【Over Noise】file 03-怪異持ち

中編4
  • 表示切替
  • 使い方

【Over Noise】file 03-怪異持ち

「単刀直入過ぎたかな。つまり、君をスカウトしたいんだ」

 それは分かっている。

 だが、何もできないオレをスカウトしたところで、神原さんに何のメリットがあるのだろうか?

「……オレ、何の力も無いっすよ?」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」

 意味深な神原さんの返しに、オレは首を傾げる。

「……どーゆうことっすか?」

「柑奈さんの報告が気になってね。

何故あのノイズ……幽霊がクラスB以下になっていたのか。

調査から除霊までの間、結界の中でそれに干渉しているのは、恐らく君だけなんだよ」

 分からない。

 オレがあの幽霊に何かをしたというのか?

 そもそも、オレにはそんな力も無ければ、霊感なんてものもない。

 一体どうやって幽霊を弱らせたのか、オレが知りたいぐらいである。

「紫園君、あの幽霊に何かしたよね? 例えば、殴ったり蹴ったりとか」

 考え込むオレに、神原さんそう尋ねてきた。

 優しい口調だが、どこか期待のようなものを感じる声色だ。

 思い返してみれば、確かに水中へと引き摺り込まれた際、水の手を蹴り落としていた。

「……蹴りました」

「やっぱりね。考えてみれば、おかしい事ばかりなんだ。

君に力が無いのなら、なぜあの結界内に入れたのか。

霊感のある人が時々迷い込んでしまう事はあるけど、それも霊感がなければ不可能。それに……」

 不意に入口の扉が開き、ドアベルの音が店内に響く。

 柑奈さんだった。

「柑奈さん、丁度いいところに来てくれたね。ちょっと飯綱(いづな)を出してくれるかな?」

「え? あ、はい」

 唐突な神原さんの頼みに、柑奈さんは若干驚いてから直ぐに返事をした。

「イヅナ!」

 柑奈さんがそう言葉を発した直後、彼女の周りに三匹の小さな獣が突然現れた。

 イヅナとは、管狐とか呼ばれるあの飯綱なのか?

 確かに、現れた三匹の獣は狐のような姿をしている。

「やっぱり、紫園君にも見えるんだね」

 神原さんの一言で、オレは自分の見ているものが妖怪の類であることに気付く。

「管狐はね、普通の人には見えないんだよ。それこそ霊感のある人か、“怪異持ち”以外はね」

 神原さんの方に顔を戻すと、彼の表情は僅かに笑っていた。

 “怪異持ち”とは何のことだろうか?

 オレにもそんな力があるのか?

 17年生きてきて、それを感じた事は一度もなかったというのに……。

「事情は通信人形で把握済みです。所長が先走るので、紫園君にはまだ詳しく説明出来ていませんでしたね」

 柑奈さんはそう言うと、オレの隣の席に腰掛けた。

「私達は、先程のような幽霊のことを『ノイズ』と呼んでいます。

ノイズにはそれぞれ危険度のクラスがあり、クラスC以下からクラスA、最も危険なものでクラスSがあります。

そのクラスを決めるのは調査班の皆さんなのですが、そちらはまた後ほど紹介しますね」

 ノイズ、クラスC……柑奈さん達が河岸で話していた事が、漸く理解できた。

 つまり、あのノイズはオレが蹴って弱くなっていたという事なのだろう。

 どのような理由でそうなったかは分からないが……。

「それと、“怪異持ち”についても説明しておきます。

怪異持ちとは、いわゆる超能力者のようなものです。

怪異持ちにも様々な能力がありますが、私の怪異は『狐憑き』、真城君のは『心霊現象』と言います。

真城君の力については、念力と言った方が分かりやすそうですね」

 狐憑きに念力……真城が水の中からオレを引き上げた時、オレの身体が僅かに浮いた感覚がしたのは、奴が自分の“怪異”を使っていたからだろう。

「な、なるほど……え、じゃあつまり、オレも怪異持ちってことっすか?」

 オレの問いに、神原さんが少し考えてから口を開く。

「まだ、どのような怪異なのかは断定できない。それに、君がこれまで自分の力に気付かなかったという事は、ノイズさえも見えていなかったという事なんだよね?」

 その通りだ。

 オレはこれまで、幽霊の類を一度も見たことがなかった。

 それでいて、何故突然見えるようになったのか。

 自分の事が分からないというのは、こんなにも恐ろしい事なのか……。

 そんなオレの不安が伝わったのか、神原さんは優しげな表情で話を続けた。

「我々も君の生活に加えて、君の持つ怪異の正体を明かすために協力する。それで、納得してもらえるかな?」

 路頭に迷っていたオレにとって、これ以上に良い話は無い。

 生活を助けてもらえるなら、オレはこの人達に協力する。

「はい!」

「うん、これからよろしくね」

 オレの返事を聞いた神原さんの顔は相変わらず優しいものだったが、最後に小さな声で、独り言のようにこう呟いた。

「後天的に目覚めたものか、或いはそれを抑圧するような何かがあったか……」

 学のないオレに、その意味を深く理解する事は難しかった。

Concrete
コメント怖い
0
2
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