学校の怪談1 プールの第3コース

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学校の怪談1 プールの第3コース

四つ年上の姉の話。

今日は姉と俺がまだ小学生だった頃の話をしようと思う。

まだ、姉が口調が切り替わる話し方をするようになる前の話だ。

俺達はまだ小さい頃に(姉がちょうど小学校の1年の時)、父方の親族が住んでいた県から引っ越しをした。

俺はマジで小さかったから、何で引っ越したのかとかは覚えていない。

父方の祖父母は優しかったし、引っ越した先の母方の祖父母も優しかった。

強いていえば、今考えてみると引っ越した先がかなりの田舎だった事ぐらいだろうか。

姉にとっては田舎の方が目新しいものがたくさんで、とにかく面白がっていたことをよく覚えている。

電灯が少ない暗い景色も、間近にある自然も、古い建物も、何もかもが新鮮だったんだそうだ。

さて、俺も同じ小学校に入学したのだが、その頃は「怪談」、「怖い話」が全国的にブームだった。

田舎の小学校には結構あることだと思うが生徒数が少ないため、上級生も下級生もいっしょくたになって遊ぶ

のが普通だった。

何年生でも関係無く毎日みんなで集まって怖い話をしては「今度○○に探検に行こう!」などと男子は盛り上がり、女子は怖いとキャーキャー言いながらも楽しんでいた。

ただ、上級生は口々に「学校の七不思議がここにもあれば面白かったのに」とほぼ毎日のように不満をもらしていた。

木造校舎で雰囲気たっぷりのわりには、学校に伝わる怖い話というものがほとんど無かったのだ。

だから、図書室で怖い話を読んでもりあがったり、中学生の兄や姉を持つ生徒がもっと怖い話を聞いてきて、それをみんなに披露したり、ってのが普通だった。

話は変わるが、通っていた小学校というのが、スポーツに力を入れている学校で、年中いつでも何かしらの強化訓練を行っていた。

春はマラソン、夏は水泳、秋は陸上競技全般、冬はスキーにクロスカントリースキーと、放課後の練習が義務だった。もちろん、何かしらちゃんと理由のある児童を除いては全員強制参加だった。

学校側としては大会で上位成績を収めて、近郊の学校へ力を見せつける、みたいな感じだった。

そんな大人の事情はつゆ知らず、俺達はダルいダルいと思いながらも、毎日のスポーツへ取り組まさせられていた。

特に熱を入れて取り組まれていたのが、夏の水泳大会とスキー大会。

上位入賞すれば県大会なんかにも進めるものだったから、教師陣も毎年スパルタ訓練を行ってくれた。そういう練習が無かった学校、もしくは本人の参加希望制だった学校に通っていた人がマジで羨ましい。

で、ここからが妙な話になる。

うちの学校には特に怪談話が無かった。

が、ある日、放課後の水泳の練習中に第3コースを泳いでいた4年生の女子児童が「何かに足を引っ張られた」と騒ぎ出したのだ。女子児童は「怖いから今日はもうプールに入りたくない。帰りたい」と、最終的に泣き出してしまった。

その児童はその日の練習を免除され、教師は「足をつりそうになったのを勘違いしたんだ」とみんなを説得して、練習はその後も続いた。

が、間が悪かったというべきなのかなんなのか、最初に書いた通り、その頃学校の児童達は怪談話に飢えていた。

そのせいなのかみるみる内に、「あのコースで死んだ生徒が引っ張り込もうとしている」だの、「いや、昔第3コースの排水穴に落ちて水死した生徒がいたらしい」などと、プールの怪談が全校生徒の間で広がっていった。

