以前、少し触れた地元の派遣会社で業担をしていた時、従業員の部屋に幽霊が出た騒ぎ…その話をしてみようと思う。
前半はドタバタ、後半はシリアスです。
ある日の夕方。
残業確認も終わり、配車の手配も終わってのんびりしていた。
そこに通訳のHさん(KYのHさんとは別人です…念の為)が、「どうしたもんかねぇ~」と苦笑いしながらやって来た。
何故、通訳がいるかというと、私の派遣会社は日本人と日系ブラジル人の両方の従業員がいる為。
私「どうしたんですか?」
Hさん「いや夜勤者のE(日系人従業員)がさぁ…寮に幽霊が出たから、今日休むって言うんだよねぇ」
私「幽霊…ですか?困ったなぁ…リーダーにどう説明したらいいんだか…」
Hさん「そうなんだよねぇ~幽霊が出たから休みます、なんて言ったら、あいつクビになるよ」
二人して苦笑。
とりあえず、遅刻するとごまかしといて、放置も出来ないので問題の寮に行くことに。
私「しかし同居人がいれば家賃は半分になるけど…」
Hさん「幽霊じゃ給料無いから、半分にはならんわね。ははっ、Eも迷惑なことだぁ」
私もHさんもB型。
ウマが合うしノリも毒舌も共通。
当時は業担ではなく、責任者と言ったが、二人して「俺達は責任者じゃなくて、無責任者だから」なんて従業員に言ってた。
そのくせ行動力は凄いもんで、従業員からのクレームはほとんど無し。
会社の雰囲気も明るく、定着率も高かった。
私が長いこと勤められたのも、Hさんがいたから。
最初は通訳もいなくて、大変な思いをしたものだ。
閑話休題。
私「じゃあ、俺が夜勤者の出勤確認してから行くんで、HさんはEのとこ行って状況を聞いといて下さい」
Hさん「はいはい、じゃあヨロシクぅ~」
現場のリーダーには、とりあえず適当に遅刻する旨を伝えて夜勤者の出勤を確認した後、私はEの寮に向かった。
一応、塩と盛り塩をする為の容器を途中で買った。
Hさんに電話したらEは寮の近くのコンビニに避難していて、今保護して状況を聞いてるとのこと。
じゃあ寮に着いたらまた連絡しますわ、と言って到着。
すぐにHさんがEを乗せて来た。
Eの怯えようが尋常じゃない。
さて、本当に幽霊が出たのか、単なる勘違いなのか…。
Hさんから聞いた、Eに起きたこと。
夕方、起きてトイレに行こうと廊下の照明のスイッチを入れた。
すると、照明がカチカチと点いたり消えたりして、フッと消えた。
同時に、おじいさんの幽霊が現れた。
怖くなって、慌てて部屋を飛び出して逃げた。
そんなに怖かったのか?
しかしEは玄関から中には、入ろうとはしない。
よっぽど怖かったようだ。
問題の照明を点けてみる。
ちゃんと点く。
接触不良や、蛍光灯が切れかけているワケでもなさそう。
部屋に入ってみる。
綺麗にしてある。
と…、
パキッ…!
ラップ音がした。
あちゃー…いらっしゃいますわ。
しかし、Hさんは「見えない」普通の人。
しかも、悪気は無いけどお喋り。
本当のことを言ったら…。
翌日には、○○(私)さんは幽霊が見えてさぁ~…なんて従業員に話しまくるHさんの姿が、容易に想像が出来る。
…嫌過ぎる…。
消去!
私は、ハンガーにかけてあったEの作業着をとると、
「Hさん、俺、盛り塩しておくんで、Eを送ってもらえます?」
と言った。
Eには聞こえないように、
「気休めだけど、何もせんワケにもいかんでしょ。日本の幽霊を追い払う方法だから、と言っておいて下さい」
Hさんは、やれやれ…という感じで苦笑いして、
「分かりましたぁ~じゃあヨロシクっ!」
と言って、Eを送りに行った。
「飯は途中のコンビニで買わせるよ」
と言うHさんに、
「はい、頼んますわぁ」
と答えた。
車の音が去って行ったのを確認して、私はソレと向き合った。
おじいさんの幽霊。
悪い気配は無い。
正直、怖いが話し掛けてみた。
「おじいさん、何でここにいるの?」
すると、おじいさんは意外そうな表情になり、
「あんた、ワシが見えーかね(地元の方言入ってます)?」
と言った。
「姿も見えるし、言うことも聞こえますよ。で、何でここにいるの?」
と再度質問。
「見えるなら…あんたに頼みたいことがある…」
一緒にあの世に行ってくれ、とか言い出さないだろな…と警戒しつつ、
「出来ることならしますけん」
と答えた。
「それじゃあ…」
Eの部屋を出た後、私とおじいさん(の幽霊)は河原にいた。
夜の河原に、見知らぬおじいさん(しかも幽霊)と二人…シュールだ…。
しかし、おじいさんが頼みたいものがここにあると言うのだから、仕方ない。
で、ソレが河原の草を掻き分けて現れた。
真っ白な毛の子猫。
おじいさんが生前、捨てられていたのを可哀相に思い、連れて帰ったのだが、おじいさんの亡くなった後に遺族が捨ててしまったらしい。
子猫は、おじいさんの姿が見えるようで、ヨタヨタながらも鳴きながらおじいさんの足元に。
そして、おじいさんの足に擦り寄ろうとして…転んだ。
皮肉なことに、お互い姿が見えるのに触れ合うことは出来ないらしい。
子猫は、何度もおじいさんの足に擦り寄ろうとしては転ぶ。
一生懸命…そして、最後には悲痛な鳴き声をあげた。
おじいさんは、辛そうな顔をしている。
なんて辛い光景だろう…不覚にも、泣いてしまった…。
おじいさんは、
「この子を…頼む…」
と言って…消えてしまった…。
子猫は、必死におじいさんを探していた…。
さて…ウチでは飼ってやれない。
私は携帯を取り出した。
幸い、最初に電話した友人がアッサリと引き受けてくれた。
彼女の家は家族揃って猫好き、大事に育ててくれるはずだ。
帰ろうと車に乗ったら、
「すまんかったのぅ…」
「ギャーーーっ!」
いきなり、おじいさんが助手席に現れた。
「こら、じいさん!いきなり現れんな!心臓止まるかと思ったやんか!」
と怒鳴ると、
「おお、すまんすまん…」
怒鳴っておいてアレだが、謝るな、調子狂う…。
「これで良かったんでしょ?」
「ああ…これで思い残すことは何も無い…」
「たまには顔を見に行ってやりなよ」
と言うと、おじいさんはゆっくり首を横に振った。
「触れ合うことも出来ないのに、それは酷な話だよ…。まして、それじゃあワシもあの子も未練が残る…」
おじいさんは、寂しそうに笑うと、
「ありがとう、それじゃあ…」
と言い残して、消えていった。
それ以来、おじいさんの幽霊が現れることは無かった。
肝心のEだが、可哀相に幽霊を見たショックがよほど大きかったようで、しばらくして退職して他県に行ってしまった。
子猫は今も元気に、友人の家で暮らしているそうだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 元業担さん
作者怖話