Jさんはある事が原因で他人の家に泊まる事に二の足を踏むようになった。それは中学にあがる三月。小学校を卒業し束の間の春休みを楽しんでいた。
向かいに仲の良い同級生Iが住んでいた。よく一緒に遊んでいたのを覚えている。Iの家は自転車屋を経営していた。Iの父は身体が弱く床に伏していたが、母が切り盛りし地元でも有名な自転車屋だった。Iの両親もJさんを可愛がり家族ぐるみの付き合いがあった。ある日、自転車屋に顔を出すとIの母がいつものように店番をしていた。すると彼女はJさんを見るや否や満面の笑顔で「週末に一緒に旅行に行く?、中学にあがるお祝いをしましょう。楽しいところよ。絶対に気にいるから」と旅行に誘われた。出発前日に同級生宅に泊まり場所は着くまでのお楽しみらしい。Jさんは両親にも了解を得て旅行を楽しみをしていた。
しかし前日発熱をしてしまいJさんは旅行へ行くどころではなくなる。Jさんの親が先方に断りの連絡をした。その際、Iの母はとても残念がった。しきりに「とても楽しいと言われてる場所だし、息子が寂しがるので一緒に行けなくて残念。」と答えていたそうだ。
それから夜中に熱でうなされていると、耳元からサイレンの音が聞こえた。気だるい体を起こし窓を見ると向かいの同級生宅が火事で燃えていた。火は勢いが強くこちらの方にも向かってくる勢いだったそうだ。家族がすぐさま安全な場所までJを連れ出した。I達家族の安否は大丈夫だろうか??皆心配をしていた。
火は消し止められたが、隣接している自転車の店を含め、I宅は全て焼けてしまった。しばらくして焼け跡からI家族の真っ黒に焼け焦げた人形の様な姿が見つかったそうだ。警察の調べによると火の周りが予想以上に強く、ガソリンが撒かれた形跡があった。遺書などはないが状況を見るに無理心中だろうと断定された。またIの母は日頃から旦那の看病と店の借金によるストレスで悩んでいた事を人づてで知った。それからすぐにJの家のポストに一通の手紙が投函されていた。
宛先はJの親宛てで、差出人はIの母親からだったがJの両親が先に開き読んでいた。J自身非常に内容が気になったが両親は頑なに彼に内容を教えなかった。それから数年が経ち、成人を迎え改めて両親にあの時のことを聞いた。両親は渋々ながら当時の手紙の内容をJに伝えた。全てを聞いたあとJは言葉を失う。手紙の内容はこれから家族を道連れに無理心中する事、息子Iはまだ子供であの世に行き遊び友達がいないのは寂しがる事。それならJを連れて行けばIは喜ぶはずだと。
Jたまたま熱が出てあの家に泊まれなかった事で命が助かった。今でも友人に泊まりに誘われるとそれを思い出して断ってしまうそうだ。
作者夕暮怪雨