長編11
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秋祭りと肝試し

俺には四つ年上の姉がいる。

子供の頃からいわゆるオカルトなものが見える、聞こえる、対処できる人なんだが、それがどの程度強い(強い?でいいんだろうか?)ものなのか、弟の俺もしらない。

俺は幸いなことに逆に霊感とかはまったく無い。

だから、姉が本当は何を見て、何を聞いて、何を知ってるのかもしらない。姉に聞いてみても、たいがい自分のことに関してはめんどくさがって話してくれない。

ただ姉と一緒にいる時には、不思議な現象を体験する。

これだけは事実だ。

俺が大学一年の秋の話だ。霊感が無いはずの俺ですら、その日ははっきりと「霊」を見た。

オカルトにほぼ縁の無い俺にはとんでもなく強烈で、恐ろしい出来事だった。

俺の地元は地域の祭りがわりと盛んな方だ。

今でも春夏秋冬を問わず、なにがしか小さな祭礼が行われている。あんまり詳しく書くと地元が特定されそうで怖いので、具体的な祭りの名前は書かないでおく(笑)許してほしい。まあ、大学に行ってから招いた友達が「秘境だー!!!」って喜ぶぐらい、昔の景色が残ってる。来た友達は大概温泉を満喫して、珍しい田舎暮らしを楽しんでいく。

そんな田舎だからこそ、昔からの習慣としての祭りや行事が色濃く残っているんだろう。そういう風習が廃れていく現代では、結構珍しい土地柄だ。

地蔵様の祭りがあったり、盆や正月の前後にもイベントがあったりで、大きい祭りの時には他の地方に移った学生やら、仕事の関係で県外に行ってる連中も律儀に戻ってきて参加するっていう、なかなか面白い場所だ。

大学生になり、それなりに学生生活やバイトにも慣れた頃、高校の友人の一人から結婚することになったと連絡がきた。(理由はまあ、察してほしい。社会人一年目のくせに生意気だというか、やっちまったなあというか)

そいつは他の県には出なかったグループだったので、俺はその結婚式に参加するため帰省することになった。

帰って結婚式も無事終了し、まったりと休みを過ごしていた俺はどうせだから明日の「秋祭り」に参加していけと祖母に誘われた。

「秋祭り」は一年の実りを与えてくれた神様に感謝を表す、お盆、お彼岸、正月に並ぶ大きな祭りだ。

特に断る理由も無かったし、俺は承諾して帰省を伸ばすことにした。

ちょうどその時実家には姉もいて、ひさびさに姉弟で自分たちの近況を語ったりもした。

祭りの当日夕方になると、獅子舞のお囃子の音が聞こえてきた。

秋の豊穣を祝う祭りは夕方から夜遅くにかけて行われる。

ぽつぽつと家々の先に灯明が灯る中、身支度を整えた俺と姉はのそのそと神社へ向かって歩き出した。

俺の地元に神社は一つきり。それも祭りの時にしか開かれず、それなりに格式があるらしい。普段はみだりに人の出入りは禁じられている。姉はその場所を気に入っていて、よく参りに行っていたようだが。

拝殿への緩やかな階段を昇っていくと、お囃子に合わせて黒獅子が勇壮に舞っていた。

神社の一角には白っぽい砂が高く円錐状に整えられていて、その砂が四隅に立てられた笹竹と笹に渡された注連飾りで区切った場所があった。

まずは神社の神様にお参りをし、次に祭りを取り仕切る地元のお年寄りに挨拶を済ませる。しばしの間、獅子が舞う姿を眺めていると、小学校からの知り合い達がぞくぞくとやってきた。ガキ大勝のY先輩、同い年の勉強が得意なW、スポーツ馬鹿の後輩Kなどを筆頭に、男女関係無く多くの知り合いが今回の秋祭りではそろっていた。

