短編2
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いまだに不思議

もう十年以上も前、大学のサークル仲間と、四国の吉野川でキャンプした時の、怖いというよりは不思議な体験。

蝉がうるさい夏の日の午後だった。

吉野川に架かるつり橋の下、キャンプの設営を終えた俺たちは、ジュースでも買おうと石の階段を上がり、上の道路に出た。

一軒だけぽつんとある小さな店に入ると、中からおばさんが出てきて、不気味な事を言う。

「あんたら、浅く見えるけど、絶対川渡ったらあかんで、足引っ張られて溺れるけえ」

「ゲー!何に足引っ張られるんすか?」

誰ともなく聞いた。

「死霊さ、こん川には死霊がうようよいる」

「またまたー」

皆おばさんを見たが、ちっとも笑ってなかった。

「冗談じゃないでー、大の大人が何人も溺れて死んどる」

おばさんの目があまりにも真剣なんで、逆に可笑しくてみんな笑ってた。

「承知しました!」

俺がふざけて敬礼すると、おばさんは呆れたのか、今度は何も言わずに中に入って行った。

「死霊だってよ」

みんな笑いながら川べりにおりた。

「じゃあいっちょ挑戦してみっかね」

俺は死霊なんて信じてないし、川幅はあるけど浅そうだし、泳ぎには自信あるしで全く怖くなかった。

みんなが見守る中、サンダルで川に入った。

(足引っ張れるもんなら、引っ張ってみい)

俺は余裕で川の中ほどまで進んだ。

その時!

ズルっと足が滑った。

(ああ、これが原因かあ、引っ張られるんじゃなくて、苔で滑るんだ)

俺は流されながらも、そんな事を余裕で考えていた。

が、突然俺の身体は深みにはまってしまった。

下を見ると、深すぎて足が届きそうにない。

俺はかなり焦って、川岸目指してひたすら手足を動かした。

ようやく浅くなり足をついた時には、いつの間にかみんなが俺を囲んでいた。

「あせったー」

俺は立ち上がり、多少笑いながら言ったのだが、みんな何故か顔面蒼白だ。

「焦ったのはこっちだぜー突然姿消すしー」

友人らが言うには、俺が滑って川ん中に倒れた瞬間から姿が全く見えなくなったとか。

どこに行ったか捜していると突然目の前に現れたんだと口々に言う。

俺も不思議だった。

かなり流されたと思ってたのに、川を渡り始めた場所から、ほんの十メートル程しか、流されていないのだ。

さらに不思議な事には、深みにはまったと思っていたのに、深そうな所がどこを見てもないのだった。

最近テレビで、川で溺れて死んだというニュースをよく耳にするが、俺のような目に遭った人が中にはいるんじゃなかろうか?と、つい考えてしまう。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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