長編14
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自殺村 season2(8)最終話

 思っていたより酷く荒れる山道を白のセダン車で掛け上がる。れいは隣で相変わらず冷え切った表情を浮かべていた。

 メッセージに記載されているであろう住所に辿り着くと忠嗣は車を止めた。

「れいちゃん、ここで少し待っていてくれないかい?」

 忠嗣がそう言うと、れいはこくりと頷く。

 ここは人の気配をまるで感じない、見渡すと集落のような情景が広がる。忠嗣は入口にある看板に目を落とす。そこには消えかかった文字で(自殺村)と記されていた。どうやら本当にここで間違いないようだ。

 中に入ると、この村の案内図のような物が立っていた。そしてここからでも一望出来るぐらい幾つもの古屋が疎らに聳え立っている。忠嗣は案内図を確認する。

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【実行部屋】      【ゴースト】

   

 

     【志願者部屋】

 

 

 

          【共同スペース】

 

 

 【自室】

 【事務室】

         【入口】

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 確認するとまた村全体を見渡す。たぶん、俺が向かうべき場所は『志願者部屋』なんだろう。そう思いながら忠嗣は念を入れて各施設を廻る。

 数分で確認し終えたが、どうやら『志願者部屋』以外の全ての鍵が閉められていた。敢えてそこに入らず、忠嗣は車に戻った。

 そして、れいに、あそこの古屋に行こう、と上手く誘い込み、『志願者部屋』に同行する。

 扉を開けると拍子抜けするぐらい緊張感がなく、壁紙に星や月のマークが描かれている。ベッドも、なんだか童話の世界からやって来たようなゆるやかな造りだった。

 れいに目をやる。この年齢ぐらいの女の子なら、この光景を見て少しばかりはしゃいでもいいものだと思ったが、れいは相変わらず無表情を貫いていた。

「れいちゃん。適当にくつろいでいてね」

 忠嗣は白々しく言う。そしてれいはまたこくりと頷く。本当に一体何を考えているのかと、忠嗣は疑問に思い、部屋の中を入念に調べる。

 さて、どうしたものか…上手くここにれいを連れてこられたのは良いとして、ここからどうすれば、と忠嗣は天井に張り巡らせた星マークをぼんやりと眺めていた。

「こんにちは、アナタが工藤様ですね?」

 入口からの不意な声に忠嗣は驚いた。丁度、入口から背を向けていたから尚更だった。忠嗣はさっと正面を向き、答える。

「これはこれは、突然なもので少し驚きました。はい。わたくしが工藤と申します。アナタは夜川さんで間違いありませんか?」

「いえ、私は古谷と申します。本日は早乙女様のー」

 梓が早速要件を言い出し始めると忠嗣は、ごほん、と咳払いをして梓に近寄る。そして小声で梓に言う。

「その件なのですが…少し外で話しませんか?」

 忠嗣の中で焦りが生じたのか、唐突に梓を外へ促す。梓は特に抵抗する事もなく、れいを部屋に置いて二人で外に出た。

「初めまして、古谷さん?でしたよね、失礼しました。わたくしはてっきり夜川さんという方がお越し下さるとばかり」

 忠嗣が早口で捲し上げると梓は被り振り、改める。

「工藤様、本日は夜川を代行して私、古谷が担当させて頂きます。さっそくですが、先程の方が志願者の早乙女様でよろしいでしょうか?」

「ええ、実は事情がございまして…」

 忠嗣はワザとらしく深刻な表情を浮かばせて言う。

「実はわたくし、早乙女家の執事として働かせて頂いております。しかし、先月旦那様が亡くなられてから、れい様が随分とショックを受けてしまい、わたくしもどうしたら良いものかと…そしたられい様は、それならいっそのこと…と仰られたもので…」

 忠嗣は目を瞑り、小さく被りを振った。咄嗟とはいえ、よくこんな馬鹿らしい大嘘が思い付けたものかと自分自身に妙な身震いを覚えた。

 しかし一方、梓は特に訝しむ様子を見せずに質問する。

「お止めにはならなかったのですか?」

「もちろん止めようかと思いました。しかし、旦那様の生前の言葉を思い出し踏み止まりまして、絶対に早乙女家の要望は聞き入れろ、との事でして。やはりわたくしからはどうとも…」