そうこうしている内に黒獅子が拝殿での舞を終え、家々を廻るために神社から出て行く。

その後に続いて、久しぶりに会った先輩後輩入り乱れての若者グループの一員として、俺達は出店が出ている

旧学校跡地へと向かった。

通っていた小学校は新校舎設立と共に広いグラウンドに改装され、今は行事となると大概そこで行われているそうだ。

目の前が公民館なせいもあるだろう。

おばちゃん達が振る舞ってくれる料理やら、出店の焼きそばやら、こんにゃくやらを囓りながら話騒いでいると、あっという間に日が暮れてゆく。

秋の日はつるべ落としとはよくいったものだ。電灯が少ない地元に帰ってくると、とみにそういうことを感じる。通っている大学は東京だから、明暗差を余計に感じるのかもしれない。東京は夜でも明るく賑々しい。

祭りのためにライトアップされているから、ここも今は明るいが。

夜九時近くなった頃だろうか、小学校ではガキ大将でいつも子分を引き連れていた、馬鹿騒ぎをしたがるY先輩が、「肝試ししよーぜ!」などと言い出した。

「肝試しって言ったっここらへん別に心霊スポットとかないじゃん」すかさず女性陣につっっこまれるが、先輩は諦めない。

「ま、肝試しっつーか、スキー場まで夜道を散歩しようぜ企画?暗いから懐中電灯だけで行けばそれなりにスリルあるし、秋になったから星きれーだと思うぜ!雲無いからこっからでもかなり星見えるだろ?スキー場行けばきっとスゲーぜ!」

先輩のいうことは確かに一理あった。

今いるグラウンドからスキー場へは、比較的距離が近い。小学校時代には吹雪の中歩いてスキー場まで行って、体育の授業を受けたものだ。道が暗いってのは誰でも知ってるし、まあ久しぶりにあった仲間で騒いでいく分には面白い思い出が一つ増えるかも知れない。

