これは、ある雑誌記者が体験した話である。
その記者は自殺の名所として有名な崖の写真を撮りに出かけた。夏の心霊特集に載せる写真を撮るためだった。その崖は心霊スポットとして有名で、近くで写真を撮ると、自殺した人間の霊が写り込むという噂がある。
記者は目当ての崖がある森の中を進んだ。
しばらく歩いていると、梢の間から崖の上部がちょうど見える場所に来た。
目的地までもう少しだと思いながらその風景を眺めていると、崖の上に誰かが立っているのを見つけた。
髪の長さからして、おそらく女である。
女は一人で、崖の上をウロウロ歩いていた。崖の下をのぞいては後ずさりし、また崖際に近づくということを繰り返している。
飛び降りようとしているに違いない。そう思った記者は、女を止める方法を必死で考えた。
今から急いで崖の上に登って行ったとして間に合うだろうか。そんなことをするより、ここから大声を出して彼女を説得するほうがよいのではないか。しかし、こんな遠くから声がとどくだろうか。仮にとどいたとしても、彼女を無駄に刺激してしまうのではないだろうか。
記者が半ばパニックになりながら考えを巡らせていると、女は決心がついたのか、立ち止まることなく崖際まで歩き、そのまま飛び降りた。
その瞬間、女の絶叫が辺りに響いた。
「なんで、なんで、いやあああああああああ」
作者スナタナオキ
解説は不要かもしれませんが、一応書かせていただきます。
最後、女は自分の意志で飛び降りたのではなく、そこで死んだ幽霊に取り憑かれて飛び降りた、ということです。