『覚えているのでしょう?』
男は毎夜この声に魘される。
何故かは分からない。
覚えているのは、
月。
桜。
石榴。
これらがなんなのかは分からない。
次の日も男には、あの声が聞こえる。
気分を変えるために、散歩に出かけた。
公園に着くと桜の木が見える。
綺麗ね〜綺麗ね〜と周りの人間は褒め称える。
綺麗?
違う。
あの時の桜の木は、もっともっともっともっともっと綺麗だった。
いくつもの月が犇めき、見事な桜を散らしていた。
あ〜石榴が恋しい…。
石榴にナイフを突き立てる。
『覚えているのでしょう?』
覚えているさ。
ふいに、涙が頬を伝う。
ああ、今宵は特に月が綺麗だね。
桜の木に突き刺さる幾つもの紅月を見ながら男は美徳に酔いしれる。
紅月からは桜がシトシトと零れていた。
※元ネタあり
怖い話投稿:ホラーテラー かかさん
作者怖話