何より、スキー場で駐車場に寝転がって星を見ると、光源が少ないのと仕切る建物が無いせいで、まさに降るような星空が拝めるのだ。

祭りはまだ続く、大人は顔を真っ赤にしながら酒やビールを飲み交わして笑っている。

大して自分たちは少し飽きてきた。帰ってもいいわけだが、それだけじゃなんか物足りない。

「じゃあ行こうぜ」と決定されるまで、大した時間はかからなかった。Y先輩と2,3人の男がひそひそとしているのが少し気にかかったが。

姉は大人の席に混ざって日本酒を飲んでいた。大して酔ってはいない風だった。そもそも姉は酒に強いのだ。

炭酸のジュースは飲めないくせに。同じ炭酸理由でビールも飲めないくせに、日本酒は辛口派と楽しむ可愛げの無い女だ。

一応、一声かけて抜けることにした。

「俺達ちょっと先輩達とスキー場まで散歩してくっから」

「何しに?」

「Y先輩が肝だめしついでに星見よーぜって、みんな盛り上がってるから」

「ふーん・・・・・・」

しばらく姉はY先輩を見ていた。姉にとっては後輩にあたる人だ。家にも遊びに行ったりから、結構仲が良い部類の人のはずだ。

「石屋の前の一本道登って、登山口からスキー場?」

「まあ一番近いし、慣れた道だし」

「ふーん。まあ、行きたきゃ行ってみれば?神社までも一本道だし」

「姉ちゃんは?」

「酒が私を呼んでるから、とりあえずパス」

なんだかよくわからないが、報告もしたので、俺達は十数人連れだって夜道を歩き出した。

「なんだ、とうまの姉ちゃんは来ねーのか」

「酒呼んでるそうなんで、しばらくは酒場から動かないと思いますよ」

「ちぇー、残念だな」

「やっぱ暗いねー」

「思ったより怖いかも」

Y先輩はぶーたれながらも怖がってる連中に檄を飛ばし、自分が先頭に立って先導して、結局は何事も無くスキー場まで辿りついた。

星はやっぱり絶景だった。

「うわー、すごーい。写メ撮ろう、写メ!」

みんながはしゃいで、地べたに寝転んで星空を満喫して。

いい時間だったと思う。

「秋だと結構、もう寒いね」

「冷えてきたしそろそろ帰ろっかー」

「肝試しっつっても、結局なんも起こんなかったじゃん、Y先輩」

「んな都合良く怪奇現象起こってたっまかっつーの!」

Y先輩は流していたが、何か少し苛立っているようにも見えた。

思えば、この時に気づくべきだったのかもしれない。

勝手な感想を言いつつ、俺達は帰路についた。

交差点をあと二つ越えれば、もとのグラウンドだ。

そう思った時だった。何か、踏み越えたなと、そんな感覚に襲われた。

同時に俺は今まで嗅いだことの無い、吐き気がする空気に包まれているのを理解した。

あ、ヤバい。勘としかいいようがない。

これまで様々な不思議体験を姉としてきた俺だが、今回は種類が違うとはっきりわかった。

「なんか臭くない?」

「っていうかマジで寒い」

「えー、逆に生暖かくなった気がするけど」

背筋がゾクゾクして鳥肌がたつ。

例えるならば、死臭、だ。

みんな気づいていないようだが、それは鉄臭い血の臭いと、物の腐った臭いを混ぜ込んだようなものだった。

ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。

警鐘が頭の中では鳴っているのに、みんなノロノロと悠長に歩いたままだ。時間を引き延ばされたような、この不快な空気に永遠に閉じ込められたような錯覚すら覚えて、吐くのをこらえ俺は必死に足を進めていた。

直後だ。

先頭の方を歩いていたの数人が揃って絶叫を上げた。

男も女もお構い無しに、喉から出せるだけの恐怖を声に乗せて吐き出したような悲鳴。

だが、悲鳴のおかげで俺には通常の感覚が戻っていた。

「なに!?」

「おい!どうしたんだよ!」

いきなりの事にみんながてんぱっている中、俺は「神社まで走れ!出来るだけ道を越えるまで目つぶって!!」大声をあげた。

俺の声と視線の方向で、みんなもようやくソレらに気がついたようだった。

俺達は周囲を取り囲まれていた。

首の無い、白装束の幽霊と、ぼろきれのような朽ちかけの武士装束をまとい、刀を持ってたたずむ人影とにに。

悲鳴を上げてるヤツをひっつかんで、一斉にみんなが走り出す。

俺も悲鳴をあげてた男を一人ひっつかんで全速力で逃げ出した。

幸い、幽霊達とはまだ数メートル距離があった。

俺が走ってる間引っ張ってる男は、ずっとうわごとのように、

「首、首・・・・・・・俺の、俺のくびぃ・・・・・・」

とぶつぶつ呟いていた。

「追いかけてくるよ!」

誰かが叫ぶ。

「神社の中まで入ればたぶん大丈夫だ!」

俺が応える。

神社に到着するまでが恐ろしく長い時間に感じられた。

神社に着いた時の灯明の明るさが、本当に輝いて見えた。

みんな泣いていた。自分たちが見たものが、追ってきたものがなんなのかわからず、不安に泣いていた。

俺はその場で姉に電話をかけた。

どうにかしてくれるのが、他に思いつかなかったからだ。

ただ、「追いかけてきた」と言ったヤツがいたから、このまま放っておいたらマズい気がしてたまらなかった。

三コールか四コールかして姉が携帯に出た。

俺が起こったことをまくしたててる間、姉は「うん、それで?」とか聞いているんだかいないんだかわかんないような適当な相づちを打って寄越してた。

「何とかしてくれよ・・・」

「わかった。じゃあ、とりあえずあんたらは神社から出ないこと。今から見てくるから」

といって、一方的に通話は切れた。

見てくる?見てくるってなんだ?俺達が通って来た場所に行くってことか?

