【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

長編8
  • 表示切替
  • 使い方

おじいさんの入れ歯

オレが昔、中学生の頃に体験した話をしたいと思う。

かなり乱文だから、それを承知で読んでもらいたい。

当時オレが住んでいた町には、地元じゃ有名な老人ホームがあった。

その老人ホームには、言わばボケが酷い高齢者が多く、そこにくる老人は皆家族に見離された人たちばかりであった。

おそらくその老人ホームの人であろう一人のおじいさんがいる。

その方もボケがかなり進行しているらしく、勝手に施設から出てくるのか、訳も分からず一人で出てくるのかは分からない。

ただ、そのおじいさんはいつも

「入れ歯どこにいったのかな?入れ歯…」

と、ぶつぶつ言いながら入れ歯を探している。

おじいさんは、背が低く痩せていて、髪は真っ白の短髪。

顔に高齢者特有の黒い斑点がある。

そんな「入れ歯じいさん」は、しょっちゅう入れ歯を探しながら、昼夜問わず出歩いていた。

施設の方がたびたびおじいさんを捜しているとこも見たことがある。

オレ的にそこまで興味はなかったが、介護士という仕事は本当に辛いことは、施設の方を見るたんびに思っていた。

そんなある日。

学校の帰り道オレは友人のAと近くの公園に寄り道して、他愛のないことでダベっていた。

するとそこに、あのおじいさんが入れ歯を探しにやってきたのだ。

Aも「入れ歯じいさん」の噂は知っていたが、生で見るのは初めてらしく、おじいさんの入れ歯を探す独り言に爆笑していた。

Aは面白がっておじいさんをからかいに行った。

「よーじいさん。入れ歯探してんのかよ?」

「そうなんだよ。どこか知らないかね」

「知ってるぜ!オレが持ってるよ」

もちろんAは入れ歯なんて持っていない。

そんなAの冗談も、ボケている老人には関係ない。笑みを浮かべながら

「ほんとうか!助かった!それは大事な入れ歯でな」

そんな、純粋なおじいさんの気持ちを逆手に、なんとAはおじいさんから金をゆすり始めたのだ。

「え!お金取るのかい!悪いけど今手持ちがなくて」

「それなら駄目だ!返さない!」

「頼む!返しておくれ!大事なものなんですよ」

「それならオレを捕まえてみろ!」

おじいさんの足で、中学生の足にかなうはずがない。

おじいさんは転びながらも必死で取り返そうとしていた。

さすがのオレもAの態度に腹が立ち注意したのだが、それがAにはムカついたらしく、逆ギレしてきた。

そこから言い合いを続け、しまいにAは謝りもせずに帰ってしまった。

オレはおじいさんに頭を下げ何度も謝罪した。

しかし、おじいさんは再び「入れ歯…入れ歯…」と呟きながら、どこかへと歩いていった。

それから1週間ほどたったある日、Aが真剣な面持ちでオレに声をかけてきた。

「なぁ、どうしよう。あれから毎日、帰り道にあのじいさんが現れて『入れ歯を返してくれ』って言うんだよ。何回も違う道から帰るんだけど、必ずいるんだよ。どうしたらいい?」

「そんなのお前が悪いんじゃん。キチンと謝れよ」

「そうなんだけどさー。なんか怖くて」

「バカか。老人をからかうからだよ。オレは知らん」

Aにはちゃんと反省してほしかったし、自分から謝ってもらいたかった。

Aのためを思って素っ気ない態度を取ったのだが、それがまずかったのかもしれない。

次の日、Aが真っ青な顔で登校した。

さすがに危険な雰囲気を察知して、人のいない所にAを連れていき、Aに何があったのか尋ねた。

「昨日もさ、帰り道にあのおじいさんが現れたんだよ。もうたえきれなくて…それで、おじいさんを突き飛ばしちゃった。そしたら……お、起き上がらなくて………殺しちゃったのか………な?」

「まじかよ…そ、それで?」

「恐くて、逃げた…」

なんと、Aはおじいさんを殺してしまったのかもしれないのだ。

とにかく、A自身今にも倒れそうだったので、今日のとこは帰宅させ、後日老人ホームに行くことにした。

ところが、それからAが学校に顔を出さなくなった。

連絡もないまま1週間以上がたち、心配でいても立ってもならなくなった頃、1本の電話が鳴り響いた。

Aからだった。

すぐに来てほしいとのことである。

オレは一目散でAの自宅に向かった。

ところが、家から出てきたのはAではなかった。

いや、正確にはAだ。

しかし、以前のAの面影はなく、あまりにもやつれていたため、Aと認識するのにだいぶ時間がかかるほどだった。

Aは一人っ子で両親も共働きのため、夜までA一人ぼっちなのだ。

部屋に通され、つかさずオレはAに何があったのか訳を聞いた。

「あの日早退した日さ。家で怯えてたんだよ。そしたら……家に…ヒっ!」

そこまで話すとAは震えだした。

Aが落ち着くまで、しばらく時間かかかった。

「そしたら、家に…あのじいさんがやって来たんだよ。そして「返してくれ!!」ってずっと扉を叩くんだ。それから毎日…」

「でも生きてたんだろ!よかったじゃん!!どうにか施設の人に頼んで、施設から出さないようにすれば良いじゃん」

「うん。そうなんだけど、でも…恐くて。それで、そろそろ、じいさんが来る時間なんだよ」

「じゃぁ今日はオレもいるから一緒に謝ろう!本気で謝ればボケていたって分かってくれるよ」

「ありがとう…ほんとに…ありがとう」

Aは目から大粒の涙を流し、何度もオレに頭を下げた。

おじいさんの来る時間まであと少し。

気もちを落ち着かせ、何もしゃべらないまま10分が経過

ドンドンドンドン!!!!!

