廃棄物処理センター(おぼろげな記憶9)

中編4
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廃棄物処理センター(おぼろげな記憶9)

それはまだ結婚して5年ほど経った冬のことだったと思う。

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年末のある晴れた日曜日のこと。

朝から私は妻と二人、自宅の大掃除をした。

結婚してすぐに購入した、郊外にある古い二階建ての中古物件。

家族といっても二人だけなのだが、それでもゴミは結構あった。

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ようやく終了したのは午後3時頃。

普通の燃えるゴミから壊れた炊飯器まで、かなりの量のゴミを軽バンに積んで、私は一人で山あいにある市のゴミ処理場に持っていくことにした。

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山を削って建てられたその施設には、割りと簡単にたどり着いた。

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一見すると、怪しい宗教施設のような建物を正面に挑みながら門をくぐると、「一般ゴミの方はこちら」という看板がある。

それに従って車を進めると、既に何台かの車が並んでいた。

5分ほど待っていると、順番がきたので、ドライブスルーのような受付で手続きを済ませる。

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道に書かれた赤い矢印に従い走ると、立体駐車場のような建物があり、そのスロープを登っていくと、だだっ広い巨大な処理施設が目の前に広がった。

中では紺の制服姿の作業員たちが、てきぱきと動き回っている。

受付で言われた番号のコーナーに車を横付けして、作業員に必要書類を手渡すと、後部ドアが開けられ、次々とゴミが引っ張り出されていった。

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僅か数分で作業は終わり、作業員の指示で私は空っぽになった軽バンで反対側の出口から出ると、再びスロープを降りて行く。

矢印に従いながら最後の受付のところに向かう途中、尿意をもよおしたので車を横付けし、公衆トイレに駆け込んだ。

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手洗いを済ませ、再び車に戻ろうとした時だった。

何処からかボソボソという話し声が聞こえてくる。

私は辺りを見渡した。

誰もいない。

トイレの裏手に廻ってみる。

そこはちょっとした空き地になっており、奥まったところに、古びたプレハブ小屋があった。

屋根から錆びた煙突が突出している。

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小屋の前に男が二人、立っている。

どうやら話し声は、彼らのようだ。

一人は、制服姿の作業員。

もう一人は、グレーのスーツ姿の男性。

植え込みの陰で息を凝らして様子を見ていると、男性の方が作業員になにやら一方的に話しながら、無理やりに何かを手渡そうとしているようだ。

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「分かりました。今回だけですよ」

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根負けしたかのように作業員は白い封筒を胸ポケットに納めると、プレハブ小屋のドアを開き、中に入って行った。

男性が後に続く。

ちょっとした好奇心に駆られた私は小屋のところまで行くと、ドア横にある汚れたサッシ窓から中を覗いてみた。

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8帖ほどだろうか。

コンクリートに囲まれた殺風景なスペースの中央辺りに、金属製の錆びた焼却炉があった。

その煙突は、天井にまで伸びている。

二人は焼却炉の正面に立っていて、その足元には、大きな段ボールが置かれていた。

作業員は焼却炉の蓋を開くと、なにやらぶつぶつぼやきながら、その段ボールに手を突っ込み、中に入っているものを次々、焼却炉の中に放り込みだす。

スーツの男性はというと、作業員の傍らで腕組みをして、ただその作業を見ていた。

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初めそれは、単なる粗大ゴミかと思った。

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だが改めて作業員の手元を見た途端、心臓の拍動が激しく脈打ち出し、額から頬にかけてじんわり生暖かい汗がつたっていくのを感じた。

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作業員が右手に持っているもの、、、

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それは切断面の生々しい人間の脚であり、腕であり、胴体だった。

彼はまるで普通の粗大ゴミを扱うように次から次に箱から引っ張り出し、投げ入れていく。

私は唖然としながら、その様子を眺めていた。

そして最後に若い男性らしき頭部分の黒髪を掴んで、引っ張り出したのを見た正にその時だった。

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一瞬で私の全身は総毛立ち、ガタガタと足が震えだす。

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目の錯覚だろうか。

その時、頭部だけの男性の両目がパチリと開き、真っ直ぐ私の方を見たような気がしたのだ。

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私の身体は凍りつき、しばらく動くことが出来なかった。

中腰になって無理やり深呼吸して息を整えると、よろめきながらも何とか車に戻り、最後の受付を済ませ、施設を後にした。

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その日の夜は、妻の準備していた夕食にはほとんど箸をつけることが出来ず、早々にベッドに入ったことを覚えている。

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薄暗い寝室の天井を睨みながら、私は夕方見た恐ろしい光景のことを、いろいろ思い巡らせていた。

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トイレの裏手にあった煙突付きの古いプレハブ小屋、、、

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─あそこは、そもそも何のために建てられたものなんだろう?

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グレーのスーツ姿の男性、、、

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─あの男は一体、何者?

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段ボールに入っていたバラバラの遺体、、、

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─あの遺体とスーツの男性との関係は?

そして何故、バラバラだったのだろうか?

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そしてなにより、作業員が右手で掴んでいた若い男の頭部、、、

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─パッチリと両目を開き、私の方を見た。

あれは、私の目の錯覚だったのだろうか?

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それからは長い間、毎晩、私は恐ろしい悪夢に苛まれ、何度となく深夜に目を覚まされた。

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今でも時折夢の中に、あの頭部だけの若い男性が現れ、助けを請うような瞳でじっと見詰めることがある。

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Fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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