倒れた拍子に外れてしまったらしい。辺りを見渡すと手を伸ばせば何とか届くとこに落ちていた。
取ろうと手を伸ばすと…すぐに撃たれ反射的に手をひく。
相手は狙っていた。
自分の手で自決もできなく相手も殺れないこの状況。
最悪の手段…それは舌を噛みきること…
何の迷いもなく
目を瞑り
大きく口を開け
舌を出した時だった…
「おじちゃん、こっちだよ」
女の子の声がした。辺りを見回すと当然一般人などいることはなく空耳だと思った。
ここにきて頭がおかしくなったと少し笑った。
改めて再び舌を出すと今度は女性の声で、
「早くこちらへ!」
今度は間違いなくはっきり聞こえた。しかも少し強めの口調で。
右側から聞こえ真横を振り向くと誰もいなかった。
ただ15メートル先に小さい穴を見つけた。
じいちゃんはピンときた。
あれは間違いなく洞窟だと。
その洞窟は前の方が生い茂った形で分かりづらく、じいちゃんの角度から見てやっと判る位だった。
さっきの声はあそこからだったんだと自分なりに納得した。
じいちゃんは自分に言い聞かせた。逃げるのではなく助けに行くんだと。愛国感情抜きの一人の男として、人間の自然な行為だと。
そんな事を考えていると偶然にも「間」ができた。
じいちゃんは迷わず一気に走り出した。
敵は気付いてなかったのか、じいちゃんが洞窟の入り口に着いたと同時に一斉に撃ち始めた。
その洞窟は入り口が少し坂になっていた。暗かったのと足を負傷している為、転げ落ちた。
すぐに立ち上がると奥の方から「おじちゃんこっち、こっち」と声が聞こえた。
真っ暗な洞窟の中、100円ライターもない時代。声だけを頼りに、手探りで歩くしかなかった。
じいちゃんはかなり焦っていた。何故なら洞窟に入るとこを相手に見られたからだ。
案の定じいちゃんが少し進むと洞窟に向け威嚇射撃をしてきた。
奥からは女の子と女性の声が交互に声をかけてくれた。
「そのまままっすぐに来て下さい。」
「おじちゃん頭に気をつけて。」
「少し坂になっているので滑らないように…」
じいちゃんは返事をするだけだった。
入り口に着いて中に入ってからも、二人の姿は確認できなかった。
後ろを振り返ると微かな光が見えた。
確実に相手が追ってきてると確信した。
続
怖い話投稿:ホラーテラー 万年みひろ命さん
作者怖話