姉が無事で帰ってくるのか、ものすごい不安になった。

俺は安易に、なんてことを頼んだろうと。何が起こったのかもわからないのに、なんとかしてくれなんて、しかも自分たちから行って起こったことなのにと、不安と罪悪感で締め付けられるようだった。

10分ほどして、姉が神社についた。

見たところ異常も怪我も無い。

そして俺達そっちのけで、神主さんのところに行くと、御神酒として捧げられていた四本の日本酒をもらってきた。

泣いたり、へたり込んだり、ぐったりしている俺達の目の前で、

「Y!」

姉はY先輩の名を呼んだ。普段とはまるで違う、冷淡な声だった。

Y先輩はびくりと身を震わせ、それでも何とか姉の前に立った。

「肝試しをしようって言い出したのはお前だったそうだな。お前は、通り道に何があったか聞きかじりでもしたか?あと三人。Yのいたずらに荷担したヤツ。前に出ろ」

姉の言葉とY先輩がそいつらの方を振り向いて、同行していた男三人がのろのろとした動作で立ち上がり、Y先輩の横に並んだ。

その四人に、神主から渡された日本酒を一本ずつ持たせていく。

「お前達がどういうつもりだったのかは、この際どうでもいい。だが、自分たちで事を起こした責任はきっちりとってこい。お前達が軽い気持ちで踏みつけたあの『つみ石』に、心から詫びて、御神酒を捧げ流しかけ、赦しを貰うまで帰ってくるな」

「も、もう一回行って来いって・・・?」

ガタガタと震える男四人を姉は一瞥して言った。

「行かなきゃ行かないで、お前達の首が落ちるだけだ」

真っ青な顔で、泣きそうな面構えの四人を、俺達は暗闇の中へ送り出した。

姉曰く、誰もついて行ってはいけないし、怒らせた相手には自分で詫びねば意味がないのだそうだ。

問題は悲鳴を上げて今もおかしげな事を呟いている人の方だと思ったのだが、こちらは幽霊の気にあてられただけだから神社の中にいれば治るとのことだった。

言葉どおり、ぶつぶつと呟いていたヤツは時間の経過と共に自然と治った。念のためと、御神酒を飲ませてはいたが。

30分ほどして、出て行った四人が帰ってきた。

死人のような顔色だったが、それでも無事で帰ってきたことで、最後に姉が「これで今夜の件については後は何も起こらない。が、他の連中もこれに懲りたら興味本位でで心霊スポットに行ったりしないこと。何があったても自己責任だから、肝に命じておけ。あとはとっとと解散!!」

珍しく怒鳴り散らし、肝試しに加わった連中はほうほうの体で逃げ帰った。

四人はへたりこんで、もはや一歩も動けないというような感じで、神社に詰めていた老人達に怒られ、それぞれの親に引き取られて帰っていった。

姉は深々と神社に一礼し、俺達も帰路についた。

「俺達が見たのっていうか、襲われたのって結局なんだったんだよ?」

帰ってから、どうにも釈然としない俺は姉に聞いた。今回ばかりははっきりした回答が欲しかった。

「簡単だ。お前達は巻き込まれただけ。主犯はYと残り三人。『つみ石』を踏みつけるとか、何かいたずらしたんだろ?私を偽物扱いしたかったんだか、本当の心霊体験をしてみたかったのか、あいつらの考えなんぞどうでもいいが、やっちゃならないことをした。それだけだ」

「あの道、何か出るとか聞いたことないけど」

「道が問題なんじゃない。昔何があったのかが問題なんだ。しかし祭りの日で良かったな、神のおわす前にいれる日でなきゃ、何人どうなったのかわからないよ、私にも」

神社が開かれていた日だったから、幸運にも難を逃れたというわけか。

悪いことをした者が責任をとりにいって、供物を捧げ赦してもらえた。

他の連中は神様のいる場所にいたから助かった。

「昔、何があったんだ。あそこに」

「首狩り刑場だよ。罪を赦されなかったら、首を刎ねられる」

夜の闇の中でもはっきりと見えた刀の冷たい光。

同じぐらい冷たく感じる声音の姉。

「一直線だから神社まで逃げきれて良かったな」

逃げ切れなかったらどうなったのか、首が落ちただけで済んだのか、あいつらの仲間になっていたんじゃないかと俺は今でもあの日の事を考えるのが怖い。

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