深夜のテレビショッピング season 2       ( K O R E I )

長編9
  • 表示切替
  • 使い方

深夜のテレビショッピング season 2       ( K O R E I )

畳二枚ほどの広さの薄暗い部屋だ。

separator

唯一の灯火は天井からぶら下がる裸電球のみ。

その真下にある安っぽい木製の机を挟み、女性が二人座っている。

二人の間には、怪しげな紫の水晶玉が一つ。

濃い化粧にショッキングピンクのブラウスを着た派手な佇まいの方が、正面に座る白髪で白い着物の老婆に尋ねる。

nextpage

「なあ義彦~あんたがいきなりあっちの世界に逝ってもうたもんやから、うち今マジ困ってんねん。

ほんま明日の晩飯も儘ならん感じなんや。

あんた生前、言っとたよな。

うちのために残した金は全部、自宅のあるところに隠してんねんって。

なあ教えてやあ。あんた、いったい家のどこに隠しとんの?」

nextpage

すると今まで穏やかに低い男の声で語っていた老婆の様子が一変した。

突然自ら首を両手で絞めながら、苦し気に呻きだしたのだ。

nextpage

「く、くるしい、、郁恵、ワシはもうここにはおれんようや、、、すまんけど失礼するわ」

nextpage

これが先日轢き逃げ交通事故で突然亡くなった、郁恵の主人「義彦」の最後の言葉ということだった。

nextpage

老婆は再び最初の落ち着いた状態に戻ると、何事もなかったような冷静な表情で、

「えーと、これで、終わらせていただきますわ。

この度のご主人の降霊料金は、税込で21,600円となりますな」

と言って、藪にらみで郁恵の顔を見た。

separator

夜ビジネスホテルの一室に帰り、ベッド脇の椅子に座る郁恵は、ベッドに寝転がるアロハシャツの若い男に愚痴っていた。

nextpage

「全く、全国でも指折りの霊媒師だと聞いて、わざわざこんな地方まで出向いたというのに、あのクソババア肝心のことになったら苦しい苦しいって何にもしゃべらへん。

あれ、ぜーったいインチキ霊媒師やな。

nextpage

あーあ、せっかくあんたが頑張ってくれたおかげで、あの役立たず、やっとあの世に行ってくれて、残った金でゆっくり二人で暮らせる思うたのにな。

こんなんやったら、家であんたと酒でも飲んどった方がましやったわ。

なあ、そう思わへんか?」

nextpage

するとベッドの男が半身を起こすと、

「まあまあ、そう言うなって、まだ他に何ぞええ方法あるはずやから」

と言い、テレビのリモコンの電源を入れる。

nextpage

すると、郁恵の左側にあるテレビから賑やかなマーチソングが聴こえてきた。

nextpage

画面にはきらびやかなセットのスタジオが映し出され、中央の二人が盛大な拍手と歓声に包まれている。

背中に「リモート命」と刺繍されたゴールドの法被にハチマキ姿の番組MCスマイル藤田が、隣の女性に勢いよく話しかける。

nextpage

「いやいやいや、秋本番ですよお!

ところで花子ちゃん、秋といえば何をイメージします?」

nextpage

コテコテのゴスロリファッションで固めたアシスタントのゴスロリ花子が微笑みながら答える。

nextpage

「そうですねえ、秋というのは元気で明るい夏とは違い、どちらかというと落ち着いていて地味な、『人生の黄昏』って感じでしょうか?」

nextpage

「おっとお花子ちゃん、相変わらず詩人だねえ。

そうですね。秋は人生の黄昏時を感じさせる季節ですよね。そして人生の黄昏時といえば、今流行りの『終活』というやつですよね。

nextpage

ご高齢の方々~、はたまた何らかの事情で死期の迫った皆様~、あの世への旅立ちの準備『終活』はお済みですかあ?

これをきちんとやっておかないと、残された連れ添いの方や息子さん娘さんは、本当に困った状態に陥ったりしますよお。

nextpage

さて本日ご紹介する商品は、既にそんな困った状態に陥っている方々に贈る素晴らしいものなんです。

それでは、お願いします!」

nextpage

藤田がそう言うと、

拍手と歓声に包まれてスタジオ袖から、

艶やかな牡丹の柄の着物を着た品の良さそうな初老の女性、そしてその横には派手なスタジャン姿の長身の若い男、そして白衣の細身の男性、それから最後に、若い女性番組スタッフが白い布の掛けられた台車を押しながら現れた。

