短編2
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ちりめん柄の着物の女

ねぇ、ママ

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ベンチに座る私の元に一人娘のミユが駆け寄り、声をかけてきた。

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それは日曜日の夕暮れ時のこと。

昼過ぎにいつものスーパーで買い物を終え、娘を遊ばせるため立ち寄った公園でのことだった。

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「どうしたの?ミユ」

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紅葉の葉っぱのような小さな手を握り、私は無垢な瞳に問いかける。

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「あのね、、、」

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何故か不安げな表情で一言呟き、娘は私の手を引っ張る。

しょうがないので立ち上がると、小さな背中につき従って歩き始めた。

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砂場、ブランコ、鉄棒、、、その日の役目を終えた遊具たちを横目に、朱色に染まる公園の真ん中を小さな背中は真っ直ぐ進む。

そして園の奥まったところにある林の中に分け入ると、小さな案内人はさらにどんどん進んでいった。

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─いったい、この先に何があるというの?

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一抹の不安を胸に抱きながら薄暗い林の中をさらに進んだところで突然、ミユは立ち止まった。

私たちの正面には一本の木が立っている。

すると小さな人差し指で、ある一点を指差した。

わけが分からず私は、その先に視線を移す。

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ぞわりと背中に冷たい何かが走った。

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そこは正面にある木の幹部分。

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右端に一枚の白い紙が、一本のまち針に刺されて貼られている。

中央には毛筆で次のように書かれていた。

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『○○先生、永遠に恨みます』

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─誰がこんなことを、、、

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思いながら、恐る恐る紙に触ろうとした時だ。

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いきなり洋服の裾をミユが引っ張る。

どうしたの?と顔を見ると、不安げな表情で首を振りながら相変わらず一点を指差している。

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─え、これじゃないの?

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私は混乱した頭で今度は木の向こう側に視線を移した。

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そこには曲がりくねった遊歩道があり、途中に古ぼけた街灯がポツンと一つ立っており、柔らかな灯りを放っていた。

そして街灯の背後にある一際大きな木の下に、ぼんやり人の姿が見える。

よく見るとそれは日本髪を結った着物を着た女で、白い顔をこちらに向けて立っているようだった。

微かにだが、チリリン、チリリンと耳障りの良い鈴の音が聞こえてくる。

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─あんな所で何をしているんだろう?

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奇妙なのは、女はまるで陽炎のように微妙に左右に動いているように見えた。

私は磁石に引かれるように数歩歩き、遊歩道まで進むと、そこで新たに目を凝らす。

そして完全にその光景を理解した後、

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全身が凍りついた。

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ちりめん柄の着物姿の女が、巨木の太枝に赤い帯を通して首を吊っていた。

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両手をだらりと垂らし、僅かに傾けた白い顔をこちらに向けたまま、微かにユラリユラリと左右に揺れている。

そして揺れる度に、日本髪に刺した簪の小さな鈴がチリリン、チリリンと悲しげに鳴っていた。

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fin

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Presented by Nekojiro

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