覗きこむ顔(おぼろげな記憶4)

中編5
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覗きこむ顔(おぼろげな記憶4)

白い天井が見える

視界の端には蛍光灯、、、

ちょっと眩しい

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ボクが仰向けになっているのは間違いないが、身体は岩のように動かない

脳ミソから指令を出しているのだが、ひとつも身体が言うことを聴いてくれない

起き上がることも、横を向くことさえ出来ないみたいだ

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そもそもボクは今、何処にいるんだ?

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時折、ズキンズキンと頭の奥が痛む

その度に断片的な映像がパッ、パッと脳内をフラッシュバックする

初めのうちそれらはバラバラで浮かんでいたが、やがて繋がり、最後は一つの動画のように動き始めた

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灰色のコンクリートの壁に挟まれた一本道が何処までも続いている

前方はるか彼方には、街のイルミネーションがキラキラと瞬いている

心地好い風圧を顔全体に感じる

右手に掴んだスロットルを少しずつ回していくと、

やがてボクは風と一体になっていった

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そうだ、、、ボクは深夜、バイクで高速をとばしていたんだ

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何度めのカーブを曲がった時だったろうか

突然キイイインと飛行機が飛び立つような音がした

かと思うと、すぐ後ろから声が聞こえた

それは昔聞いたことのある、まだ幼い男の子の声

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「ねぇ、ねぇお兄ちゃん、ボク寂しいよお

こっちにおいでよお」

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「???」

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その声がした後だった

いきなり背後から細く白い手が伸びてきた

背筋がゾクリとし、心拍数が一気に上がる

白い手はボクの右手の上に重なると、無理やりスロットルを回した

驚きと恐怖はマックスとなり、ボクは叫んだ

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「うう、、わあああ!」

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メーターの針は一気に180を振り切った

視界がぐっと狭まる

そして緩やかな右カーブに差し掛かったとき、車体は遠心力で制御力を失い左の側壁に激突する

あっという間にボクの体は宙を舞った

反射的に目を閉じる

次の瞬間、高圧電流に触れたかのような強烈な痛みが、身体中を突き抜けた

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あ、死ぬかも、、、

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最後の思念が湧いた後、ボクの意識は暗闇の中に突入していった

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そして視界はまた白い天井に戻ってきた

すると下端の方からボンヤリとした人型のシルエットが現れた

よく見ると、男の子だ

以前も見たことのある顔、、、

まるで鳥の雛を思わせるような容姿をしている

肌は薄いピンクで、頭部が異様にデカイ

目は大きく、鼻らしき形のモノはなく、ただ二つの穴が並んでいるだけだ

男の子はしばらくじっとボクの顔を覗きこんでいたが、やがて視界から消えた

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それからしばらくすると今度は、視界の右端からひょっこり女の人の顔が現れた

頭の上にはナースキャップが載っかっている

肌艶の良い健康的な丸顔だ

心配げな表情で呟く

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「今日でちょうど一週間になりますが、全く意識が戻る気配ありませんね」

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すると今度は左側から、年配の男の人の低い声

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「そうだな、かなりの勢いで高速の側壁にぶつかったみたいだからな、、、

腕一本と両足を切断し何とか命だけは繋ぎ止めたが、脳に相当のダメージを負っているからな

もっても後、数日だろう

まあ本人も、こんな状態のまま、生きたいとは思わんだろうが」

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─!!!???

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─ボクは片腕に両足まで失ってしまったのか?

しかも、あと数日の命だと?

嫌だ、ボクはまだ死にたくない!