「でしたら奥様は?」

 梓はまた質問を繰り出す。

「奥様と旦那様はとうの昔に絶縁されていまして、なんでも、れい様をお生みになられてから旦那様は奥様を怪訝に思ったらしくー」

「あばばばば」

「ん?今なにか仰いましたか?」

「いえ、そうしましたら準備の方整えて参りますので今暫くお待ち下さい」

 そう言って梓は踵を返し『実行部屋』の方へ向かった。忠嗣は首を傾げ、梓の後についていく。

 ーー

「ここで行って頂きます」

 そう言って梓は部屋のベッドを見せて忠嗣に言う。そしてベッドの隣に備え付けられた点滴とボタンに指を差して、この点滴とボタンを押せばすぐに終わります、と言った。

「ほぉ…」

 忠嗣は梓の淡々とした説明を人差し指と親指を顎に触れて聞き入る。

「一応ご確認なのですが宜しいですか?」

「はい。なんでしょう?」

「早乙女様、ご本人様は今回の件、ご承諾済みですか?」

 梓の丁寧な言葉遣いに忠嗣はやや間を空け、はい、もちろんです、と答えた。

「それでは私の方から早乙女様をお連れ致します」

 梓はそう言って部屋を出ようとする。しかし、忠嗣は咄嗟に梓の腕を掴んだ。恐らく忠嗣にとっては都合が良くないから。つい力んでしまい握った腕を咄嗟に放す。

「申し訳ない…」

 忠嗣はそう言い、手を後ろに回し頭を下げる。

「どうかなさいました?」

 それでも冷静に対応する梓を見て忠嗣はなにやら不信感を覚えた。

 さてはこの女、真相を知っているのか、それとも業務に徹底してるだけか。忠嗣は恐れながらそう思い梓を訝しむように見る。

「いえ、実はれい様には、まだ心の準備が出来ていなくてですね…」

 忠嗣は自分で言っていても怪しいと思いながらボソボソと梓に言う。

「心の準備…ですか」

「ええ…」

 梓の顔を直視せずに忠嗣は目線を落としそう言う。

「かしこまりました。では今一度、早乙女様と志願者部屋で話し合いを行って下さい。私は事務室におりますので終わり次第、お声掛け下さい」

 梓はそう言ってスラりと身を翻して事務室に向かう。

 ーー

 大丈夫。なにも心配ない。俺が知る限りでは、まだ世間にも公開されてないはず…もし知っていたとしても俺のアリバイが崩れる恐れもない。

 忠嗣はそう自分に言い聞かせながら志願者部屋に戻ろうとする。しかしその途端、ズボンの左ポケットが震える。

 着信は会社からー

「工藤さん。大変です…社長が…」

 そう口にする鈴村は姿を見るまでもなく焦っていた。忠嗣は、どうしたんだ?、と白々しく聞く。

「社長が、亡くなりました…」

 その言葉を聞いた途端、忠嗣は安堵した。まず、しっかりと死亡していた事。それに、出来るだけ早く見つかるように忠嗣は事前に家の鍵を開けておいた。その方が死亡推定時間が正確に割り出せると踏んでいたから。

 そして忠嗣は聞く。

「社長が…いつ…?」

「はい。見つかったのは先程なんですが、亡くなった時間まではまだ…」

「そうか…今日は用があるから明日、会社に顔を出すよ」

 忠嗣はそう言って電話を切り、れいの元へ戻る。

 あの時、俺は確かにリモートだが会議に出席していた。でも会議と言っても、実際は俺の企画を発表するだけのもの、ようは形だけの会議、なので俺はその時間、その内容を事前に録画した映像を流しただけで実際は殺人現場に居た。そしてその映像履歴もしっかりと削除した。だからアリバイは確実の筈、しかし、後は…後はコイツをどうするか…どう説得するか…

