俺がまだM子と付き合っていた頃の話なんだけど、その当時俺は大学生で彼女はOLしていて同じ歳だった。
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ある夏の休みの日、俺の小さなポンコツ軽で昼からドライブに出掛けた。
地元の海岸に行き、日が暮れるまで二人浜辺で遊んでからじゃあそろそろ帰るか?と、また元来た道を走り出したんだ。
確か午後6時くらいだったかな。
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しばらく薄暗い田舎道を走った後、山あいに続く急な坂を登って行くとやがて、左手に山肌右手にガードレールの切り立つ崖に沿った二車線の道に変わった。
ガードレールのはるか彼方に見える、水平線に沈む真っ赤な太陽がとても印象的だったのを今も覚えている。
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初めのうちは助手席に座るM子と下らないよもやま話をしていたんだけど、いつの間にか眠ってしまったのか彼女静かになってしまったんだ。
しょうがないからラジオでも聴きながら、単調で暗い山道を走り続けていた。
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そしたら何度目のカーブを過ぎた時だろう、突然すぐ前方にでっかいバスが現れたんだ。
サイズ的にもデコレーションも、いかにも観光バスという体をしていたな。
バスのデカさのために前方が見えにくいほどだった。
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ふとバスの後部座席の窓を見ると、暗い車内で白い開襟シャツの男子高校生数人が話している様子が分かった。
恐らく修学旅行か何かなのだろう。
すると高校生たちは俺に気が付いたのか、軽く手を振った
俺も応えるように微笑みながら手を振る。
ただその高校生たちの目は決して笑ってなくて、何故なんだろうどこか悲しげだった。
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何ともいえぬ複雑な気持ちでその高校生の姿を見ながら、走っていたその時だった。
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いきなり眼前に水平線が広がりガードレールが間近に迫ってきていたんだ。
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「うわ!」
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俺は慌てて力一杯ブレーキを踏み込んだ。
派手なスリップ音とともに車は勢いよくガードレールに衝突し、その衝撃で俺もM子も体ごとフロントガラスにぶつかった。
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しばらく意識を失っていたのだろう。
俺は目を覚ますと車から脱出し、助手席のM子を何とか外に出し、すぐに119に電話した。
車はガードレールが逆U字になるくらいの状態で停止しており、前面はぐしゃぐしゃに大破していた。
幸いにもM子は意識があり、大事ではなさそうだ。
あともう少し前まで行っていたら、奈落の底にまっ逆さまだっただろう、、、
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俺は事故の状況を考えてみた。
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ちょうど最後のカーブに差し掛かったとき何故かバスがハンドルを切らずにそのまま直進したようで、真後ろの俺もそのままバスに追随し反対車線を横切りそのままガードレールに突っ込んだようだった。
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ただおかしなことにバスの姿はどこにも見当たらなかった
もしバスが崖下に落ちたのならガードレールは破壊されていたはずで、当然俺の車もそのまま一緒に落下していただろう。
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呆然とした様子で座りこむM子に体の具合を聞いているときふと左側の法面を見ると、たくさんの花束やお菓子が地面に置かれているのに気が付いた
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駆けつけた救急隊員の一人に聞いた話なんだけど、ちょうど去年の今頃、遠征試合のためにバスでここを通りかかった男子高校生の一団が、運転手の操作ミスでガードレールから崖下に落ちたそうだ。
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その事故で運転手と男子高校生23人全員が犠牲になったということだった。
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Fin
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Presented by Nekojiro
作者ねこじろう