!!!???

けたたましく扉を叩く音が響きわたった。

「返せ!!!!!返してくれ!!!!いるんだろ…………返せッ!!!!」

明らかにいつものおじいさんの雰囲気ではない。

殺気だった、異常な声だ。

おじいさんに、こんな力があるのかと思うような、強い力で扉を叩く。

「キタっ!!!?……ヒーーッ」

Aの様子も明らかにおかしい。

オレはAをなだめて、一緒に玄関先まで連れて行った。

扉の向こうでは、一切止むことなくおじいさんが扉を叩き、声をあげている。

「返せー!!出てこい!!!!はやく!!!!!しゃっしゃっしゃ!!!」

もはや言葉ではない。

異常を通りこし、もはや恐ろしい叫び声である。

「まだか!!!!!!そこにいるのだろー!!!!」

オレも正直怖かった。

開けてはいけない気がした。

しかし開けなくてならない、そんな気もした。

嫌がるAを引っ張って、勢いよく扉を開けた。

「いない…」

さっきまでの音が嘘のように消え、目の前には何もいない。

「あれ?いない…Aいないよ」

「ア………ァ……」

背後からAの声にならない声が聞こえた。

ふりむくとそこにはAが…

そして見つめる視線の先、Aの背後にあのおじいさんが立っていた。

おじいさんは見た事もない形相でAを睨んでいる。

いつ、オレたちの背後に移動したのかは分からない。

ただ、分かるのは

この世のものではないということ。

痩せほそったおじいさんの体から滴る血。

真っ赤な目。

白髪の頭は血でべっとりだった。

Aはもはや声すら出ず、震えつづけている。

「入れ歯。返してくれ」

「な、ない!!!おじいさん勘弁してください!!」

オレはAを救うため、力の限り叫んだ。

しかし恐怖のためか、声がかすれてまともに出ない。

「A!!!お前が謝らないと!!!」

Aは恐怖で動けずにいたが、最後の力を出し叫んだ。

「ごめんなさい!!!嘘つきました!!!お、オレもってないです!!!!!ごめんなさい!!」

すると、おじいさんの顔から鋭さが消えた。

いつもの柔らかい顔に戻っている。

そして満面の笑みを浮かべた。

「た、たすかった!!許してくれたんだ!!A!!やった!!」

「許して…く、くれたの??」

そして、おじいさんが言った。

「入れ歯、見ーーつけた!」

そう言うとおじいさんは思いっきりAの口元に噛みついた。

「ギャーーーーー!!!!」

Aの必死に助けを求める手が、苦痛に歪む。

手を引っ張ったが、おじいさんは離れず、じょじょにAの目が白目をむく。

そして、完全にAの意識が飛ぶのと同じに、おじいさんがAから離れた。

笑みを浮かべたおじいさんはそのまま薄くなり、消えていった。

あまりの出来事にオレは倒れ込みながらしばし呆然としていた。

ふいにAのことを思い出し、Aにかけよった。

!!!???

あまりの衝撃に胃の内容物が込み上げてきた。

ぴくぴく動くAの目は白目をむき、顔が真っ白で倒れ込んでいた。

その白さとは対象的に、口元は真っ赤に染まりあがっていた。

「アハ……ハッハッハッ!!!!!!アーーーシャッシャッシャ!!!!!」

不意に意識を取りもどしたAだったが、意識がおかしくなっており、ひたすら笑っている。

その笑い方はまるで、あのおじいさんのようだった。

そして、笑い続けるAの口の中には歯が一本も生えていなかった。

それから病院に行ったAだったが、意識が正常になることはなかった。

しばらくしてからお見舞いに行ったが、Aはオレが誰かも分からず、口をパクパクしなているだけだった。

「歯が…オレの歯が……」

歯がないため、何を言ってるか聞き取りにくかったが、確かにAはそう言っていた。

体は痩せ細り、髪も抜け落ち、大量の白髪が生えてAの姿は、まさに、あの老人のようだった。

その後老人ホームに行く機会があり、あのおじいさんの事を聞いてみた。

なんでも、おじいさんは交通事故で病院に運ばれている最中に死んでしまったらしい。

Aがおじいさんを突き飛ばしたことは関係ないようだ。

しかし、救急車の中で息を引き取る際、最期に

「入れ歯…返して…」

と言ったそうだ。

おそらく、入れ歯への執着により成仏出来なかったのだろう。

だからAの家に何度も現れたのかもしれない。

げんに、おじいさんがAの家に現れる時間は、おじいさんの息を引き取った時間とびったり合うのだから。

後日談だが、あのおじいさんは、もともと入れ歯なんて無くしていなかったらしい。

いつも付けていた入れ歯は、おじいさんのお孫さんがプレゼントしてくれたものらしく、老人ホームに来てからは、めっきりその家族が来なくなったのだ。

ボケてしまっても、やはり心の中では家族の元に帰りたいという思いがあったのでしょう。

だから、おじいさんは入れ歯を探していたわけじゃなく、家族を探していたんじゃないかなと、オレはそう思っている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
0
2
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