私には変わった友人が多い。
なぜか、私のまわりには一風変わった連中があつまるようで、話
題に事欠かない。
この話は数年前に飲み屋で知り合った自称:脚本家の友人が話し
てくれたこと。
あまり売れているとは言えない友人で、教えられたDVDなど見
ると売れなさそうな作品にペンネームが載っている、そんな彼があ
まりに真剣に話してくれたので、ここに載せてみようと思った。
何か大変なことになっては困るので。
彼は東京駅を利用することが多いわけだけど、東京駅には噂があ
るそうで、“ 落ちているハンカチを拾ってはならない ”そうだ
。
彼も 「 ? 」 な内容で、それがどういうことなのかよくわ
からなかったらしい。ただ業界の、風のうわさというか、何かで耳
にしていた。
脚本家というは、ただ書けばいいというものでは無いらしく、彼
のような立場の人は、積極的の持ち込みなんかもするそうで、本業
は持ち込みだ、なんていうぐらい、外を出歩くことも多かった。
東京駅で、エスカレーターに乗っていて、脇を見ると、ハンカチ
が落ちている。
長いエスカレーターが数本、上へ下へと乗客を乗せているその間
、銀色の滑り台というか、もちろん滑っていく不埒者(ふらちもの
)を止めるストッパーがついているんだけども、そこにハンカチが
落ちている。4つにきちんとたたんである、花柄の、どこにでもあ
るハンカチだ。
ああ、ハンカチがあるなぁ・・・
と彼はそう思った。
数日後、持ち込みをして断られての帰宅路、かなり落ち込んで電
車を待っているプラットホームで、ベンチに腰かけて頭をかかえて
下を見るとハンカチが落ちている。
4つにきちんとたたんである、花柄の、どこにでもあるハンカチ
だ。
ああ、ハンカチがあるなぁ・・・
と彼はそう思った。
ん?同じハンカチか?
誰にも拾われず、まだここにあるのか?
それから数日後、ちょうど昼食時なので、このまま電車を待つ間
、何か腹に入れるべぇと立ち食いソバを探した。よく利用するとこ
ろだ。その入り口、ドアの下を見ると・・・ハンカチが落ちている
。
何人かに踏まれたのだろう。それなりに汚れているが、あのハン
カチだ。
「・・・・・・」
そのハンカチを蹴って、するとハンカチは滑るようにフロアーを
移動して少し先で止まり・・・脚本家はソバ屋へ入った。
東京駅を利用している人たちの誰かが蹴ってどかしているから、
さまざまな場所に出没するわけで、なぜ誰も拾わないのだろう?
こうなると、意地のようになって、彼はハンカチを拾わなかった
そうだ。この頃になると、東京駅に行くと、知らずにハンカチを探
すようになり、ハンカチに逢わないとホッとするような、くやしい
ような、そんな気分になったそうです。
「なあ、あの話、“ 落ちているハンカチを拾ってはならない ”
っていうあの話さぁ ハンカチを拾った人はどうなるんだい?」
誰に聞いたか覚えていなかったので、心当たりの人に聞いても、
「 知らない 」「 さぁ? 」ばかりで、要領を得ない。
ついにある日、エスカレーターに片足を置いて手すりの向こう側
を見ると、誰も気付かないようなフロアーの片隅に、それが落ちて
いた。
それなりにボロボロになっているが、花柄のハンカチだった。
ハンカチというか、ボロボロになった布きれ、ゴミ箱へ捨てるゴ
ミだった。
置いた片足を戻し、後ろの人を押しのけて降りて、ハンカチの前
に立つ。
彼は、それをソーッと・・・半分ぐらいめくった。ゆっくりと持
ち上げた。
そこには・・・穴があった。
まん丸い、奥が見えない、真っ黒な穴が。
・・・ぜったいにおかしい。なんでこんなところに穴が!?東京
駅の手抜き工事か!?たまたまハンカチがその上に偶然置かれてい
ただけか?このハンカチは、私が見ていたハンカチとは別物なのか
?
だれもこちらに注意を払っていない。皆、忙しそうに通り過ぎる
だけ。
引き寄せられるように、彼は顔を近づけた。穴をのぞき込もうと
顔を近づけたその時
「おい、何か用か!?」
その穴から、ひょっこり小人が出てきたそうだ。
いや、ほんと、マジで。
とは言え、その小人は白雪姫などに出てくるような可愛らしい小
人ではなくて、一つ目の、頭に短い角が一つ出ているような、半裸
の、そういう小人だったそうだ。
その時、彼は思ったそうだ。
ああ・・・俺は憑かれたのかな・・・そう思った。
どうでも良いことだけど、バーで飲んでいる時、話の合間にポケ
ットからボロ雑巾のようなハンカチを取り出して、それで躊躇(ち
ゅうちょ)することなく顔の汗を拭く、だから最近の彼から目を離
せない。
怖い話投稿:ホラーテラー るすいさん
作者怖話