中編3
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河原にある小屋

カメラマンのMは度々撮影で地方の秘境と言われる場所へ行く。その中でも特に印象深い話がある。それは和歌山県と奈良県の境にある「最上級クラス」の秘境とされる場所での話だ。時期は6月。テーマは梅雨の秘境。撮影はカメラマンのMとアシスタントの2人だ。Mはアシスタントより先にロケハンも兼ね、前日入りする事にした。

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その秘境は温泉地でもあり、風情ある旅館に泊まる事にした。そこは高台から川を見下ろせる温泉が名物だ。ロケハンを済ませ、日付が変わる頃、お目当ての温泉に入る事にした。利用客は居らず、貸切気分で湯に入る。森林に囲まれ、星空を見ながら虫の鳴き声を聞く。とても良い気分だ。

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高台から下の河原を見下ろすと、小屋が見えた。Mは違和感を覚えた。何故ならこの地域は川がよく氾濫すると聞いていたからだ。こんな場所に何故小屋が建てられたのか?そんな疑問が頭に浮かぶ。すると小屋の傍で何か動く姿が見えた。人だろうか?この辺りは林業が盛んだ。Mは気味悪く感じたが、作業員が小屋を利用しているのだと思う事にした。

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翌日、アシスタントと合流し無事に「秘境の梅雨」をカメラに納める事が出来た。予定より早く撮影も終わりMはもう一泊する事にした。当然アシスタントも一緒だ。するとアシスタントは趣味のキャンプも兼ね、近くにテントを張り一泊すると言う。呆れつつ本人の希望もあり、了承した。

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その夜、Mが部屋で横になっていると、突然電話が鳴った。アシスタントからだ。話を聞くと、昨夜Mが温泉から見下ろした河原にテントを張っていると言う。Mは「河原が氾濫したらどうする」とアシスタントを叱った。だが彼は全く話を聞こうとしない。とにかく早く迎えに来て欲しいと繰り返すだけだ。あまりの必死さにMは根負けし、重い腰を上げ迎えに行く事にした。時計を見ると、昨夜Mが高台から人影を見た時間だ。

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河原に向かうと小屋の近くにテントが張られており、中には震えてうずくまるアシスタントがいた。アシスタントはテントの前で「じっと自分を見ている人影がいる」と話し、「まだそこにいます」と顔面蒼白で指をさした。しかしMには人影など見えない。「小屋の持ち主が見回りに来たのだ」とMは怯えるアシスタントにそう言い聞かせた。この様子ではテントに泊まるどころでない。アシスタントを連れ出し旅館に戻る事にした。

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翌日の昼、Mは人影が気になり、怯えるアシスタントを残し1人で昨夜の河原へ向かった。河原に着き小屋を見ると、思ったより新しい小屋だった。小屋には鍵はかけられていない。ドアを開くと、苔に覆われた地蔵が何体も横倒しにされ乱雑に積まれていた。中には首の無い物もある。死体の山を見るような不気味な光景で、部屋は苔の青臭いにおいに包まれ、今にでも地蔵が立ち上がり、向かって来る様に見えた。

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Mは気味が悪くなり旅館に戻る事にした。すると河原で作業をしている地元の男達を見かけ、Mは彼等に声をかけた。話によれば、ある男が河原の氾濫で流れついた地蔵を哀れに思い、この小屋に集めていたそうだ。その男は地蔵を拾っている最中、川に流され亡くなった。その話を聞きMは良からぬ事が頭をよぎった。

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もしや、昨夜テント前にいた人影はその男だったのでは?死してなお、地蔵を探し続け、寝ているアシスタントを地蔵だと思いテントの前で様子を伺っていた。そう考えると血の気がひいた。高台でMが見た人影もその男だったのかもしれない。旅館に戻ると引き込まれた様に眠るアシスタントがいた。もし人影に連れて行かれていたら彼はどうなっていたのか。Mの額に嫌な汗が滲み出た。決して梅雨の湿気のせいではない。

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