nextpage

藤田が「それでは其々、自己紹介お願いします」と言うと、まず左端の初老の女性が、

「道玄坂澄江と申します。東京都はK区に住んでおります。私の横にいるのは息子の大貴でございます」と言い、品良く深々と頭を下げる。

隣の息子はガムを噛みながらズボンのポケットに手を突っ込み、聞いているのかいないのか不貞腐れた感じで突っ立っている。

次はくたびれたグレーのジャケット姿の中年男が、

「警視庁捜査一課の刑事、毒島です」と険しい顔で会釈した。

そして最後に白衣の細身の男性が、

「町立歌舞伎町大学工学部電子工学科の主席研究員、篠澤明です」と言い、ぎこちなく礼をする。

nextpage

ゴスロリ花子が初老の女性の横に立ち、話し始めた。

nextpage

「実はこちらの道玄坂さんは、東京都S区に店舗を構える全国的にも有名な老舗和菓子店『池田屋』の女将さんなんです。」

nextpage

おお~~!!

nextpage

スタジオ内に驚きの歓声が響く。

花子が続ける。

nextpage

「実は先日の夜、こちら池田屋さんの6代目当主である源右衛門さんが自宅近くの路上で何者かに刺されお亡くなりになったんですが、そのため、こちらにおられる奥様である澄江さんは肝心なことが分からず、現在大変お困りのようなんです」

nextpage

「肝心なことというのは澄江さん、何でしょうか?」

nextpage

藤田が澄江に尋ねる。

澄江は色白の整った顔を少し傾けると、訥々としゃべり始めた。

nextpage

「主人は、、、

通帳や現金、株券とかは全て自宅の金庫にしまっていて、その鍵は自分で管理していたんですが、一昨日の夜に不幸にも何者かに殺され、突然この世を去ってしまい、結局その鍵のありかが分からずじまいなんです。

それで今、私と息子は明日の暮らしも儘ならないくらい大変なことになっております。

もちろん主人を殺した憎い犯人を知りたいということもあるんですが、鍵の有り場所も知りたいんです。本当に死活問題なんです。

金庫は業者に特別に作らせたもので、決して容易には壊せません。

だから、、、」

nextpage

澄江はそう言いうつむくと、目頭にハンカチを押さえながらハラハラと涙を流しだした。

藤田が彼女の肩を優しく手を乗せると、

「そうでしょう、そうでしょう、分かります、分かりますよお。歌舞伎町大学の篠澤さん、こんな哀れなご婦人を救ってくれる素晴らしい商品ってないんですかあ?」と、隣に立つ篠澤の顔を見る。

