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中編4
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さんまババァ

私は生まれた時から食べ物に関して好き嫌いがない。

そんな私にも一つだけ食べられないものがある。

それは「秋刀魚(さんま)」だ。

食わず嫌いというわけではない。

もともとは大好物であった。

それがある出来事を境に食べられなくなった。

その時の話をしたいと思う。

大学生の頃、私はコンビニでバイトしていた。

普通のコンビニの割りに、惣菜類がやたら多いコンビニである。

そのコンビニに通称「さんまババァ」と呼ばれる客がくる。

ピンクのでかい手さげを持ち、その中にはぎっしりと詰まった、何かが入っているビニール袋の数々。

背はかなり小柄で、150㎝前後。

必ずセサミストリートの絵柄のある黒い袋を着ている。

風貌や持ち物からすると、おそらくホームレスであろう。

そんなババァが、毎日必ず決まった時間に、必ず秋刀魚を買っていく。

生の秋刀魚ではなく、惣菜として売られている調理済みの秋刀魚だ。

コンビニの常連客も、ババァの姿を見ると嫌な顔したり、あるいは店から出て行く。

それは偏見という理由ではない。

このコンビニは、電子レンジがセルフサービスなので、お客が自由に使えるシステムだ。

それを良いことに、ババァは必ず秋刀魚を温める。

温めるというより、むしろ焼くにちかい。

すると、店内は一気に秋刀魚の匂いで充満する。

その匂いは秋の香りというより、鼻をつく悪臭だ。

そのせいで、常連客はババァの姿をみると悪臭が充満するということで嫌な顔をする。

私もその一人だ。

毎日毎日秋刀魚を真横で焼かれる私の気持ちも分かってもらいたい。

ある日とうとう耐え切れず、ババァに注意した。

「お客様。ここで魚を温めるられると、周りの方のご迷惑になりますので、やめて頂きますか?その後電子レンジをお使いになる方の商品にも、魚の匂いが着いてしまって苦情のもとになりますので」

「あ、そうですか?すいません。すいません。」

意外とすんなり承諾してもらえ、逆に拍子抜けした感じだった。

これで安心だと思っていた。

ところが次の日、再びババァが秋刀魚を買いにきた。

さすが焼かないだろうと思っていたが、なんと何くわぬ顔で焼き始めたのだ。

初めて人のことを心底バカだと思った。

私は再び注意した。

「すみませんが、昨日言いましたように、魚を焼かないでもらえますか?」

「なに?悪いの?ったく…」

昨日とはまるで態度がちがう。

一人でぶつぶつ呟きながらババァは帰っていった。

さらに次の日。

なんと再びババァが買いにきて、それを焼こうとしているのだ。

とうとう私も我慢が出来なくなり、

「あのー?秋刀魚を焼くなって昨日も言ったんすけど、なにしてんすか?いい加減迷惑なんでやめてもらえます??まじで」

するとババァも切れたのか反論してきた。

「なによ!客にむかってその態度!あんたらは客がいるから働けんのよ!」

「いやべつに、あんた一人いなくたって店は充分儲かってんすよ」

「なに!私がこんなだから差別してんでしょ!覚えておきなさい!許さないから!」

「覚えたくもないっす」

その後ババァは一人奇声をあげて店からでていった。

幸い、店には他にだれもおらず、店長もたまたま外にでていたため、大事にはならなかった。

それからというもの、ババァも店に現れなくなった。

私はババァからついに解放された気でいた。

しかし、それは間違いだった。

しばらくたったある日のバイトの帰り道。

いつもの道を歩いていると、ふいに悪臭がした。

それはまぎれもなく、あの秋刀魚の匂いであった。

どこかの家で焼いているのかと思い、あたりを見回した。

よく見ると、ちかくの公園で明かりがみえる。

それは街灯などではなく、火の明かり。

公園の横を通りすぎるとき、私ははっきりと見た。

あのババァが焚火をしている。

その焚火にあたりながら、ババァが何かを食っている。

まぎれもなく秋刀魚だった。

それもよく見るとババァの辺り一面に生の秋刀魚が転がっている。

その中でババァは素手で秋刀魚に食らいついき、踊っている。

さらには、生のためなのか、それとも腐っているからからなのか、秋刀魚の匂いではない。

何かを獣のような、そんな匂いだった。

私は見つからないように逃げるようにその場から立ち去った。

ところがこれだけではなかった。

次のバイトの時、私はいつものように着替えようと自分のロッカーを開けた。

そこには、腐った秋刀魚が放置されていた。

誰かのいたずらかと思い店の人間に聞くがわからずじまい。

その日はずっとブルーなきぶんだった。

その帰り道だ。

前方から誰かがやってくる。

一歩ずつ足を進めるにつれて、冷や汗が出るのがわかる。

なぜなら、前から歩いてくるのはあのババァだから。

ババァがはっきりと見えるまで近付いたとき、私は吐き気でその場に倒れそうになった。

なんとババァは、生の秋刀魚を頬張りながら歩いている。

口の周りは秋刀魚の血でべっとりだった。

その横を通りすぎるとき、ババァは俺に言った。

「焼くなっていうから、生で食べてるわ」

私はこれはまずいと思い、一目散に走った。

そのとき、走りだした瞬間なにか背中に当たった。

走りながら振りかえると、それはババアの頬張っていた秋刀魚だった。

やっとの思いで家のまえに着いたが、そこでとうとう耐えられず吐いてしまった。

家の前には、大量の秋刀魚が散乱していた。

それも、どれもこれも、何かで切り刻んだかのように無惨な姿だった。

私はそれから秋刀魚が食べられない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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