ほら、ちゃんと目も見えているし、話し声も聞こえているぞ

体だって、、、

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ボクは必死に手足を動かして、起き上がろうとしたが、やはりダメだった

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蛍光灯の光が消え、ドアの閉まる音が聞こえた

とたんに暗闇と静寂に支配される病室

ボクは一人、昔のことを思い返す

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そういえば、あの時もそうだった、、、

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中学校の夏休みのときだ

友人Mと一緒に海に遊びに行った

ボクの通っていた中学校は海の近くにあったから、遊ぶといったらまず「海で」というのが定番だった

地元民しか知らないような浜辺に行き、青空の下、

砂浜を駆け回ったり、パンツ一枚になって、水をかけあったり、していた

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ひとしきり遊ぶと、Mは波打ち際で体育座りをして、青空を眩しそうに眺め始めた

ボクはというと、平泳ぎでどんどん沖へ沖へと泳ぐ

そしてMの姿が小さく見えるくらいの沖合いで止まり、プカリプカリ穏やかな波に身体を任せていた、その時だ

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突然キイイインと飛行機の飛ぶ音がしだした

あれ、どうしたんだろう?と、ちょっと動揺していると、今度は遠くの方から男の子の声が聞こえてくる

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「お兄ちゃん、お兄ちゃん、こっちで遊ぼうよ」

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不思議な現象にただ呆然としていると、いきなり、誰かがボクの左足首を掴み、グイグイと下に引っ張りだした

驚いたボクは必死にもがいたが、その力は半端なくて、あっという間に海中へと沈められていく

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─た、たすけて、、、

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鼻や口から怒涛の如く海水が侵入してきて、恐怖と苦しみは極限まで達し、少しずつ意識は遠退いていった

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それからしばらくボクは暗く狭いトンネルの中を歩いていたが、背後から聞こえてくるMの呼び声に何気に振り向いた

すると視界はパッと明るくなり、一瞬あの男の子の顔が現れ、次に心配げに覗きこむMの顔が現れた

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沖合いで溺れているボクに気付いたMは、海中でもがくボクの腕を掴んで、浜辺まで運んでくれたのだ

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その日の晩ご飯の時、昼間の不思議な話を母にすると、母は顔色を青ざめ、こう言った

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「いずれ話そうと思っていたんだけど、そんな恐ろしいことがあったのなら、今日は話すね

実はあなたにはね、弟がいるはずたったの」

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母の言葉に、ボクはショックを受けた

というのは、ボクは一人っ子だったし、兄弟はいないものと思っていたから

母がボクの命を胎内に宿したとき、そこにはもう一人、男の子がいたらしい

つまり、ボクは双子で産まれてくる予定だったのだが、何らかの事情でボクだけが生きて産まれてきて、もう一人の男の子は死んでいたそうだ

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翌日、ボクは母に連れられ、村の神社に行った

賽銭箱の奥にある板張りに、母と二人正座していると、白い装束を纏った神主が現れ、仰々しく一礼し、ボクらの面前で物々しい儀式を執り行った

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「きみには亡くなった子供の霊が憑いていたのだが、たった今お祓いをしたから、当面は大丈夫だと思う

ただこれからは、このお守りを肌身離さず身に付けていなさい

そうしたら、もう災いに合うことはないだろう」

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儀式の後、神主はボクにそう言って、金色の派手な刺繍を施した赤い生地のお守りを渡してくれた

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それ以来ボクは大病を患ったり、大きな事故に合うこともなく大学に合格し、無事に成人した

もちろん神主にもらったお守りは常に携帯していた

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そして、もちろん今も、、、

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お守りは、、、?

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─そうだ!

あのお守り、、、

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この間の大学の飲み会の後、久しぶりにしこたま酔ったボクは何を思ったのか

帰宅途中、橋の欄干から川に投げ捨てたんだ!

それからアパートに戻ってバイクに乗って、、、

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─キイイイン、、、

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また、あの音だ

ボクは目を開いた

薄暗い視界の端から、またあの男の子の顔が現れた

何かを懸命に語りかけている

耳を澄ましてみる

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「大丈夫、、、

大丈夫、怖くなんかないよ

これからはずっと一緒だから」

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徐々に意識が混濁していってるようだ

同時に男の子の姿も徐々に霞んでいく

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やがてボクは永遠の闇の彼方に溶けていった

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Fin

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Presented by Nekojiro

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@アンソニー 様
いつもコメントありがとうございます
とても参考になります

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