中編6
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罪人の家

その家の存在を思い出したのは、父の代わりに地域の祭事に顔を出したのがきっかけです。

私の家の近くに、小高い丘があります。

丘続く坂道沿いの右側には数軒の民家が並び、左側は斜面になっていて、坂を登り切ると正面に神社を囲む林、振り返ると小さな公園があります。

つまり、頂上に公園のある丘を左手にして登ってくるという感じです。

公園の向かいにある神社は林に囲まれ、古く寂れていますが、地域の人の手によって手入れされており、年に一度地域の代表者が集まりその年の代表者(神社の掃除や祭事の準備などをする係のようなものです)を決め、近隣の神社から神主さんを招いて祈祷をしてもらうという祭事が催されます。

祭事というには大袈裟かもしれませんが…

その祭事には各家の代表者が1人、奉納金を納めに行くのですが、毎年我が家では父が出席していました。

しかしその年は父に急用ができてしまい、代わりに長男である私が出席したんです。

といっても奉納金を納め、代わりにお札をいただくだけなので、10分程度で用は足りてしまうのですが。

奉納金を納め、帰ろうとしたのですが、他の家の代表者の方々がなかなか帰られず立ち話をしているため、私もなんとなく帰りづらくなってしまい、かと言って年配者達と話すこともなく、神社を後にしてなんとなく公園の方へ向かいました。

現在は撤去されていますが、子供の頃は遊具があり、しょっちゅうここで遊んでいました。

そこでふと、ある家の事を思い出したんです。

それは、神社へ続く坂道を登り切り、神社を正面に見て右側の林の中に佇む廃屋でした。

私はふとその廃屋の事を思い出し、その家のあったはずの方向に目をやりました。

私が子供の頃にはすでに廃屋で、その頃から既に鬱蒼とした草木に覆われていたのですが、今はその殆どが雑木林の中に埋もれてしまい、微かに青っぽい屋根が見える程度です。

"そういえば、今まで考えたこともなかだけどここは誰が住んでいたんだろう?"

こんな小さな田舎ですから、父や母に聞けばきっとわかるだろう。田舎の年寄りというのはそういう事に敏感なはずだ…

家に帰ると既に用事を終えた父が帰宅していました。

私はそれとなく

「今日何となく思い出したんだけど、神社の横の斜面に建ってる家って誰か住んでたの?」

と尋ねました。

テレビを見ていた父は、「あー」と思い出しように唸り

「そんな家あったなぁ。なんか噂だと犯罪者だかヤクザだかが住んでたらしいぞ。しょっちゅうパトカーが張ってたから。」

思いもよらない答えでした。

てっきりこの神社の神主さんが住んでたとか、地域の誰かの持ち物で、新しく家を建てたので今はもう住んでいないとかその程度のオチだと思っていたので、まさか犯罪者が隠れ住んでいたなんて、正直ワクワクしてしまいました。

こうなると気になるのは家の内部です。

しかし、私が物心付いた時には既に廃屋だった事を考えると、20年以上は無人という事になります。

そんなに長期の間放置された家がどんな事になっているのかは想像に難くありません。

物理的に危険。

…でも、気になりますよね。

私はどうしても内部が気になってしまい、窓から中を覗くだけでもできないかと考え、次の日曜日、昼間のうちに近くまで行ってみようと考えました。

当日、気持ち的に、できれば晴れて欲しかったのですが、生憎の曇り空。目的の家の前までは来たものの、背丈以上の草木に覆われ、家に通じる道らしき物は見当たりません。どうやらこの草木をかき分けて突き進むしかないようです。

が、まだ肌寒い時期ということもあって厚着をしてきたのが功を奏し、難なく家の前まで辿り着くことができました。

思った以上に呆気なく目的地にたどり着いてしまい拍子抜けしたのも束の間、その家は想像以上の禍々しい存在感を放ち、私を待ち受けていました。

木造二階建てのなんの変哲もない作りの古い民家ですが、主人を失い長年放置された外壁は朽ち、窓は汚れて内部の様子は殆ど分かりません。

私は躊躇しました。

これ以上踏み込んでいいものか。もちろん、持ち主がいるとすれば立派な不法侵入です。

しかしそれ以上に、霊感など全くない私でも、この家から発せられる得体の知れない雰囲気に寒気がしました。

恐怖で寒気がするなんて、子供の頃に父親「リング」を見せられて以来です。

ですが、それよりも好奇心が勝ってしまいました。

玄関の引き戸に手をかけ、力を込めました…

ガラッ…

幸か不幸か鍵はかかっていませんでした。

ゆっくり戸を開け、恐る恐る中を覗きました。

玄関には、男物と思われるボロボロの靴やサンダルが散乱していました。

玄関から伸びる薄暗い廊下には20年分の埃が溜まり、20年ぶりに開け放たれた玄関からの空気によってその埃が舞い、とてもじゃないですが先に進むことはできませんでした。