それでも日々の練習は続いていたし、本当に足を引っ張られる児童なんか出なかった。

それでも、プールの怪談は「第3コースの排水穴の上の鉄檻から覗くと、幽霊と目が合って溺れて殺される」なんてところまで発展してしまっていた。

当然先生達は「根も葉もない噂だから、みんな真面目に練習に取り組むこと」の一点張りだった。

その頃、もう一つ、この怪談に誘発されて流行りだしたのが、「潜って第3コースの鉄格子の奥に何か見えるか確かめる」という度胸試しだった。肝試し水中版である。

まずは上級生男子が、ついで他の上級生女子や下級生にも流行りだし、それはちょっとしたイベントと化していった。拒むと「やらないヤツはヘタレ。根性無しのビビり」のレッテルを貼られるわけで、怖がっている子も参加しなきゃいけない空気になっていったのが、なんとなく怖かった。

ちなみに俺もその度胸試しはやったが、なんにも起こらなくてほっとした。

なーんだ、やっぱりもともと無かった話なんだから、お化けが出るわけないじゃん、と思っていた。

その数日後である。

小学生男子の中には、先生に「やっちゃ駄目!」と禁止されると、かえって熱中してやってしまうお調子者が必ず何人かはいるものだ。

まあ、度が過ぎると問題児になるんだが、うちの小学校にもそういう問題児として扱われているM君というヤツがいた。

水泳の練習では必ず30分泳いだら5分なり10分なり休憩時間を先生がホイッスルで知らせる。

ホイッスルがなったら、何処で泳いでいてもいったんはプールサイドにあがるって休憩するのが決まり事だった。

M君は何につけ決まり事を守るのが嫌いで、全校集会でも騒いだりと、よく言うことを聞かない子供として有名だった。

この日も、M君は一旦はホイッスルに従ってプールサイドに上がったものの、途中で「いいか!これからオレが一人でもぐって幽霊なんかいないって証明してやる!!」といきなり叫ぶと、まだ休憩時間にも関わらずどぼんっ!と派手な音をたててプールに飛び込んでしまった。

あの肝試しは第3コースの中央、つまりプールの中央にある排水穴に指をかけ、鉄格子の奥を覗いて戻ってくる、というのがやり方で、壁を蹴ってそこまでもぐって行くのが一番早いやり方だった。

小学校のプールは一般的な25mプール。

その横幅はだから12mぐらいのはず。その半分だから6mぐらいの長さか。規格が普通なら水深は1.2mのはずだ。

M君は身長もある方なので、中心で立てば間違いなく肩以上は水の上に出る。

泳ぎも得意な方だ。潜水も得意で、25mと半分ぐらい顔を出さないでもぐったまま泳げる。

先生も「またMか」みたいな感じで、最初は呆れ顔だった。

が、そのM君が上がってこない。

みんなを驚かせるのが好きだから、水中で息を止めてあえて長引かせているのかもしれない。

その内、生徒がざわざわ言い出した、いくらなんでも遅い。

だいじょうぶかな。幽霊に捕まったんじゃない。

ざわざわ、ざわざわと顔を見合わせ怯え出す生徒もいた。

ようやく先生がプールに入って、M君を回収しようと動いた。

先生がプールに入ってすぐのことだ。

ざばっとすごい勢いで、先生が「誰か他の先生達を呼んで来てくれ!急いで!!」と、ものすごい大きな声で叫ぶと、もう一度プールの中にもぐった。

プールサイドはパニック状態になり、泣き出して逃げ出す児童や、職員室へ走って行く児童ですごい状態になった。

静かになったプールサイドに、逃げ出す押し合いへし合いに負けて取り残された俺と、水面をじっと見つめる姉だけが残っていた。

プールの中央では先生の腕や足が見え隠れ、ばちゃばちゃと激しい音をたてている。

次の瞬間、姉がプールに飛び込んだ。

俺は飛び込んだ姉や先生やM君が心配で、何が起こっているのかも知りたくて、続いて飛び込んだ。

飛び込んだ時の泡が周りから消えて俺が目にしたのは、ぐったりと足を鉄格子側に向けて数中で漂うM君と、それを持ち上げようとする先生、それから鉄格子に近づく姉の姿だった。

M君はどう見ても意識がなさそうだった。鉄格子とむしろ逆側の体制で逃げようとして途中で止まっているような感じだった。その何にも引っかかっていないM君を先生が必死で引っ張りあげようとしている。

