体は泥だらけでブリーフ一枚だけしか身につけていない

傍らには、犬猫に与える餌用のトレイが2つ、置かれていた

さらに驚いたのは切断されたのか、両膝から下が無く、雑に包帯が巻かれている

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男は怯えた目をしながら俺の顔を見ると、必死に首を動かしながら「ウウウ、ウウウ」と呻いている

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「ヒロくん、、、」

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背後から声がしたので驚いて振り向くと、いつの間にか部屋の障子が開いており、愛子が無表情で立っている

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右手には鉈を持って、、、

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「愛子、、、どうして、、、」

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俺は尻餅をつき、そのまま後ろに下がりだした

愛子はゆっくりと、こちらに向かって歩きだす

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「そう、男なんてみんな一緒、、、

初めのうちは調子の良いこと言って心地好くさせといて、気を許すと、すぐ勝手なことをやりだす

そこに寝転がるそいつもそうだった、、、

それはヒロくんとの初めての出会いの二日前のこと

その男はこともあろうに記念日の日に、他の女のマンションにしけこんでいやがった

だから私、二度とそんなことが出来ないように、これで切ってやったんだよ!」

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そう言うと、鉈を持った手を高々と振り上げた

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「ひ!」

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咄嗟に俺は頭を抱えた

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─ドスン!

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鉈は俺の頭スレスレをかすめ、畳に突き刺さった

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愛子はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがていつもの笑顔に戻って、こう言った

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「さ!こんなところにいないで、向こう行って記念日を祝いましょうよ!」

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Fin

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Presented by Nekojiro

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失礼しました。「おっかなさ過ぎるよ」ではなく、「怖すぎるよ」の間違いです。

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おっかなさ過ぎるよ。ヒロくん生きてるの?

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