短編1
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投身自殺

 これは、ある雑誌記者が体験した話である。

 その記者は自殺の名所として有名な崖の写真を撮りに出かけた。夏の心霊特集に載せる写真を撮るためだった。その崖は心霊スポットとして有名で、近くで写真を撮ると、自殺した人間の霊が写り込むという噂がある。

 記者は目当ての崖がある森の中を進んだ。

 しばらく歩いていると、梢の間から崖の上部がちょうど見える場所に来た。

 目的地までもう少しだと思いながらその風景を眺めていると、崖の上に誰かが立っているのを見つけた。

 髪の長さからして、おそらく女である。

 女は一人で、崖の上をウロウロ歩いていた。崖の下をのぞいては後ずさりし、また崖際に近づくということを繰り返している。

 飛び降りようとしているに違いない。そう思った記者は、女を止める方法を必死で考えた。

 今から急いで崖の上に登って行ったとして間に合うだろうか。そんなことをするより、ここから大声を出して彼女を説得するほうがよいのではないか。しかし、こんな遠くから声がとどくだろうか。仮にとどいたとしても、彼女を無駄に刺激してしまうのではないだろうか。

 記者が半ばパニックになりながら考えを巡らせていると、女は決心がついたのか、立ち止まることなく崖際まで歩き、そのまま飛び降りた。

 その瞬間、女の絶叫が辺りに響いた。

「なんで、なんで、いやあああああああああ」

Concrete
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