nextpage

篠澤は爽やかに白い歯を見せてニッコリ笑うと、

「任せてください、藤田さん、澄江さん」と言って、スタジオ袖に先ほどから待機する女性スタッフに目線で合図をする。

すると彼女は台車を押しながら進むと、篠澤の前で止まり、被せられた白い布を一気に取り去った。

スタジオ内にどよめきが起こる。

nextpage

台車の上に乗せられた小さな机に置かれているのは普通のよくあるノートパソコンだった。

藤田が篠澤の顔を見ながら、「篠澤さん、これは?」と尋ねる。

篠澤はまた爽やかに微笑むと「ノートパソコンです」と答え、「ただ単なるパソコンではないんです」と付け加え、続けた。

nextpage

「このノートパソコンには、我々が長い年月をかけて開発した特別なアプリがインストールされているのです」

nextpage

藤田が「特別なアプリ?」と篠澤の顔を見る。

彼は頷き、また話しだした。

nextpage

「そうです。このパソコンにインストールされているのは驚異のアプリ『K O R E I 』というものです」

nextpage

スタジオ内がどよめく。

nextpage

藤田が改めて質問する。

nextpage

「すみません篠澤さん。その『K O R E I 』というのは、どんなアプリなんでしょうか?」

nextpage

篠澤が説明を始めた。

nextpage

「人間の思いや念というのは、実はごくごく微弱な電波みたいなものなんです。

この微弱な電波をパソコン内に取り込み、特殊なプロセスを経て増幅調整し、霊界の波長に同期させるんです。

あたかもラジオのチャンネルをチューニングするように。

すると、その方の会いたい故人を呼び寄せるということが出来、しかも今流行りのリモート対話まで可能になります!」

nextpage

「おお~~!!」

nextpage

スタジオ内に驚きのどよめきと拍手が沸き起こった。

だが澄江の息子大貴だけは「くだらねえ、くだらねえ」と何度も呟いている。

nextpage

「それでは、澄江さん、こちらへ」

nextpage

篠澤に言われ、澄江は歩いてパソコンの前に立つ。

それから、パソコンとコードで繋がったスキーのゴーグルのようなものを彼女の頭に被せると、パソコンの電源を入れた。

しばらくすると画面は様々なアイコンの並ぶトップ画面を映しだしたが、すぐに真っ暗になり、上方に数秒間難解なC言語を数行表示すると、再び真っ暗になった。

nextpage

「さあ、これで準備完了です。

後は澄江さん、頭の中に源右衛門さんの姿をイメージしてください」

nextpage

篠澤に言われ、澄江は懸命に旦那のことを思った。

息子の大貴は相変わらず画面には目をやらず、ポケットに手を入れたまま、ひたすら不満げに何やらぶつくさ呟いている。

その様子を毒島刑事がじっと見守っていた。

nextpage

5分ほどが過ぎた頃だろうか。

nextpage

真っ暗な画面の真ん中辺りに、ポツンと白いもやみたいなものが現れた。

それは少しずつ膨らんでいき、終いには画面中央に大きな白い楕円形を形作った。

それから乱れたテレビ画面の映像が徐々に修復するかのようにしながら、それは人の顔らしきものを形作っていき、最後はとうとう無表情の男の顔がポツンと現れた。

その顔は昭和時代のモノクロ映画に出てくる人のようで、どこか古めかしく懐かしい感じがする。

nextpage

スタジオ内にどよめきが起こった。

nextpage

「あなた、、、」

nextpage

画面に現れたモノクロの男の顔に向かって、澄江が声をかける。

nextpage

「ご主人ですか?」

nextpage

篠澤の問いに対して、澄江はコクりと頷く。

その瞳からは光るものが流れていた。

nextpage

「澄江さん、それではどうか、お知りになりたいことをお尋ねください」

nextpage

篠澤の言葉に澄江は頷くと、

「あなた、聞こえてる?聞こえてるのだったら、返事をしてちょうだい」と言った。

nextpage

画面の男は小さく頷いた。

時折画像が乱れ、男の顔がいびつに歪む。

nextpage

「そんな変わり果てた姿になったあなたに、こんなことを聞くのは心苦しいんだけど、どうしても教えて欲しいことがあるの。

金庫の鍵はどこ?」

nextpage

澄江の質問に画面の男はしばらく目を閉じていたが、やがて口を開いた。

nextpage

「ダ、ダイドコロ、、、

nextpage

ナガシダイノウエ、、、

nextpage

ト、トダナ」

nextpage

ダイドコロ、ナガシダイノウエ、トダナ、、、

ダイドコロ、ナガシダイノウエ、トダナ、、、」

nextpage

繰り返される男の言葉に澄江は、ウンウンと何度となく頷くと、次はこう続けた。

nextpage

「分かったわ。じゃあ最後にもう一つだけ教えてちょうだい。

nextpage

あなたを殺したのは、いったい誰なの?」

nextpage

この質問を聞いた途端、男の顔は大きく歪んだ。

その苦し気に歪んだ顔はしばらく続いたが、やがて最後は何か吹っ切れたように無表情な表情になり、一言一言しっかりと口を開きながら、しゃべった。

nextpage

「ダ」

nextpage

「イ」

nextpage

「キ」

nextpage

男の発する三文字を聞いた途端、澄江は青ざめた顔で振り向くと、後ろに立つ息子大貴の顔をキッと睨む。

nextpage

大貴はみるみる顔を赤らめると、

「ち、違う、俺じゃねえ!」

「俺じゃねえよ!」と大声を出しながら後退りする。

nextpage

そしてさらに続けた。

「だいたい、そんな、そんなオモチャみたいなものを、おふくろ、あんた信用してるのか?

俺はそんなもの認めないからな!」

「俺は絶対に認めないからな!」と喚きだした。

だがその焦り具合は誰が見ても尋常ではなかった。

nextpage

いつの間にか、うろたえる彼の横には毒島刑事が立ち、耳元に口を近づけるとこう呟いた。

nextpage

「話は署で聞こうか」

separator

篠澤研究員、道玄坂澄江そしてその息子の大貴は毒島刑事に連れられながら、スタジオを立ち去った。

シンと静まり返っているスタジオには、ゴスロリ花子の商品価格の説明がむなしく響いていた。

separator

「おい、郁恵、このパソコン、ええんちゃうか?

これやったら、お前の死んだ旦那から金の在りかを聞き出せるかもしれんぞ」

nextpage

ベッドの若い男が郁恵に言う。

nextpage

だが郁恵は男の言葉には何も答えず、石のように固まっていた。

大きく目を見開いたまま、青ざめた顔でただじっと部屋のある一点を見詰めている。

しかもその肩は小刻みに震えていた。

それに気づいた男は慌てて彼女の見ている辺りに視線を移した。

nextpage

次の瞬間、彼の背筋にぞわりと冷たいものが走った。

nextpage

それは薄暗い白い天井の片隅。

そこには、、、

nextpage

血で顔を真っ赤に染め悲しげな目をした男の上半身だけが、ぼんやりと浮かんでいた。

nextpage

Fin

separator

Presented by Nekojiro

Concrete
コメント怖い
2
8
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信