中編3
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キャンプ場のトイレ

Aさんは幼い頃から時折不思議な者が見える。これは彼女が高校時代に家族とキャンプへ行った時の事だ。昔からよくキャンプをしていたがその時は家族や親戚と話し合い、いつもと違う場所でキャンプをしようという事になった。

海辺の近くのキャンプ場。キャンプ場と言っても無料だからか少し離れた場所にボロボロの簡易式のトイレが一つあるだけだ。少し潔癖症なAさんはそのトイレを使う事に躊躇いがあった。

その日は昼前にはキャンプ場へ着き、

浜辺で遊んだり釣りをしたり充実した一日を過ごした。明るいうちにトイレを確認しに行くと、やはり清潔とは言えない環境にAさんの気持ちは少し下がった。トイレは海辺にほんの少し近く歩きづらい道だ。何故こんな場所に作ったのだろうと疑問に思った。中に入ると当然汲み取り式で足元も砂にまみれている。何故か中にはヤドカリなども入り込んでいた。

何とか用を足し外に出ると近くで釣りをしてるおじさんに出会った。おじさんと目が合うと彼は一言「夜はこのトイレ使わんほうが」とAさんに伝え立ち去った。Aさんは夜は足元が危ないからかなと思い家族のいるテントまで戻った。個人的にもあの清潔感のないトイレは使いたくないので夜は何が何でも我慢してやると思ったそうだ。

すっかり日も落ち、夕食のBBQも盛り上がっ

た。あとはテントに入り寝るだけだ。その間、家族もあのトイレに行ったようで皆も清潔感のなさにげんなりしていたようだった。しばらくして皆は寝入ってしまったがAさんはなかなか眠れなかった。するとだんだんトイレに行きたくなってしまった。しばらく我慢していたが限界が近づき意を決してトイレに向かうことにした。   

電灯を持ち真っ暗な中、波音が聞こえる波打ち際を歩きながらトイレへ向かった。電灯で足元を照らしながら恐る恐る歩いていくとあのトイレが見えた。ドアを開け便器を照らすとヤドカリやらよく分からない虫やらがウジャウジャおりAさんはあまりの気持ち悪さにとにかく早く用を足そうと急いだ。

用を足し終え急いでテントへ戻ろうとすると、後ろから急に「ねえ」と呼び止められた。思わず後ろを振り向くと先程のトイレのドアが少しだけ開いていた。Aさんはピタリと止まると暗闇に包まれているドアからヌッと顔だけが出てきた。Aさんはほんの数秒前にトイレから出たばかりだ。周囲には誰もいなかった。あとから人が入る隙などないはずだ。

電灯を照らしてみるとAさんと同じ高校生くらいの女の子だった。黒髪おかっぱで顔は色白だが彫りの深い顔をしている。首だけ出してニタニタしながらこちらを見ている。Aさんはあまりの気持ち悪さに逃げようとすると間髪入れず「何をしてる?」とその女の子は問いかけて来た。Aさんはビクビクしながらも「用を足し終えて今からテントに戻る」と答えると、女の子は「一緒に行っていいの?」と再び問いかけてきた。

Aさんは当然ながらこの子はこの世の者ではないと感じていた。「駄目だよ。家族に怒られる」と答えた。すると女の子は悲しい顔をしながら「そうか」と呟きドアから出ていた首と頭をすっと中に入れてドアがバタンとしまった。その瞬間Aさんは一目散に逃げテントへ戻った。テントに戻ると両親が心配で探しにきていた。両親にことの顛末を伝えると寝ぼけていたのではと返答が来たが、いつの間にか夜が明け陽が出てきていた。

両親はAさんがいない事に気づき随分待っても戻らないため探しに行く所だったそうだ。

Aさんは10分程の感覚だったがかなりの時間テントをあけていたようだった。ふと冷静になると昼間声をかけてきた釣りのおじさんの言葉が頭に蘇った。そしておじさんの顔とあのトイレから出てきた女の子の顔が何となく似ている気もした。

結局あの女の子もおじさんも何も分からないまま終わってしまった。でも女の子に「一緒にきていいよ」ともし伝えたらどうなっていたのだろうとAさんさんは未だに気になっている。そしてあの悲しい顔が未だ脳裏に焼き付いてるそうだ。

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