 忠嗣はれいを目視し、あらゆる方法を模索する。妙な静寂が部屋全体に広がる。忠嗣は息が詰まる思いで、ゆっくりとれいに囁くように言葉をかける。

「ねぇ、れいちゃんお父さんとは仲がよかったのかい?」

 ……?俺は一体何を聞いてるんだ。

「…どうしてですか?」

 れいは忠嗣を見据え答える。その表情は恐らく忠嗣に初めて見せる表情であった。どこか複雑な面持ち、どこか意表を突かれたように忠嗣には写り、れいは、はぁ、と溜息と共に被りを振った。

「れいちゃん…いや、君はそれでいいのかい?」

 忠嗣は声のトーンを落とし、静かに問いかけた。

「"それ"と言うのは?」

 当然だが、れいは忠嗣の意図がわからず首を傾げる。

「君は、この状況を妙だと思わないのかい?」

 すると、れいは少し時間をかけて忠嗣のトーンに合わせ答える。

「はい。普通は思います。私は今、アナタが本当は誰で、何の目的があって私がここに連れて来られたかって一般の子供ならそう思うでしょう」

 初めてまともにれいの声を聞いた。しかし、その声はとても子供とは思えない程、落ち着いた口調だった。忠嗣は少し怯み息を呑む。

「普通?一般?…わからないな…君はそれらとは別の意思を持っていると?」

「さぁ、私はどうでもいいんです。全て」

 そう言いながら、れいは忠嗣に少しずつ歩み寄る。忠嗣はなんだかその光景が奇妙に感じ、思わず退けぞる。

「ど、どういう事だ?」

「アナタは私が何も知らないとでも思っているんでしょうが、私は知ってますよ」

 れいは眼球を一切動かさず忠嗣の視線を捉え、どんどん忠嗣に歩み寄る。

「アナタ、私のお父さんを殺しましたね?」

 れいの直球な質問に忠嗣の心臓は弓で撃ち抜かれたように止まる。

「でもアナタはもしかしたらその現場を私に目撃されたと思い、私の存在を消そうとしてますね。でも今、アナタはその感情とは矛盾した思いが過ぎっている。それは罪悪感ですね。お父さんとは違い、私自身には何の恨みもないから、それで心に躊躇が生まれている。違いますか?」

 れいの唐突な雄弁さに忠嗣は押し黙ってしまう。

「でも、大丈夫ですよ。私はそれでも」

 れいは歩み寄るのをやめ、踵を返しながらベッドへ戻り、ベッドの先端に座りなおす。

 忠嗣は困惑した表情でれいに問う。

「やっぱり見ていたのか…いや、じゃあなぜー」

「あ、さっきの質問がまだでしたね。私とお父さんの仲には何もありませんでした。だからお父さんがこの世から居なくなろうが私にはどうでもいいです」

 忠嗣は不審に思う。明らかに変貌するれいの雰囲気は、まるで誰かに取り憑かれたかのように感じたから。それでも忠嗣はれいに問う。

「君は、君自身はどうなんだ…?」

「私ですか?ですから先程も言ったように私自身もどうでもいいのです。だからアナタが思うようにして下さい」

 そう言うと、れいは徐に立ち上がり忠嗣をこの部屋のドアへ促す。

「さぁ、あの人が待っています。これ以上会話する必要はないでしょう。行きましょう」

 れいの言動に抗う事が出来ない。いや、抗うメリットがなかったと言うべきか…俺は言われるがまま、れいと共に外へ出て事務室へ向かう。

 ーー

 忠嗣は事務室のドアをノックする。

 梓が中から出て来て言う。

「早かったですね。心の準備は出来ましたか?」

「ええ…そうですね」

 忠嗣は不自然にそう言って不自然に目を泳がせた。

「そうですか、では参りましょうか」

 梓は言うと、実行部屋へ手を差し伸べ、忠嗣とれいを促す。れいはまた、こくりと頷き忠嗣を見る。忠嗣は一瞬れいと目を合わせ、すぐ逸らす。無言で差し伸べされた実行部屋へ二人で向かう。

