どこかで見た人(おぼろげな記憶17)

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どこかで見た人(おぼろげな記憶17)

皆さんは「どこかで見た人」に会うことはないだろうか?

もしかしたら、その人は何かの意味があって皆さんの前に現れているのかもしれません。

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男の名は、仮に田端としようか。

今年40になる独身のサラリーマンなんだけど、ある日の晩、彼は仕事が終わるといつものように、帰る道すがら馴染みのスーパーに買い物に来ていたんだ。

めぼしい物を適当にかごに入れ、

レジーの列に並ぶ。

自分の順番が来るまでの間、暇を持て余す彼は何気なく周囲を見渡していた。

するとレジーの向こう側の通路に立つ男の顔に、目が止まる。

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七三にきちんと分けた黒髪に細面の白い顔。

黒のシャツに黒のズボン。

特にこれといった特徴のある人ではない。

男は何をするわけでもなく、ただじっとその場に佇んでいた。

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田端は嘗て、この男をどこかで見たことがあるような気がした。

懸命に記憶の糸を手繰り寄せようとしているうちに、いつの間にかレジーの順番が来てしまい、彼の意識はふっと現実に立ち戻った。

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田端はマンションの自宅に帰ると、スーパーで買った半額弁当を食べ、シャワーを浴び、その後はリビングのソファーでぼんやりとテレビを見ていた。

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すると突然、ガラステーブルの携帯が鳴り出した。

画面を見ると「母」と表示されている。

─こんな時間に、一体何だろう?

一抹の不安を胸に抱きながら、携帯を耳にあてる。

「もしもし、明彦?」

いきなり思い詰めたような母の声が聞こえてくる。

田端はただならぬ事態を覚悟しながら答えた。

「そうだけど、こんな時間にどうしたの?」

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少しの間を置き、ようやく母はしゃべりだした。

「あのね父さんが、父さんが、、、」

後は泣きじゃくる母の声。

田端はそれで全てを察知した。

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癌で長く闘病生活を続けていた父が、とうとう息を引き取ったということだった。

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翌朝一番田端は会社に事情を説明し、九州の実家に帰省した。

それからは母と姉との三人で大変だったが、何とか父を見送ることが出来た。

彼は一週間滞在し、家族とともに様々な後処理をし終えると、実家を後にした。

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そして会社に復帰してから3日ほど経った日の夜のことだった。

仕事の後、田端は久しぶりに同僚と連れだって会社近くの居酒屋に立ち寄った。

金曜日の夜ということで店には客が多く、活気があった。

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彼と同僚XとY2人は奥のカウンター席に座る。

生ビールで乾杯した後、彼らは各々たのんだ小鉢をつまみながら、下らない四方山話に花を咲かせていた。

半時間ほど経った頃だろうか、尿意をもよおした田端は一人席を立つ。

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その時だ。

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ふと見渡した店内の喧騒の向こう側にある壁際に、あの男が立っていた。

七三に分けた黒髪に色白な顔。

そして黒のシャツ。

やはり男は何をするわけでもなく、ただじっと正面を向いている。

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─えーと、誰だったかなあ、、、

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彼はトイレで用を足しながら、多少酔いの回った頭で懸命に考えたが、やはり脳内のメモリーに符合する顔は見当たらなかった。

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それから結局、田端ら三人は店が看板になるまでだらだらと飲みながらしゃべり続けていた。

田端が勘定をしようと席を立ったときには、既にあの男の姿はなかった。

三人ともかなり酩酊していて、千鳥足のまま同僚のXが入口の引き戸をガラリと開け、勢い良く道路に飛び出したその瞬間だった。

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突然けたたましいブレーキ音とクラクションの音が鳴り響いた後、ドスンという鈍い衝撃音が続いた。

驚いた田端と同僚Yが外に飛び出て見た光景は、飛んでもない惨状だった。

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店前を左右に走る道路の左手10メートルほど先にある電信柱。

そこの根元にXが、不自然に首を折り曲げる形で倒れていた。

頭部はぱっくりと割れていて生々しい肉片と白い脳ミソが覗いており、辺りは血にまみれている。

そこからさらに10メートル辺りに、中型のトラックがハザードを出して停車していた。

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Xはすぐに救急車で病院に搬送されたが、手遅れだった。

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Xの葬式は、彼の実家である東北の方で家族だけで行われ、田端や会社の者が行くことはなかった。

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その週末のこと。

彼は時期的に不謹慎とは思いながらも、以前から決めていたので、彼女との北海道への一泊旅行に行くことになった。

朝方、空港のロビーで落ち合い、待ち合い所で彼女と二人、搭乗の時間が来るのを待っていた。

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やがてCAのアナウンスがあり、二人は立ち上がると、列に並ぶ。

「いよいよ出発ね。ああ、楽しみ~」

興奮気味の彼女の横顔を満足げに見ながら田端は、ふと搭乗口の向こうにある通路に視線を移す。

そしてとたんに背筋を冷たい何かが走った。

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七三の髪に白い顔と黒い服。

あの男だ!

あの男がこちら向きに立っている、、、

笑顔でチケットを受け取るCAの数メートル背後に立っている。

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次の瞬間、田端の脳内には何故だか彼のこれまでの半生が、16ミリ映写機のようにパラパラと駆け巡りだしていた。

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彼は突然足を止めると、一人楽しげに先を歩く彼女の背中を、緊張した面持ちでじっと見詰めていた。

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Fin

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