中編4
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2次元

これは、後輩の圭介が高校2年の夏に体験した不思議な話です。

夏休みも残り僅かとなった8月の中旬、宿題を早めに終えてしまった彼は暇を持て余していました。

夏休み中に読もうと思っていた漫画も読み終え、とことんやり込もうと意気込んでいたゲームもとっくに飽きてしまいました。

彼女もおらず、友達も多い方ではないし、何より彼の住む町は山と田んぼに囲まれた田舎で、遊びに行くにも買い物に行くにもバスと電車を乗り継がなければなりません。

クーラーの効いた自室で何気なくネットを徘徊していると、全国の有名心霊スポット一覧というサイトに辿り着きました。

オカルトや都市伝説に興味のあった圭介は自分の住む県の心霊スポットを調べてみることにしました。

廃ホテルや旅館跡、事故現場や城跡等、他県の例に漏れず所謂「いかにも」というスポットばかりでした。

その中で、とある精神病院跡の廃墟が目に入りました。

なぜそこだけが気になったかというと、その廃病院のある場所が自宅から車で10分ほどの場所にあるのです。

自転車で行けば30分ぐらいで着くな…

暇を持て余し、刺激を求めていた圭介はいても立ってもいられません。こんな身近にこんなに刺激的な場所があったとは。

1人で行くにはいささか心細い気もしましたが、誘う相手もおらず、結局、数日後の天気の良い日を見計らって、朝から家を飛び出しました。

意気揚々と目的地に向かったものの、その廃墟があるとされる場所は民家の真裏の山の中にあり、まずその民家の近くまで行くには田んぼの畦道を通るしかありません。

不安定な足元に気をつけながら、なんとか畦道を渡り切り民家の庭先まで辿り着きました。さらにこの民家の真裏の山に入るには、民家の前の細い砂利道を進み、民家の裏手まで周りそこから先人達が残したかすかな獣道を見つけ、雑木林をかき分けながら10分ほど行くと件の廃病院が現れる…らしいのですが…

正直言うと、想像していたよりも深い山で、人気もなく、圭介は少しだけ後悔していました。

どうせ1人なんだし、ここで引き返しても文句は言われないのですが、せっかくここまで来たのならと言う好奇心に負け、砂利道をとぼとぼと歩き始めました。

と、視界の端に何かを感じました。

ふとそちらに目をやると、30m程先、今圭介が歩いてきた畦道の辺りに黒髪の女性が立ってこちらを見つめていました。

周りは一面の田園地帯で、他に人影はありません。

農家の人かな?と思いましたが、それにしては格好が小綺麗です。白っぽいワンピースを着ています。

もしかしたらこの民家の人かな?不審者だと思ってこっちを警戒してるのかもしれない…そう思った圭介は笑顔で会釈をし

「こんにちは!」

と元気よく挨拶をしました。

しかし、その女性は挨拶を返すどころか微動だにしません。

やっぱり警戒されてるな…と思い、どうしようかと一瞬悩んだのですが、同時に女性に妙な違和感を覚えました。

その違和感の正体に気付くのに時間はかかりませんでした。

田んぼには、民家の裏手の山の影が降り、女性が立っている場所も山の影になっているのですが、何故か女性には影がかかっていないのです。

それだけでなく、周りの草木や田んぼの稲は風に揺れているのに、女性の髪もワンピースの裾も全く揺れていないのです。

例えるなら、風景の写真に全く別の明るい場所で撮った女性の写真を合成したような、不自然な光景でした。

圭介は急に怖くなり、引き返そうと思いましたが、引き返すには女性のいる田んぼを通る以外に方法がありません。

先に進めば山です。

畦道は他にもありますが、どの道田んぼに近づけば女性にも近付くことになります…

相変わらず女性は微動だにせずこちらを見ています。

いや、見ているのかもわかりません。

しかし少なくともこちらを向いています。

圭介は意を決し、さっき渡った畦道の二つ先の畦道まで駆け下り、女性の方は一切振り返らずに走り抜けました。

自転車まで辿り着き、ふと畦道の方を見ると、女性はまだこちらを見ています。

やはり、圭介を見ているのです。

距離があるため女性の顔ははっきりわかりません、いや、距離のせいではなく顔の部分にだけがぼんやりとモザイクのようになっていて、見ることができないんです。

ただ確実に目が合っている。それだけはわかりました。

自転車に跨りいつでも逃げられる形となった圭介は少し冷静さを取り戻し、しばらくその女性を観察することにしました。

1分ほどの睨み合いの末、圭介はあろうことか、道端に落ちていた石を女性に向け投げつけました。

人ではないと判断し、しかも何のアクションも起こさない相手に痺れを切らしたのです。

もし相手が怒るようなら自転車で逃げたらいい。

石は、女性の前に広がる田んぼにポチャンと落ち、水飛沫が上がりました。

次の瞬間、今まで微動だにしなかった女性が動きました。

しかしその動きは確実に人間のものではありませんでした。

パラパラ漫画を見たことがありますか?

まさにあれのような動きで女性が畦道を歩き始めました。

しかも途中途中テレビの電波が悪い時のように、女性の身体にノイズのようなものが入るのです。

そして、動いているのにやはり髪の毛やスカートは揺れません。

手と足だけが不自然に動いて、ひらりと揺れるはずのスカートや髪の毛は、それに合わせてカクカクと動くだけです。

出来損ないのパラパラ漫画のようなあり得ない動きでこちらに向かってきます。

気がつくと圭介は全力で自転車を漕いでいました。

無我夢中で後ろも振り返らず。

結局彼は目的の心霊スポットには辿り着けず、未だに一度も訪れていないらしいです。

そして、例の畦道には、今でもあの女性が立っているそうです。

Concrete
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