 その様子を梓は眺め、咄嗟に言葉が出てしまう。

「あ…あの!」

 忠嗣とれいは同時に梓を見る。

「どうかなさいましたか?」と忠嗣。

「あ、いえ…参りましょう」

 梓はどこか動揺しながら再び二人を促す。

 忠嗣は首を傾げ実行部屋へ、れいと向かう。梓はその後をつける。

 三人は実行部屋の前で立ち止まり、梓が二人に向け言葉を放つ。

「ここから先は早乙女様のみでお願いします」

「どういう事ですか?」

 梓は不審に思った忠嗣を見て説明する。

「今回、志願を下さった方は早乙女様です。なのでこの部屋に入れるのは早乙女様のみとなります。それがこの村のルールです。たとえ傍観者の方であっても、です。申し訳ございません」

 梓はそう言って頭を下げた。

 どうする?口を挟むか…いや、それでは不自然か…いやいや、そんな事考えて戸惑っている今が一番不自然だ…

 そう考える忠嗣は咄嗟に、わかりました、と言ってしまった。

「それでは早乙女様、中へ」

 れいは梓に促され、忠嗣は実行部屋に入る二人を呆然と眺める。

 ーー

 あれから十分経たないぐらいだろうか、実行部屋から梓が出てきた。

「工藤様、お待たせ致しました。無事終わりました」

 梓がそう言うと忠嗣は、それはそれは…、と深くお辞儀をした。

「工藤様、一応ご確認の為、中へ」

 部屋に手を差し伸べ、梓は忠嗣を誘う。

「わかりました」

 忠嗣はゆっくりと部屋の扉を開ける。そして中へ入る。れいの身に余り過ぎる程、大きなベッドの中で毛布が膨れていた。顔が位置する部分に白い布が覆い被されていた。

「さぁ、近くでどうぞ」

 梓は目を瞑りそう言う。忠嗣は言われるがままゆっくりとれいに近づく。そして思った。

 終わったのか…?本当に…?こんな簡単に…?これで俺のアリバイに隙はなくなった。でも…本当にこれで…

 忠嗣は安堵の表情を浮かばせると同時に別の感情が生まれる。それは、れい自身が言っていた罪悪感で間違いなかった。忠嗣は自分の欲望のまま、早乙女善逸を殺した。しかし、それだけではない。実質、忠嗣が殺したのは二人、一人は殺意の根源となる男、そしてもう一人は何の罪もないまだ幼い少女。忠嗣はその尊い命にさえ手をかけてしまった。後悔してる?と問われれば決して頷かないだろう。しかし、喜んで被りを振る事は決して出来ないだろう。

 忠嗣はそう思いながら白い布を剥がそうと手をかける。

「な…」

 布を剥がすと声にならない声を上げた。そこにはれいが居なかったから。ただ、丁度れいと背丈が同じのクッションが入れられていた。

「どういう事だ!?」

 焦りながら忠嗣は梓の方に目をやる。しかし、忠嗣から見える光景は息が詰まる思いだった。梓がれいと共に部屋を出ようとしている。そして梓は忠嗣を睨みつけ、素早く扉を閉めた。

 ーー

「ありがとうございます」

 れいは梓にお辞儀をしながら淡々と言う。

「早乙女さ…いえ、れいちゃん。どういう状況なの?」

 梓は深妙な面持ちでれいに問う。

「あの人は私の父を殺めた人です」

「人殺し…?」

 梓が小さな声でそう囁くとれいはゆっくりと頷く。

「そう…大変だったね。怖かったよね。でもね、れいちゃん?"アレ"は違うよ」

 梓はれいの手を優しく持ち、指を動かす。中指から小指を揃わせて親指を掌に乗せ、そのまま親指を包み込むようにして他の四指を曲げた。

「さっき実行部屋に行く時、背中でこの形を作ろうとしたでしょ?でもね、れいちゃんは親指を中に仕舞ってなかったよ。正式にはこの形がSOSサインだよ」

 梓は朗らかにそう教えると、れいは、ごめんなさい、と頭を下げた。

「ううん。よく知ってたね。でも、これからは知らない人について行ったら駄目だからね」

 れいがこくりと頷くと、梓は初めてれいに笑顔を見せた。

「さ、じゃあ私の車に乗って。あの人は後で私から通報しとくよ」

 れいは梓の言う通りに車の後部座席に乗り、村を出た。

 ーー

 暗く、人気がない山道は険しく車を揺れ動かす。梓はとりあえず街に出ようと慎重に車を走らせていた。定期的にルームミラーでれいを覗く、長く可憐な前髪で目を隠しながら外の暗闇を眺めていた。