廊下の先には台所らしき部屋がうっすらと見え、廊下の左側が恐らくリビング、そして廊下の右側には2階に続く階段が見えました。

私は埃が落ち着くのを待って、袖で口と鼻を覆いつつゆっくりと内部に侵入しました。

一階は特に変わったところはありませんでした。

恐らく、退居される時にある程度は荷物を整理したのでしょう。

当時の新聞や雑誌等が散乱していましたが、家主に繋がるような物は発見できませんでした。

一階はリビングを含め4つの部屋がありましたが、他の部屋にもこれといった物はありませんでした。

ここまで来ると恐怖心も薄れてきます。

私は次に2階に向かいました。

階段が崩れ落ちたりしないかと心配しましたが、意を決して階段に足をかけました。

その時です。

2階で、ザザっ

という音がしました。

私はその場で凍りつきました。

何か、ものが倒れる音というよりは、足音という感じに聞こえました。

私は深呼吸をして

「動物だろう」

と無理やり言い聞かせ、2歩目を踏み出しました。

ザザっ…ザザっ…

それは確実に足音でした。

素足で畳の上を歩くような足音です。

実家にも和室があり、聞き馴染みがある音でした…

嘘だろ…

人…な訳ないよな…

私はその場で動けなくなりました。

上にいるナニカに気付かれてはまずいと思ったのです。

いや、もう気付かれてるのかもしれませんが…

心臓の鼓動が速くなり、全身に冷や汗をかいているのが分かりました。

どうしようどうしようどうしようどうしよう

ザザっ…ザザっ…ザザっ…

2階のどこからその音がするのかわかりませんが、確実にこちらに近付いているのは分かりました。

私は足を階段にかけ、右手は手すりに捕まったまま固まっていました。

見てはいけないと思いつつも、微かに見える2階の廊下部分から目が離せませんでした。

ザザっ…ザザっ…

2階の廊下に何かが現れました。

何かかはわかりません。

それが見えた瞬間、私は全身の血が引くのが分かりました。

そして反射的に階段から跳び降り、そのまま全速力で玄関を駆け抜け、雑木林を突き抜け、気がつくと公園の真ん中まで来ていました。

そしてその場に倒れ込み、全身の震えと呼吸が落ち着くのを待ちました。

しばらくパニック状態でその場から動けず、呼吸が整い動けるようになるまで5分ほどかかりました。

そして、何があったのか頭で整理し、深呼吸をした後、あの家の方を振り返りました。

雑木林の中にうっすらと屋根が見えました。

私はあの時何を見たのか…

足音と共に現れた何かは何だったのか…

正直ハッキリとはわかりません。

何かが見えた。と思った瞬間からの記憶が曖昧です。

とにかく、怖い、ヤバい、逃げろ

それだけでした。

ごめんなさい。

私はもうあの家には近付けません。

何を見たわけでも、何をされたわけでもありません。

もしかしたら空耳、見間違いかもしれません。

あの家で私が確実に見た物は、昭和40年代の雑誌と新聞、平成4年の漫画雑誌、数本のビデオテープ、注射器と汚れたガーゼ、十数名の名前が記された名簿、座敷牢。

それだけです。

なんのオチもなく、幽霊も出てこない、曖昧な話で申し訳ありません。

Concrete
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@あんみつ姫 様

わざわざコメントいただきありがとうございます。
記憶も曖昧な部分があり、且つ拙く読みづらい文章で申し訳ありません。

確かに、勝手に幽霊の類だと決めつけてしまっていましたが、生きている人間だとするとまた違う意味でゾッとしますね…
向こうも向こうで一階の物音に注意を払ってこちらの様子を伺ってたんだと思うと本当に逃げてよかったと思います。

その場合、私が公園で息も絶え絶えになっている姿を二階の窓から見ていたんでしょうか。
考えただけで背筋が凍ります。

体験談というには恥ずかしいぐらいの作品ばかりですが、他の物も読んでいただけたら幸いです。
ありがとうございました。

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