やがて姉が鉄格子に辿りつく、中を覗き込んでから、一発、がんっと鉄格子を思い切り蹴った。

瞬間、勢いよく先生がM君を連れて泳ぎだし、プールサイドに押し上げた。

姉も先生と逆側に泳いで、プールサイドに辿りついてあっという間に水から上がり、俺は姉を追いかけてプールから這い上がった。

正直水の上にあがるまで、次に俺がああなったらどうしようという怖さでいっぱいだった。

プールサイドで姉は俺が上がってくるのを立ち上がって眺めていた。

「あんた、残ってたの」

「入り口狭くて逃げ遅れた」

「怪我とかしてない?」

「してない。逃げたヤツらの方がしたと思う。転んでたし」

「保健室が大混雑だろうね」

俺と姉は場に似合わない会話をしながら、先生とM君の側まで近づいていった。他の先生方も数人来ていて、人工呼吸をしたり、心臓マッサージをしたりいわゆる救命手当をしていた。

M君は水をたらふくのんだのか、腹の辺りがいつもよりでかくなっていて、白目で気絶していて、唇も紫色になっていた。

正直、俺はM君が死人に見えて怖かった。

「なあ、ねーちゃん、M君死んでないよね?」

「ちゃんと生きてるよ。気絶してるけど、病院でちゃんと治療すれば大丈夫でしょ。溺れただけだし、後は先生達がちゃんとなんとかしてくれると思うよ」

姉の一言で、俺はすごくほっとした。

早々に俺達も来た先生達によってプールから追い出され、いつもより早い時間の返り道を歩いていた。

夕暮れのオレンジ色がすごく綺麗で、さっきの騒ぎが嘘だったみたいだった。

「なあ、ねーちゃん。さっきの、学校の噂のプールで死んだ幽霊?」

「あのプールで死んだ人がいなくて、あとから話ができたのにプールで死んだ幽霊出るの?」

「じゃあ、M君なんで上がってこれなかったの?」

M君はプールサイドを目指す方向で水中にいた、なのに先生が助けようとしても動かないから、先生はあんなにばちゃばちゃと頑張っていたんだろう。

「プールで死んだ人はいないけど、M君は幽霊に足を引っ張られたんでしょ」

「?」

あの時プールの中にいた俺には、幽霊とかは見えなかった。もともと見えるわけじゃないけど、じゃあなんだったんだという疑問がぐるぐるする。

「あんたは、あのプールの肝試し、実行しちゃだめだよ」

「もうやった。けどなんにも起こらなかった」

「今後は絶対ダメ。できれば3コースも泳がないようにしな」

「なんで」

「プールで死んだ人がいるとかは全部嘘とか噂だったからいいけど、みんながあんまり信じるからあそこにはもう棲んでる。だからダメ」

すんでる?なにが?誰が?

「あんたは学校の成り立ちとか社会科の勉強で調べなかったの?本で調べただけ?あっそ」

「なにさ。何がすんだってんだよ」

「あの学校、昔のお墓を潰してその上に立てたんだって。もともと斜面だったところのお墓を潰して、平らにならして、その上に立てたんだって。自由研究の発表で色々な人から話聞いてわかった。だから、学校前の道路をはさんで向かい側、あそこにお墓残ってるでしょう?」

姉が指した指の先、そこには杉林に囲まれたお墓が学校を、プールを見下ろす形で夕日に照らされていた。

「あんまりみんなが期待するから、たぶん本当にあの鉄格子の向こうにお墓の誰かが棲んじゃったの。だから、調子にのって怪談があればいいって盛り上がらないこと」

そういえば、姉は学校であれだけ盛り上がっているにも関わらず、みんなで幽霊だ、オカルトと騒いでいる時には一貫して加わっていなかった。

「学校の怪談ってこうやって出来ていくのかな」

ちなみにその後何年かしてから新校舎の設立が決まった。

姉は偶然にも、その学校の最後の卒業生となった。

M君が怖い思いをしたプールも一緒に取り壊されたが、強烈な恐怖を味わったM君は今も泳げなくなったままだ。

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