 しかし、山道を抜け、暫くしてから、れいの唇から声が漏れた。

「あと五分ですね」

 梓はその言葉を聞き、背筋に悪寒が走った。ルームミラーを覗くと、れいもルームミラー越しにこちらを覗いていた。そして梓は強張った表情でれいに問う。

「れいちゃん…なにが五分なの…?」

「前…見て運転しないと危険ですよ」

 れいはそう言いながらくすくすと笑っていた。街の灯りに照らされたれいの表情はどこか不気味に視える。

「れいちゃん…だよね?」

「あっ残り四分になりましたよ」

 れいは質問に答えず、またくすくすと笑う。

「なにが…?」

「"なに"ってアナタも体験したでしょ?あの部屋の仕組み」

 梓はその言葉と共に思い出す。あの惨劇を、あの絶望的な苦しみを。そして息が詰まった鈍い声で囁く。

「まさか…」

 すると、れいは甲高い声を上げ、揚々と笑い始めた。

「あははははははははっ!ああ…工藤さんは古谷さんのようにあのカラクリに気付くでしょうかね〜」

 もはや、その声は先程のれいの声ではなく、どこか大人びた雰囲気を醸し出していた。

「……どういうこと…?」

「ああ…いえ…そもそもですね『早乙女れい』という人物はこの世に存在していません。全てこの子の父親?である『早乙女善逸』の妄想の存在です。実際はこの人に家族なんて居ないのですから」

 すらすらと言葉を並べる、れい?に梓は戸惑い言葉が出ない。

「さぁ、どうでしたでしょうか古谷さん、ちゃんも私の見方を理解して頂けましたでしょうか?それとも今はそれどころじゃないでしょうかね?」

 そして、彼女が梓の耳元まで顔を近づけて言葉を放つ。

「では古谷さん、またご連絡させて頂きますね。それでは」

 そう言うと、彼女は後部座席から姿を消した。ルームミラーで見ても、肉眼で見ても、彼女の姿は跡形もなく消え去っていた。

 ーー

 

『エピローグ』

 私は急な展開に理解が追いつかない。心を落ち着かそうと路肩に車を止めた。

 先程の人物…そして今まで私をあの村に導いた人物、恐らく同一人物と考えていいだろうか…?

 そう考えると…一応説明がつく…?いや、そもそも『早乙女れい』が特定の人物の妄想だとしたら、なぜ私に見えたの?ああ…そう考えるとなぜ工藤にも見えていたのか…

 いやいや、そんな事よりも私は聞くべき事を一切聞けなかった。あの状況…どう聞けば、なにを聞けば、なにから聞けばよかったのか…それすらわからないが…

 あの時、指定された時間に事務室に向かうとPCに指示が表示されていた。

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『古谷 梓』様

今回もお越し頂き、ありがとうございます。

さて、今回の指示なのですが、まずこれから来る人物には丁寧にお話下さい。そして、その人物には決して実行の理由を聞かないで下さい。それから、実行中、実行が完了するまで実行部屋にアナタを除く志願者以外の方を入れないで下さい。それがこの村のルールです。

それから、あと一つ、これは私からのアドバイスです。

今回の志願者『早乙女 れい』様に注意を向けて下さい。

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 私はアドバイス通り、ずっと志願者に意識を向けていた。その結果、SOSのサインに気づき、あの子を入り口付近に隠し、ベッドに細工をした。

 あの時はどっちだったのか?本人だったのか?いや、『早乙女れい』という人物はそもそも存在しないと言っていた。それは人物そのものの事を言っているのか、それとも『早乙女れい』という名前が存在しないと言っているのか、そうすると、あの女の子自体は存在するのか?

 それも聞きたい事の一つだった。しかし、私は逃してしまった。今、恐怖よりもその感情の方が強かった。

 そして、これだけはハッキリとしていた。

 『夜川茜』という人物は確実に存在する。恐らくまた、彼女と会う事になるだろう。その時は、出来れば私から彼女に辿り着きたい…

 

 〜自殺村season2(完)〜

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